第四九回衆院選挙の結果を受けて
大衆運動を基軸にした闘いを!
壊憲阻止の結集を現場から強化しよう
                         

選挙結果の概括

 十月三十一日に行なわれた総選挙では、自民党は公示前の二七六から議席数を減らしたが、追加公認した無所属二人を含めて二六一議席を獲得。衆院の常任委員長ポストを独占した上で各委員会の過半数を握れる絶対安定多数(二六一)を単独で確保した。公明は公示前から三議席増の三二議席で、自公の与党合わせて二九三議席となった。
 比例の得票数で前回の衆院選(二〇一七年)と比較してみると、自民:一八五五万→一九九一万で約一三六万票増、公明:六九七万→七一四万で約一六万票増。自民の絶対得票率(有権者全体のうち該当党に投票した比率)は、前回比一・二%増の二六・四%で、安倍政権時の過去三回のいずれの衆院選をも上回った。
 いっぽう、立憲民主党は公示前の一一〇議席から九六議席、共産党は一二議席から一〇議席とそれぞれ後退した(共産の比例の投票数は、前回衆院選の四四〇万票から四一六万票へ、得票率は七・九〇%から七・二五%に後退した)。国民民主党は公示前から三議席増の一一議席に伸長。れいわ新選組は比例で三議席を獲得、山本太郎が東京ブロックで当選。社民党は沖縄二区の一議席で、比例議席は得られなかった。その中で、日本維新の会は公示前の一一から四一と三〇増で、四倍近く議席を増やし大きく躍進した。
 投票率は五五・九三%で、前回を二ポイント上回りはしたが、戦後三番目に低い投票率となった。実に四四%が投票そのものを棄権した。
 立憲、国民民主、共産、れいわ、社民の五党は、今次選挙で全二八九の小選挙区の七割以上にあたる二一三選挙区で候補を一本化した。勝ったのは六二区、勝率は二八%であった。神奈川一三区での甘利幹事長の敗北、杉並区を中心とした東京八区で石原伸晃を落とすといった成果(後述)はあったが、「政権交代」を目標に掲げ選挙戦に臨んだ野党共闘は、その中心政党である立憲、共産の議席減、自公による絶対的安定多数の確保、より急進的な改憲勢力である維新の躍進、といった状況の後退を許した。

強まる右翼勢力による野党共闘攻撃

 こうした選挙結果について、右翼ジャーナリズムは、まるで鬼の首でも取ったかのように、野党共闘への攻撃を強めている。十一月二日付『産經』の主張は、立憲の後退を「惨敗」と決めつけた上で「……枝野、福山両氏は、野党共闘について『一定の成果はあった』と口をそろえた。だが、それよりもはるかに大きな負の影響があったと認識すべきである。立民が、共産から『限定的な閣外協力』を得るという連立政権樹立の方針で選挙協力を進めたことが最大の敗因である。同じ野党でも、共産との連携から距離を置いた国民民主党や維新は議席数を伸ばした。一目瞭然ではないか」と断じた。自民や連合の幹部、国民民主からも、「立憲の後退は野党共闘のせい、共産党と手を切れ」といった内容の反共宣伝が行なわれている。
 しかし、小選挙区での勝利は三割に届かなかったが、一万票差で惜敗した地区が三一あるなど各地で接戦が繰り広げられた。自民も立憲以上に議席を減らしているのだ。『産經』の「惨敗」という評価は野党共闘をなきものにしようとするきわめて意図的・攻撃的な反共キャンペーンだ。
 では、野党共闘を推進した側の選挙総括はどうだったか。
 十一月一日に日本共産党中央委員会常任幹部会名で発表された「総選挙の結果について」は、次のように述べる。
 「日本共産党は、今度の総選挙で、『野党共闘で政権交代を始めよう』と力いっぱい訴えてたたかいました。自民・公明政権の継続を許したのは残念ですが、このたたかいは、最初のチャレンジとして大きな歴史的意義があったと確信するものです。/この選挙での野党共闘は、共通政策、政権協力の合意という大義を掲げてたたかったものであり、一定の効果をあげたことは間違いありません。……同時に、野党共闘は、今後の課題も残しました。とくに、野党が力をあわせて、共通政策、政権協力の合意という共闘の大義、共闘によって生まれうる新しい政治の魅力を、さまざまな攻撃を打ち破って広い国民に伝えきる点で、十分とは言えなかったと考えます。共闘の大義・魅力を伝えきれなかったことが、自公の補完勢力=「日本維新の会」の伸長という事態を招いた一因にもなりました。……わが党は、共闘の道を揺るがず発展させるために、引き続き力をつくします。」
 野党共闘は大きな意義があった。問題はその意義や魅力を十分に伝えられなかったこと。この路線を今後も継続、発展させていく、という総括だ。
 立憲民主党については、枝野代表をはじめとした現在の執行部が敗北の責任をとって退陣を決め、近く新代表を決める選挙が行なわれる。しかし、新体制がどのような顔ぶれになろうと、今次敗北が立憲にあたえたダメージは大きく、右派からの野党共闘叩きが猛烈に展開されるなか、立憲内の「左派」「リベラル派」を孤立・弱体化させ、この党をさらに右の方に誘導する策動、共産、立憲を軸とした野党共闘路線の放棄・修正を迫る流れ、そして分裂工作も含めてこの党の政治的影響力を削いでいく攻撃が加速していくだろう。
 われわれは、現在の、野党共闘の選挙での勝利を唯一の目標とするような路線・発想については、批判をもっている。だが、日本の支配階級が目論む野党共闘を攻撃・破壊することによって、労働者人民への搾取・収奪政策の強化、戦争のできる国家づくり、憲法改悪攻撃をいっそう強力に推し進めようとする動き(ファッショ的な支配体制構築の動き)には断固反対する。
 われわれはこのような支配階級の総攻撃と真っ向勝負のできる強靭な野党共闘を求めている。

原則的立場の再確認

 かねてから主張しているように、われわれは、労働運動、社会運動、政治運動をそれぞれの現場から再生・強化する道こそがいま、日本の労働者階級人民とその指導部に求められていると捉えている。しかしわれわれは、選挙闘争、議会闘争一般を否定はしないし、労働者階級がブルジョワ議会を自らの政治宣伝の場として積極的に利用することの意義・必要性を認める。その立場から選挙中心の発想・運動には反対なのである。労働者人民の闘いの主戦場は、労働現場や地域・学園での大衆運動の場であって、そこでの討論・学習・闘いと結びつかない、日常の労働と生活と切り離された議会闘争や選挙運動は有効な力を持ちえないと考える。
 逆に大衆運動において前進・発展が勝ち取られれば、その動きと結びつき、そこから送り出された政治勢力がより多く議会に進出し影響力を拡大し人民に利する政策を実現していく。こうした観点で議会や選挙における政治勢力の共闘についても考えている。日常的に大衆運動のなかで協働や連携が行なわれ、信頼関係が築かれていれば、議会や選挙での政治勢力の共闘もより強力なものとなる。
 運動中心のものの観方から考えれば、この度の総選挙での後退の基底的・根本的要因は、労働組合運動をはじめとした人民の運動の後退・停滞局面のなかで、いま述べたような前提条件が崩されている状況に求められるだろう。
 小選挙区制という選挙制度の問題、選挙期間の短さやそれに伴う準備不足、敵側の悪質な妨害宣伝等が選挙での後退の要因としてあげられているが、それぞれの現場・地域で日常不断に闘いが展開され、共同行動と大衆的政治宣伝の基盤が強固にできていれば、先に挙げたマイナス要因を減らすこともできたであろう。
 今回の選挙の例をあげれば、三二〇〇票の大差をつけて石原伸晃を破った東京八区の杉並区では、古くは一九五〇年代の原水禁運動以来の反戦平和運動の伝統があり、ここ十数年でも、「つくる会」の教科書採択阻止、3・11以後の反原発運動、戦争法反対、杉並区施設再編、道路拡張計画反対などの課題で地道に続けられてきた地域運動の基盤があった。それらの運動を担ってきた人びとが今回吉田晴美候補の闘いを支えたのである。
 また、六選挙区のうち四地区で野党共闘側が勝利した新潟には、一九六〇年代末からの反原発運動の歴史があって、その蓄積は近年の県知事選挙での野党共闘に生かされ、今次選挙でもその力が発揮された。こうした底力をもつ闘いが必要なのだ。
 選挙を前にしたわずかな期間の共同行動、政党幹部の談合で上から作られるような共闘だけでは、マスメディアを全面的に掌握し、日常的に湯水のようにカネをバラ撒いて地域の既存の組織(町内会、青年会議所等)や業界団体を組織している保守勢力に太刀打ちできるはずがない。
 低投票率や無関心層増大の問題も、同じ視点から考えたい。人民が自ら考え行動する政治主体(真の主権者)となるためには、具体的運動のなかで諸課題と向き合い、その解決のために学習し、いっしょに行動する仲間を獲得する。そうした実践が実を結ぶ経験を重ねることで、人びとは社会を変革する意志を持ち、それを行動に移すことができる。社会に対する批判的観方もそこから生まれる。そうした大衆的政治教育の機能が失われた状況では、投票に行かない無関心層が増えるのはあたりまえであるし、またそのような状況のなかで政治的ポピュリズム台頭の温床も作られる。

対立軸が明示されないなか維新が大躍進

 菅退陣後の自民党総裁選の期間中から、岸田は、それまでの安倍・菅政権からの「路線転換」をアピールするようなスローガン、「新自由主義にかわる新しい資本主義」「分配重視」「金融所得課税の見直し」などを掲げた。しかし岸田は選挙後恥も外聞もなくそうした政策を引っ込め、安倍・菅の亜流であることを証し立てた。選挙戦では、野党共闘側も「分配」を強調する似かよった政策を打ち出し、双方が「バラ撒き合戦」を演じるような様相を呈していく。野党共闘は、安保法制や共謀罪、憲法改悪、辺野古の基地建設といった政治問題(これらの課題は市民連合と結んだ野党共通政策の提言にも入っているのだが)を主要な対立点として訴えることはなかった。沖縄の選挙区においては辺野古新基地の問題を意識的に避けるような状況さえあったと聞く。経済や環境、ジェンダーなど言わば「万人うけ」する問題を訴えることに力点を置いたのだろうが、ここにも集票第一の選挙至上主義、それに乗っかる野党共闘の弱点・限界が見える。
 野党共闘と自公との対立軸が明確でないなかで、それらの「バラ撒き」路線、既存の政治体制の在り方を攻撃的に批判し「自ら身を切る改革」を訴えた維新が人びとの現状への「不満」を吸収する形で大躍進した。日本のマスコミ、野党共闘の間では、維新を自公与党の単なる「補完勢力」と捉える見方が大半だが、欧米では、維新の伸長を「右翼ポピュリスト勢力」の躍進と捉えるメディアが多数ある。たとえば、英紙『ガーディアン』が維新の躍進について、「右翼ポピュリストが大阪で票をかっさらう」といった大見出しで報じていることが、『大阪日日新聞』、『信濃毎日』などの地方紙では紹介されている。維新は国民民主を引き連れ、自民をより右に動かしていく「突撃隊」の役割を果たしていくだろう。岸田政権の閣僚二〇人のうち、一七人が「日本会議」、「神道政治連盟」の両方かそのどちらかに参加している。「リベラル」が売り物の岸田だが、いわゆる「靖国派」がその政権の圧倒的多数を占める。この政権が維新らがつくり出すファッショ的動きに呼応していく危険性は非常に大きいのだ。

加速する改憲策動

 われわれも参加する壊憲NO!96条改悪反対連絡会議の共同代表でジャーナリストの山口正紀氏は、総選挙後の状況について次のように指摘している。
 「自民党の絶対安定多数という悪夢のような衆院選(十月三十一日)から二週間余。与党勝利に加え、維新(日本維新の会)躍進というもう一つの悪夢で心配したことが早くも現実化しつつある。『憲法改正』と称し、平和憲法を破壊する〈壊憲〉の動きだ。維新は国民(国民民主党)を仲間に引きずり込み、〈壊憲〉の主導権を握ろうと策動。自民党も負けじと動き出し、党内右派にこびた岸田文雄首相が『改憲への意欲』を語り始めた。その先にあるのは、『自・公』の与党に『維新・国民』を加えた四党による新たな『壊憲連合』の形成だ。もし来夏の参院選で四党『壊憲連合』が勝てば、憲法は風前の灯となる。」(山口正紀のコラム 〈「任期中の改憲」に動き出した岸田首相〉レイバーネット日本より)
 山口氏が警告するように、総選挙からわずか二週間余りの間に、大躍進で勢いづく維新が先導役となり、自公、国民民主と組んで、憲法を改悪し日本を本当に戦争のできる国にしていくファッショ的な流れが急速に形成されようとしている。
 十一月二日の松井維新代表の「来年夏の参院選までに国会で憲法改正案をまとめ、参院選と同時に国民投票を実施すべきだ」との発言を受ける形で、維新と国民、自民と維新、自民と国民の幹部が相次いで会談し改憲論議を協力して進めることを確認。十一月九日の維新と国民民主の幹事長、国対委員長の会談では、衆参両院の憲法審査会の毎週開催を各党に求めることや今後の国会対応で連携を進めることなどで一致したという。こうした流れのなかで、岸田も十一月十日の会見では「憲法改正についてしっかりと取り組んでいかないといけない」と改憲への意欲を明確に示す。
 山口氏はこのコラムのなかで、こうした動きを後押ししているのは自民党最大派閥の会長となり党内への影響力を増大させた安倍晋三であると分析する。また「緊急事態条項」の創設が改憲の突破口となっていく危険性を強く訴えた。
 岸田政権は、自民党が選挙公約で掲げた、軍事費をGDPの二%水準=一〇兆円台に大幅に増やすことをめざすだろうし、「敵基地攻撃能力」の保有についても安倍・菅政権を引き継ぎ推進するだろう。軍事的な面でも中国に対抗できるように軍備の増強とより自由に海外派兵のできる体制をつくることは、日本の独占資本総体の意志でもある。
 松井が国民投票実施の目途として示した参院選は来年七月である。

運動強化のポイント

 こうした動きを阻止するために運動の強化が求められる。
 第一は、野党共闘(選挙のための共闘)の枠組みを現場の運動に根ざした下からの統一戦線として強化していくことだ。そうした闘いの展開を通じて、労働運動を中心にした大衆運動の地力(じりき)を蓄えていく。
 第二は、壊憲阻止を目指す運動体が中国や朝鮮を敵視する思想攻撃に打ち勝つインターナショナルな観点を獲得することだ。とりわけ「中国脅威論」が壊憲・軍事国家化を正当化する根拠とされている現状では、これは最重要な課題だ。
 第三は、コミュニストとしての課題だ。改憲阻止のためには主義主張、立場の違いを越えて幅広く人びとを結集させる運動が必要がある。われわれもその運動の一翼を担って闘う。と当時に、われわれはそうした闘いのなかで絶えず労働者階級の観点、社会主義革命の必要性を訴える。この闘いはまた、日本国憲法の前文にあらわれた理念の現実化、戦争を拒絶する平和な世界の実現、貧困と格差のない平等に生きられる社会を実現していく闘いでもある。そしてこれら日本国憲法のめざす社会は、資本主義社会であるかぎり、それが古かろうが新しかろうが、けっして実現できないことをあわせて主張していく。
【大山 歩】
(十一月二十三日)