東海第二原発運転差止判決を生かそう
カギは粘り強い住民運動
                          

 六月五日、日本教育会館でたんぽぽ舎三二周年記念講演があった。講師の一人、大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)の「東海第二原発再稼働阻止に向けて―水戸地裁勝利判決を生かそう」というお話が印象深かったので紹介したい。

たまたまよい裁判官に当たったのではない

 二〇一二年の提訴後九年を経て、三月十八日、水戸地裁の前田英子裁判長は、日本原子力発電(原電)に対し東海第二原発の運転差し止めを命じた。判決は、「避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状態で、現法制下において少なくとも三〇㎞圏内の原告住民らには、人格権侵害の具体的危険がある」としている。大石さんはまず、なぜ住民側を勝たせる判決が出たのかについて、その背景を、次のように語った。
 「法廷は毎回支援者で埋まっていた。そして、原告自らも準備書面を出し、口頭弁論も行なったことは、裁判官に影響を与えたと思う。とくに、第二回口頭弁論での論争は裁判官を大きく動かした。当時、裁判長は、原発が安全かどうか審査した後でなければ、福島原発事故被害の実態の訴えは認めないという姿勢で、原告が法廷で被害の発言を始ると、『だまりなさい!』と声高に戒めた。途端に法廷は騒然となり、裁判長は次回期日も決めずに閉廷し、逃げた。その後、とうとう『認めます』となり、第三回目以降、原告は福島の現状がどうなっているか、これが東海第二で起きたらどうなるかという主張をした。全三三回の口頭弁論のうち一九回は福島事故被害に関する準備書面を用意した。その結果、裁判官が「人格権侵害」の実態を重く受け止め、今回の判決につながったと考える。裁判官を動かしたのは、原告団・住民運動の力だと思う。」

判決の何に着眼するか

 大石さんは、以下の三つの判断が、「当事者間に争いのない前提事実」としていることがすごいと強調した。
 ①原発の運転は、放射性物質を多量に発生させる。過酷事故になると周辺住民に深刻な被害を与える可能性を本質的に内在している。
 ②原発事故は、対策が一つでも失敗すれば、最悪の場合、破滅的事故につながる。他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる。
 ③自然災害は、最新の科学的知見によっても予測困難。事実、専門家の意見を尊重して規制が行なわれていたにもかかわらず福島第一原発事故が発生した。

深層防護の第五層欠落

 判決は、福島事故を教訓とするならば、国際基準となっている国際原子力機関(IAEA)の深層防護の第一層から第五層の防護レベルのうち一つでも欠けると具体的危険性が生ずるという前提に立っている。
 (注:深層防護とは原子力安全を達成するための手段。五層の対策から成る。第一層は異常の発生防止、第二層は異常の拡大防止、第三層は異常の影響緩和対策、第四層は過酷事故対策、第五層は防災対策)
 結論として、第一~四層までの技術論については、規制委員会の判断に看過し難い過誤、欠落があるとまでは認められないが、避難計画等の第五層は、きわめて不十分で、人格権侵害の具体的危険性があるとした。
 第五層をめぐっては、規制委の規制基準とすることを求めるかどうかで、弁護団と原告団の間で以下のような議論があったという。
 「弁護団は、避難計画の実効性を審査することが規制委の規制基準に入っていないこと自体が違法、という論理の組み立てだった。一方、原告団は、規制委の審査では、再稼働ありきで、第一~四層までを合格させてきているので、第五層も簡単にお墨付きを与えてしまうだけだと反論した。規制委は、避難問題は地元の判断と言うが、地域の人が決められる制度は存在しない。だから司法に審査してほしいと訴えているのだという論理で、原告団として準備書面を出した。それで裁判所が、第五層の防護レベルを審査してみたら、実行可能な避難体制とは到底言えないという判断になった。裁判所が住民を勝たせたのは、福島事故被害の歴史事実を重く受け止めた結果ではないか。つまらない判決を書く裁判長というのは、被害の歴史事実を見つめていないと思う。」

水戸判決を生かすとは

 原告側は、福島原発事故の責任は司法にもあると、次のように主張したという。「東海第二の最初の裁判(一九七三年提訴)は最高裁までいったが、その結論は、住民の心配は杞憂にすぎない、というものだった。どこでもその程度の司法判断だったから福島原発事故につながった。だから裁判長の判決はとても重いことなのだと訴えた。水戸判決の行間には、『司法が法で判断できるのはここまでなの、ごめんね。この判決を利用して住民の粘り強い運動で止めてね』、という裁判長の気持ちが込められているような気がする。水戸判決は、国策に対する地域自治の『抵抗の道筋』を敷いてくれた。闘いは来年が山場になる。原電は二〇二二年秋の再稼働を目指している。水戸判決を生かし、避難計画について、自治権/原発拒否権をめぐる自治・連帯の運動として進めたい。勝手なことはさせないよう、多重な住民運動で包囲していきたい。」

 わたしは、大石さんのお話から裁判闘争のあり方について多くの示唆を得た。
 水戸地裁判決は全国の反原発運動で生かすことができる。裁判の舞台は東京高裁に移る。傍聴に駆けつけよう! そして、東海第二原発再稼働阻止のために、首都圏全体で運動を盛り上げていこう!  
【中村泰子】