コロナ禍に乗じ〝火事場泥棒〞的な反動攻勢
われわれの方が後手に回っていないか                       

 新型コロナ感染症が変異株への置き換えをともなう第四波の感染拡大を迎えるなか、各地に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されている。だが、感染症を抑え込む対策の基本(徹底した検査と隔離に基づく適切な治療の実施、それを可能とする公衆衛生・医療体制の抜本的拡充、全面的な休業補償)を欠いた中身のない措置を何度繰り返しても感染の終息にはつながらない。どんなに危機的な感染状況になろうと、経済活動(利潤獲得活動)を止めない(止めれば必要になる財政出動はしたくない)、東京オリパラは何がなんでも強行する、それが政府・独占の至上命題であるのだ。
 この間、コロナ禍によって生じた諸矛盾はことごとく勤労人民と社会的弱者に転嫁され、失業や貧困が増大し、自殺者も急増した。しかし、菅政権は、現在もっとも力を注がねばならない感染症対策の体制強化、弱者支援の課題には背を向け、国民投票法改悪をはじめとする反動立法の制定に血眼になっている。

今国会で成立が狙われる反動立法

 行政のデジタル化によって個人情報を国家権力が一元的に管理する仕組みをつくるデジタル庁関連法は、わずか五十数時間の審議で五月十二日の参議院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立した。一八、一九歳の少年事件を厳罰化するなどの改定少年法も、五月二十一日の参議院本会議で可決・成立している。
 自衛隊・米軍の基地周辺や国境離島の土地利用を規制する重要土地規制法案は、基地や海上保安庁の施設、原発などの周囲約一キロや国境離島を「注視区域」や「特別中止区域」に指定、国が土地利用の目的などを調査でき、不適切な利用と判断すれば、中止勧告や命令を出すことができ、応じなければ罰則を科すこともできる、という内容だ。反基地運動や反原発運動を標的とした弾圧立法として機能する危険性が非常に大きい。この法案についてもすでに衆議院で審議が始まっている。
 改憲に向けた手続きを定める国民投票法(二〇〇七年の第一次安倍政権時に成立)の改定案をめぐる情勢はきわめて厳しい局面を迎えている。国民投票法は憲法改悪を押し進めるためのもので改定などせずに即刻廃止すべき法律だ。
 二〇一七年に自民・公明・維新がこの改定案を提出したが、改憲に慎重な世論を背景に前国会までは憲法審査会での実質的な審議は行なわれなかった。しかし、今国会の憲法審査会では、自公、維新の圧力に屈した立憲民主党が修正で合意し(CMや運動資金の規制、最低投票率といった重要案件は棚上げにしたまま)、国民民主党も賛成して、五月六日の審査会で可決、十一日に衆議院を通過した。
 五月三日の改憲派の集会では、緊急事態条項の創設などを念頭にコロナ禍の下で明文改憲を進めることに関し「ピンチをチャンスととらえるべきだ」との意見が強く出された。同日の『読売』の社説は、こうした動きに呼応するように、新型コロナの状況を例に挙げ緊急事態条項導入のための改憲の必要性を訴えた。
 緊急事態宣言は、回を重ねるごとに感染症対策としての実効性は乏しくなる反面、罰則の導入など管理・統制的内容は逆に強化されている。度重なる宣言の発出には管理・統制されることに人民を「慣れさせる」「無抵抗にさせる」効果がある。集会などの大衆行動も中止や縮小を迫られている。ワクチンの大規模接種事業の運営を自衛隊が担う動きも非常に危険だ。

狙いは人民の起ちあがりを抑え込むこと

 われわれはかかる「火事場泥棒」的反動攻勢の本質(個々の法案や政策の問題点ではなく全体を貫く性格)をはっきりと見定める必要がある。それは一言でいえば、支配体制の危機に瀕して人民に対する予防反革命的な抑圧体制を抜本的に強化・再構築する狙いである。
 新型コロナのような感染症を封じ込めるには人流をともなう経済活動を抑制することが必要になるが、それは資本の拡大再生産=剰余価値を生み出す活動を阻害することになる(二〇二〇年度のGDPは戦後最大の落ち込み、休廃業は過去最多等を見ても日本の資本主義がきわめて大きなダメージを被っていることがわかる)。感染症対策の徹底はそもそも資本の欲求(利潤拡大の欲求)とは相容れない。
 資本主義社会はこの二律背反的矛盾に逢着し、この一年あまり経済活動の規制と再開を繰り返してきた(このような状況はまだしばらくの間続くにちがいない)。その中で資本主義に起因する矛盾があらゆる領域で噴出し、犠牲を強いられた人民の不満・不信はもはや極限にまで高まっている。その矛先が社会変革の方向にむかう事態にそなえ、あらかじめ人民の生活・活動を徹底的に管理し運動を抑圧・解体できる体制を早急に整備しようとしているのである。新型コロナのパンデミックで顕在化した資本主義の危機の深刻さゆえに支配階級は非常な危機意識と覚悟をもって事に当たっている。なりふりかまわぬ運動つぶしの攻撃が襲ってくるだろう。
 では、対抗するわれわれの側に相応な危機意識と覚悟があるか。まずその自問が必要である。敵は本気で運動を根絶やしにするつもりだからだ。そしてここでは、支配階級の危機回避策のもう一つの柱がこれまでいくども論じてきた、中国、朝鮮の「脅威」を煽り人民の現状に対する不満を外部にむけさせる民族排外主義のイデオロギー攻撃であることを再確認しておこう。

6・5集会に結集を

 今国会で狙われていた入管法の改悪が阻止された。入管法の問題点については本紙二〇二一年三月号の付録で指宿昭一弁護士が的確に論じているのでぜひ参照してほしい。その指宿弁護士を先頭にした法律関係者や移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、全統一労働組合など長年にわたり入管行政の問題点を告発し運動を組織してきた人たちが、この間の改悪反対運動をリードした。連日にわたる国会前座り込みや名古屋の入管施設で病死したスリランカ人女性への非人道的対応の実態解明を求める行動を粘り強くかつ果敢に展開し、世論を確実に動かすことで改悪阻止をかち取ったのだ。
 重要土地規制法案に対しては、沖縄で反基地運動を闘っている人たちが真っ先に反対の声をあげた。この法律が適用されれば、たとえば宜野湾市はほぼ全域が「注視区域」に入り住民が丸ごと監視対象になる。宜野湾市長をつとめた伊波洋一氏は院内での行動で「市民を監視するための戦時体制をほうふつとさせる法律だ」と廃案を強く訴えている。沖縄弁護士会も五月二十一日に法案に反対する会長声明を出した。今号には沖縄からのレポートを載せたが、そこにも示されているように、コロナ感染拡大の厳しい条件下にあっても、辺野古をはじめ沖縄各地の活動家は感染予防を徹底させながら止むことなく闘いを続けている。
 大衆運動に基礎を置く決してあきらめない闘いが状況を変えていく。繰り返し述べるように敵の攻撃が激しさを増す状況は裏を返せばそれだけ体制が危機に瀕し矛盾が増大しているからだ。状況の分析を科学的に行ない運動を組織していくコミュニズムの思想・党派性がいまこそ必要だ。
 国民投票法改悪等の反動攻勢が強まる情勢をうけて、壊憲NO! 96条改悪反対連絡会議は、六月五日、内田雅敏弁護士を講師に〈自民党の改憲発議を「STOP」させよう!〉労働者・市民集会(四面案内参照)を開催する。読者の皆さんの結集を呼びかける。
【大山 歩】