もっとも危険な段階に進む国会内外の改憲状況
発議阻止のため為しうる限りの大衆行動を!
                         

自民党全国で「草の根」改憲運動展開へ

 自民党は結党以来の宿願である憲法「改正」を本気で実現すべく攻勢に出ている。二月一日に会合を開いた自民党憲法改正実現本部(昨年十一月それまでの憲法改正推進本部の名称を変更し体制強化をはかる)は、タスクフォース(実動部隊)を結成して、全国各地で憲法「改正」の世論を喚起する集会を開くことを決めた。タスクフォースに約五〇人の若手、中堅議員を任命、全国を一一ブロックに分けて責任者を置き、五月の大型連休までに各都道府県で最低一回の憲法集会を開く、とした。憲法集会には、安倍や麻生、石破などの「大物」議員を派遣し、自民党がまとめた改憲四項目の内容を広く周知するという。
 さらに三月の党大会で決定する二〇二二年運動方針に都道府県連単位での憲法改正実現本部の設置を明記することも方針化した。党をあげて改憲をめざす「草の根」国民運動を強力に推し進めようというのである。
 この間改憲勢力が強く求めてきた憲法審査会(憲法審)の毎週開催も実現される成り行きとなっている。二月十日に衆議院で憲法審が開かれたが、新年度予算通過前の開催はきわめて異例で、二〇一三年以来という。これについては、これまで憲法審を開くことに慎重だった立憲が与野党の改憲派の圧力に屈し開催に合意したからだ。
 現在の衆院憲法審の構成(会派別議員数)は、自民(三〇)、立憲(一一)、維新(四)、公明(四)、国民(一)、共産(一)、有志(一)で、改憲派が圧倒的多数である。このような審査会が毎週開催されるとなれば、改憲論議がさらに加速することは火を見るより明らかだ。十日の憲法審でも、与党筆頭幹事の新藤義孝(自民)は「憲法改正に関わる本体論議の時期に来ている」と、自民の四項目を含め改憲の個別テーマに踏み込むことを改めて促した。
 自民、公明、維新、そしていまや国民民主も含めた改憲勢力は、今夏の参院選で改憲発議に必要な三分の二の議席を確保できればその先二〇二五年までは世論への配慮が必要な大型の国政選挙はないことから、この「黄金の三年間」に何としても改憲発議を実現するというタイムスケジュールを描いている。

他国領内での爆撃も「排除せず」の暴論

 実質的な九条破壊の攻撃にも歯止めが掛からない状況だ。
 二月十六日、衆議院予算委員会の敵基地攻撃能力の保有をめぐる論議で、岸信夫防衛相は、立憲の長妻議員の「相手国の領域内にわが国の戦闘機が入って爆弾を落とすことも選択肢として排除しないか」との質問に答え、「自衛のために他の適当な手段がなく、必要最小限度の実力行使にとどまるといった自衛権発動の要件を満たすことを前提に」「排除しない」と明言した。松野官房長官もその後の記者会見で、この答弁について「憲法と国際法の範囲内で、日米の基本的分担を維持する前提の下、あらゆる選択肢を排除しないとの趣旨」と追認し、政府全体の見解であることを明らかにした。
 他国の基地を爆撃することも「自衛権」の範囲、このような論は、ひと昔前であれば「暴走」「暴論」として、即刻撤回を要求されただろう。
 二〇一五年の安保関連法の成立によって集団的自衛権の行使が可能となり、武力行使を伴う自衛隊の海外派遣も例外的に認められるとされてきた。しかし、それは「ホルムズ海峡での機雷掃海」以外は念頭にないなど、きわめて限定的に解釈されてきた。この段階ではまだ憲法上の制約・縛りが働いていた。敵基地攻撃能力保有の議論は、そうした制約=歯止めを取り払うために仕掛けられている。
 防衛省は、この議論が本格化する前から敵基地を攻撃するための護衛艦「いずも」の空母化や、ステルス戦闘機F35Bの配備など、敵地に侵入しての爆撃を想定した兵器を導入してきた。敵のミサイル基地を攻撃するための射程四〇〇キロを超える長射程ミサイルの研究開発にも取り組んでいる。現在の議論はそうした既成事実の上に立って、いよいよこのスタンス(敵基地攻撃=海外での公然たる武力行使も可能)を国の軍事政策のスタンダートとして確定していくことをもくろんでいるのである。政府はこの方向での外交・軍事の基本戦略の再構築を進めており、年末までに改定する国家安保戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画(中期防)の三文書に反映させようとしている。

帝国主義の軍事的圧力こそ最大の「脅威」

 権力の側が繰り出す「反中・反朝鮮」の民族排外主義的政治宣伝が効を奏し、日本社会では、政府の軍拡政策に対しても「中国、朝鮮が相手ならしかたがない」といった世論が支配的となってきている。
二月一日、衆議院は「中国の人権状況に懸念を示す決議」を賛成多数で採択した。決議は、新疆ウイグルやチベット、香港などでの「人権侵害」を攻撃する西側メディアの虚偽宣伝を鵜呑みにした反動的な内容だ。れいわ新選組は反対、それ以外の全会派は賛成した。賛成はしたが共産党は中国政府による人権侵害をより明確にすべきだと不満を表明。維新と国民民主も同様の意見を表明した。れいわが反対したのは「腰の引けた決議を、やってる感を出すためだけにやるな」という理由で、中国に対する認識は共産党などと変わらない。
 この決議に対し、中国外交部の趙立堅報道官は「決議は事実の真相を顧みず、中国の人権状況を悪意をもって中傷しており、国際法と国際関係の基本準則に深刻に違反して、中国の内政に乱暴に干渉するもので、きわめて悪質である」と論評した。
 自公政権に反対する(当然日本の軍事化に反対する)という「野党」側にも、「戦後戦争をしなかった」平和な日本と、一貫して戦争と対立を求める中国・朝鮮といった捉え方(自由と民主主義国日本と人権抑圧と専制政治の中国・朝鮮)が抜きがたくあり、そのため先にあげたような日本の軍拡路線の推進には真正面から対決できず、政府・独占資本から「さあ、みなさんどっちをとりますか」と迫られ、動揺する。国民民主はいち早く大軍拡を進める二〇二二年度予算に賛成した。
 「軍事的脅威」をいうのであれば、世界中で絶え間なく軍事侵略を繰り返し何十万、何百万もの諸国人民を殺戮する戦争犯罪を重ねてきたアメリカ帝国主義の「脅威」こそが問題とされるべきだ。この二月に鹿児島県の海上自衛隊鹿屋基地に米空軍MQ9無人攻撃機を配備する計画が明らかになった。近海での中国軍の活発化などに対応する「情報収集体制」の強化が配備の目的とされている。MQ9は「死に神」との異名をもち、イラクやアフガニスタンでの「対テロ戦争」に投入され、多くの民間人の命を奪った。中国、朝鮮をはじめとしたアジア諸国人民にとってこの殺戮兵器の配備が「軍事的脅威」でなくて何であろう。
 米帝だけではない。昨年は、東アジアからインド太平洋地域において、中国を仮想敵とする大規模な合同軍事演習が、例年参加する米、日、韓、豪だけでなく、英、仏、独、加などの軍隊も加わり、さまざまな組み合わせ・バリエーションで強行された。こうした帝国主義の中国に対する軍事圧力こそが東アジアにおける政治的・軍事的緊張の元凶なのだ。「ウクライナ危機」も構造は同じ、NATOの侵略的東方拡大が真因であるのに、ロシアの「脅威」のみが一方的に煽られている。

三・五国際婦人デー集会に結集しよう!

 敵基地攻撃論のような暴論が出てくるのは、資本家階級の危機意識を反映している面があるのと同時に、権力の側に憲法上の制約を強制する大衆運動の力が弱まったからだ。政府は敵基地攻撃論を憲法とも「専守防衛」の原則とも矛盾しないと強弁している。
 労働組合運動をはじめ改憲阻止を担う大衆運動が後退させられている現実をリアルに認識しつつ、その現実の上に立って、直面する改憲阻止の闘いに立ち向かいたい。
 冒頭で触れたように、自民党は全国的な「草の根」運動を組織して改憲の実現をめざしている。維新も同じ目的達成のために自民とも共闘しながら独自の大衆運動を展開していくだろう。並行してかれらは野党共闘を切り崩し改憲派に取り込む策略を進める。国民はすでに相手側に寝返り、現在立憲に対し連合の右派幹部の力も借りて猛烈な抱き込み工作が仕掛けられている。
 改憲勢力は、参院選、その後の改憲発議、有権者の半数の賛成票が必要な国民投票までを見据えて運動を展開している。かれらは改憲のハードルの高さを十分に理解しているがゆえに、入念に計画を立て、不退転の覚悟でこの運動に臨んでいるのだ。
 ならばわれわれはそれに負けない力と展望とをもった運動を組織し対抗していくしかない。当面は、参院選での改憲勢力の伸張と改憲発議を阻止するために為しうる限りの活動を行なっていこう。反戦平和を訴える三月五日の国際婦人デー集会はそのための重要な行動だ。読者のみなさんの結集を訴える。
【大山 歩】