中国海警法の「脅威」は真実か
反中国を口実とした軍事対決路線反対

                         
 米国バイデン政権は三月三日、当面の外交・安保戦略を公表し、「暫定国家安全保障戦略ガイダンス」と題した文書のなかで、中国にたいし「急速に自己主張を強めており、安定し開かれた国際システムに挑戦する能力がある、唯一の競争相手だ」(『朝日』四日付)と断じ、北大西洋条約機構(NATO)、豪州、日本、韓国との同盟関係の再構築、強化の必要を挙げた。
 同日のブリンケン国務長官による外交政策に関する包括的な演説においても、対中関係について「二一世紀における最大の地政学的な試練」との厳しい認識を表明した。
 こうして進められたこの間の外交日程は、主要には「中国を念頭において」国際帝国主義の尖兵としての役割、その意思を固め、国内においては超党派による反中世論の後押しを受けたバイデン政権の対中国アプローチを端なくも示すものとなった。
 ・十二日 日米豪印首脳会談
 ・十六日 日米2プラス2、日米外務・防衛相会談
 ・十八日 米韓2プラス2
 ・十八~十九日 米中会談

米中会談をめぐって

 十八日からの米中ハイレベル対話ではっきりしたのは、バイデン政権は、トランプ政権と変わらず中国を「戦略的競争相手」とみており、ブリンケン国務長官の香港、台湾、新疆ウイグルなど「中国脅威論」を列挙した冒頭発言にたいする楊潔篪中国共産党中央政治局委員(中央外事工作委員会弁公室主任)の反論には、瞠目すべき内容が含まれていた。会談後の中国側発表を見てみよう。「中国側は、中国共産党の執政地位は歴史の選択であり、人民の選択であると強調した。中国の発展には中国共産党の指導が欠かせない。これは中国人民の高度な共通認識であり、国際社会の普遍的な認識でもある」。「中国は一貫して人権の保護と促進を重視し、民生の改善、人間の全面的な発展の促進を重点としている。中国の特色ある社会主義民主は全人民民主、協商民主であり、その核心は人民主体である。中国は自国の民主制度と価値観を他国に押しつけることはなく、同時に自国の政治制度と価値観を断固として守り、ともすれば人権問題を看板にして中国側を非難し、泥を塗ったり、中国側の内政に干渉したりすることに反対している」(二十日)。

中国海警法と尖閣諸島問題

 日本のメディアはこうした中国側の主張をまったく伝えない。「尖閣諸島周辺の日本の領海内に中国公船が侵入」といった報道ばかりが日常茶飯に垂れ流されている。ここでは、「日米2プラス2」から、日米が「中国名指し批判」の主要な論点とし、「深刻な懸念」の対象としている中国海洋警察法(以下、海警法)と尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権をめぐっての政治的・軍事的悪用とそれの及ぼす影響に問題を限定して考えてみたい。なお日中双方が領有権を主張する尖閣諸島問題の歴史的経緯については、本号掲載の村田忠禧氏の論考を参照していただきたい。
 民主党菅政権(前原外相)下の中国漁船衝突事件(二〇一〇年)、野田政権による尖閣三島の「国有化」宣言後の二〇一三年に、中国海警局が水産・保安など五つに分かれていた海上保安機関を統合して発足した。二月一日に施行された海警法は、海警局が中央軍事委員会の指揮する「武装警察」傘下に置かれた(二〇一八年)ことで、帝国主義諸国の「警戒心」が高められていた。
 在日中国大使館の説明によると、「通常の立法活動」という文書を発表し(二月二日)、「職能・位置付け、権限・措置、保障・監督を明確にし、海警の権益擁護のための法執行と対外協力で依拠すべき法を整備した」とのこと。さらに
 ① 国際法と国際慣行に完全に合致し、各国の海上警察に関する法律とほぼ同じ②武器の配備・使用は世界の沿海国で通常行なわれており、極端に悪質な犯罪取り締まりが目的
 ③ 管轄海域は明確で、中国の海洋権益の主張と海洋に関係する政策に変化はない(『海峡両岸論』第一二三号岡田充共同通信客員論説委員)

日米政府が懸念する海警法の「問題点」

 海警法について日米政府は「問題点」を二つ指摘する。第一点は海警局の「準軍隊化」の問題。これについては中国海警局の元幹部は『朝日』の取材にたいし、「米沿岸警備隊も軍に属しており、ある意味中国海警のモデルだ。とやかく言われる筋合いはない」と反論(『朝日』二月二十四日)。「日本の海上保安庁はGHQ軍政下の一九四八年沿岸警備隊をモデルに創設された。自衛隊法では、首相の指示で海保が防衛省の統制を受ける規定があり、有事では自衛隊の補完機関になる。」(岡田)岡田氏はつぎのようにも指摘する。〈ただし海上保安庁法は、「軍隊の機能を営むものと解してはならない」とも規定する。これは「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」を定めた憲法九条に抵触しないよう配慮した規定とみるべきだろう。〉
 今回の海警法制定は運用が先行していたのを制度として整えたものだとの説明が合理的であると考える。
 第二点は武器使用の問題。日米両政府、メディアは海警法が武器使用を認めていることから尖閣諸島を「武力で奪おう」としていると喧伝している。中国の主権を侵害した場合に、外国公船に武器使用を認めることが国際法違反かどうかは、グレーゾーンとみて検討課題とみる解釈がある。米沿岸警備隊は使用条件を定めたうえで武器使用を認めている。「海上保安庁法は、武器使用の対象から外国公船を除外する一方、民間船への使用は除外していない」(同右)。
 尖閣諸島をめぐる事例でみてみよう。海警法が施行されて以降の二月六日未明、「尖閣諸島沖の日本領海内に中国海警局の公船二隻が侵入した。
 海警法施行後、初の侵入だった。海警公船は日本漁船に数百メートルまで近づき様子を探り、出動した海上保安庁の複数の巡視船とのにらみ合いは八時間半に及んだ。(中略)にらみ合う海保と海警の後ろには、自衛艦隊と中国軍艦がそれぞれ控え警戒を続ける」。(『朝日』二月二十四日)茂木外相は「海警船舶の活動は国際法違反だ」と明言(九日)。
 尖閣諸島については、日中両者が主権を主張しているため、どちらの領海かは不明である。日中共同宣言(一九七二年)以来中国側は、黙契の合意として領有権問題は「棚上げ」にし、日中双方よる共同開発(東シナ海ガス田開発)を提案している。それを反故にしてきたのは日本側である。
 一一年前の中国漁船衝突事件を契機にして、偏狭な排外ナショナリズムを煽り、中国敵視政策にもとづき反中感情を蔓延させ、日中両国人民の分断、連帯と協働の道を削いできたのは誰だったのか?
 尖閣諸島は「核心的利益」だと中国側が主張しているという報道は誤りだ。中国の領土の一部であるチベット自治区、新疆ウイグル自治区、香港、台湾省をめぐる問題については外部からの内政干渉を許さない「核心的利益」という立場を中国政府は堅持している。しかし、今回の日米会合の共同声明にあるような中国の東シナ海、南シナ海における「海洋進出」にたいする「航行の自由作戦」などへの対処としては、中国は「核心的利益」という立場は取らず、領有権を争う関係国との話し合い解決を目指している。

海警法を口実にした軍備拡大

 政府・自民党は、中国海警局などの乗組員が尖閣諸島に上陸しようとした場合の対応について、正当防衛や緊急避難に当たらなくても、海上保安官が相手に危害をあたえる可能性のある「危害射撃」を行なうこともあり得るという見解を示した。
 二〇〇一年十二月、海保の巡視船が、朝鮮工作船とみられる「不審船」に武力行使したのを忘れてはいまい。このときの法的根拠は、海上保安庁法ではなく、漁業法の「立ち入り検査忌避」だった。
 尖閣諸島を外国の武装勢力が占領した場合、日米によって「奪回」する訓練を年内にも実施しようとする動きもある。
 日米2プラス2でも、沖縄県民の圧倒的な民意を踏みにじり、米日共同使用も想定した辺野古の新基地建設を「唯一の解決策」と繰り返し、固執し続けることには、中国・朝鮮敵視政策によって、関係諸国人民のインターナショナルな団結と連帯を削ぐ反動的な意図があるとみなければならない。
 南西諸島への自衛隊配備、長射程ミサイル導入などの敵基地攻撃能力の確保、鹿児島県馬毛島基地化・米空母艦載機着艦訓練移転等、民意無視の軍備増強政策が進められている。日米共同発表にも「日本は国家の防衛を強固なものとし、日米同盟を更に強化するために能力を向上させる」と明記された。
 「尖閣」「南シナ海」など「中国の不当な海洋権益に関する主張及び活動への反対」(日米2プラス2)を口実にした日米の対中国緊張激化・軍事対決路線とのたたかいが開始されなければならない。
 【逢坂秀人】