なぜ強行、環境保全にならないサンゴ移植
辺野古基地は琉球弧軍事要塞化の中心
                        

 辺野古新基地建設反対のゲート前座り込み行動に参加するため渡沖中に、名護市労働福祉センターで開催されたヘリ基地反対協議会主催のシンポジウム「サンゴ移植は環境保全となり得るか?」に参加した。埋め立てのための移植を前にした二〇一八年四月二十一日のことであった。

移植サンゴの多くが死滅・消滅

 基調報告は、サンゴ移植の専門家大久保奈弥氏、パネラーとして日本自然保護協会の安部真理子氏が出席した。大久保氏は、「サンゴ移植は、環境保全措置とはなり得ない」(『世界』二〇一七年十二月号)において、沖縄県のHPにあるサンゴ礁保全報告書によって、五年間に植え付けられた七九〇〇〇本のサンゴのうち、九割がすでに死亡していると報告している。安部氏は、六月に東京で開催された集会において、大浦湾について「ジュゴンをはじめ、サンゴ群集、海草藻場、マングローブ、干潟、泥地、砂地が大きな一つのセットとなり、微妙なバランスをとりつつ、現在の状態を保っている生物多様性豊かな肌弱な自然」だと述べている。サンゴの移植は、それだけではなく一つの生態系全体に関わる問題なのだ。安部氏は、新基地建設をサンゴ礁破壊行為と断罪し、「サンゴの移植は、環境保全措置となり得ない」と言っている。沖縄防衛局は、この高水温期の時期に埋め立て海域から絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ九群体を移植したが、すでにそのうちの五群体が死滅、消滅している。
 大浦湾側の基地建設について、国は埋め立て予定海域にある軟弱地盤の改良工事について、追加などの設計変更を県に申請した。

防衛局は県の条件無視して移植強行

 大浦湾には、移植予定の約四万のサンゴ群体が、軟弱地盤の外にある。軟弱地盤には、三万五〇〇〇群体のサンゴ群があり、最高裁判決によって、設計変更が承認されるまで、移植することはできない。二〇一八年四月と六月に、沖縄防衛局は、軟弱地盤外にある約四万群体について、採捕許可を申請した。県は、二度にわたって不許可とした。三度目の申請をめぐって、二〇年二月、農林水産相は許可するよう県に是正を指示した。県は、係争処理委員会に審査を申し入れるも、退けられた。さらに、県は農相が県に許可するよう是正を指示したのは違法として裁判に持ち込むが、七月六日に最高裁で敗訴が確定した。七月二十八日、県は、条件をつけて移植を許可した。その条件とは、水温の高い時期、繁殖期、台風期の移植は避けて適切な移植時期を選ぶこと、移植後ほぼ一週間に一度経過観察を行ない、報告することであった。沖縄防衛局は、県の出した条件を無視し、許可の出た翌日の二十九日から移植を開始した。県は、是正命令を出したが、それにも従わなかった。七月三十日、沖縄県は防衛局に出していた移植許可を撤回した。
 今回の最高裁判決は、辺野古新基地建設で始めて、裁判官五人の全員一致ではなく、県の主張を認める二人の意見がついた。宇賀・宮崎両裁判官は、サンゴ移植の許可処分を行なうには大半の軟弱地盤が占める大浦湾側で確実に事業が実施されることが前提になると述べた。この時点では、埋め立て変更の申請が出されていなかったため、県の「裁量権の範囲の逸脱または乱用とは言えない」とした。判決は、防衛局は護岸工事を実施する位置にある、サンゴ類の移植は必要だと国の側に立った内容であった。玉城知事は、軟弱地盤の改良工事を追加する設計変更の不承認を本丸と位置づけている。
 八月二日、防衛省は、農水産相に県の承認撤回を不服として、申し立てを行なった。四日、県は意見書を提出するが、農相は県の許可撤回の執行を停止した。六日、防衛局は移植を再開した。
 採取場から二キロ沖合いにある移植場では、ハンマーや針金プレスで岩盤を平らにして、そこにキクメイン科の手のひらサイズのサンゴ一二〇群体が植えつけられていた。作業員は、素手で水中接着剤をダンゴ状にし、サンゴに付けて海底に固定する。作業中、辺りの海水はすっかり白濁している。この接着剤「エスダイン・ジョイナーW一般用」は、「水中生物に非常に強い毒性」「皮膚に触れると中毒やかぶれを起こすおそれ」「アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ」等がある。海中生物、作業員への影響が危惧される。
 N2にある約八三〇群体を辺野古先南側の移植予定地に移植する。K8護岸とN2護岸の間に防衛局が今回埋め立てを強行しようとしているエリアがある。ここには、移植が許可されていない大型サンゴが生息しているが、埋め立て工事による影響はないと防衛局は強弁している。今回、強硬に移植を行なうのは、軟弱地盤にかからない地域の埋め立てを強行し、少しでも工事を進捗させようと言う国の思惑がある。そこには、サンゴ礁を保護しようと言う考えなど微塵もない。離島奪還作戦では、住民への安全対策はまったく考慮されていない。沖縄戦の再来である。環境破壊に走る防衛省の行為は、県民の命の犠牲をもいとわない国の軍事戦略と重なってみえる。
 日本の国家権力は、何故このように辺野古新基地建設にこだわるのか? 地図を眺めてみよう。琉球孤は、種子島・馬毛島・奄美大島・沖縄本島・宮古島・石垣島・与那国島であるが、辺野古は沖縄本島の真ん中にある。琉球孤の軍事要塞化が進んでいるが、

日本帝国主義こそがアジアにおける脅威

 その中心に辺野古はある。本紙二〇二一年三月号には、『沖縄タイムス』の阿部岳・共同通信の石井暁両記者のスクープ記事について吉川記者が書いた記事がある。二〇一五年に、辺野古新基地に陸自所属の日本の海兵隊といわれる「水陸起動団」を常駐させることで合意したという内容である。陸自と米海兵隊が調整し、陸自施設の計画図案や給水計画などが作成されて具体的に関係先に内容を提示したことが判明している。
 二〇一八年三月、陸自に島嶼防衛を主な任務とする水陸起動団が創設された。現在、恒久配属先とされている長崎県佐世保市相浦に団の本部が置かれている。約三千人の部隊になる予定である。離島防衛戦争といわれるもの全体の構図は、佐世保など九州北部に作戦部隊を置き、沖縄本島の辺野古新基地やキャンプシュワブ、キャンプハンセンに作戦を実行する司令部を置き、奄美大島には後方支援のための弾薬庫などを、宮古、石垣、与那国に前線基地をつくるというものである。自衛隊は米軍と一体となって、作戦を実行する、両者の関係は、日米共同軍事演習で深まっている。これらが、辺野古新基地建設の強力な推進力となっている。存在しない中国脅威論を梃子とした軍国主義の進行は、日本帝国主義こそがアジアにおける脅威なのだという事実を明らかにしている。
 【阪上みつ子】