勝利判決を次の闘いにつなげよう
郵政労契法二〇条裁判最高裁判決に
                         

 十月に出された三つの労働契約法二〇条裁判最高裁判決のうち、十五日に出た日本郵便の判決について述べる。二〇一四年に東日本三名、西日本は九名の原告が提訴したことによって裁判は開始された。原告たちはどちらも郵政ユニオンの組合員である。それぞれ東京と大阪の地裁・高裁段階で「格差は不合理」という判断を引き出し、拡げながら、最高裁で合流。判決内容はすでに知られているので詳細は省くけれども、扶養手当、祝日休、年末年始勤務手当、夏季・冬季休暇、有給の病気休暇など、上告が受理され会社と争った五項目すべてで格差の不合理を認めさせた。画期的な勝利である。なお労契法二〇条は今年四月からパートタイム・有期雇用労働法の八条と九条に移行している。二日前の十三日メトロコマース及び大阪医科薬科大学の判決とはたしかに方向が違うように見える。西日本裁判を担当した一人、森博行弁護士は十三日と十五日を比べて前者は使用者側に、後者は労働者側に「顔を向けた」判決と評した。そうなのであるけれど、ミソは、顔は右に左に振りながら、最高裁判所の身体全体の向きはそう違ってはいないのではないか、という点である。二〇一八年十二月にガイドラインとして出され、今年四月から施行となった「同一労働同一賃金」法にどちらも沿っているからだ。確認しておかなくてはならないのは、第一に、同一労働同一賃金は基本賃金(主に基本給)において実現されなければならないということだ。これを抜きに諸手当だけでは、正規と非正規の大きな格差を縮めることには、ゼロではないけれども、いくらもならない。第二に、仕事を基準に賃金を決めるのでなくては同一労働同一賃金は実現しないということだ。その仕事にどれだけの賃金を払うかが決まっていなければ同一ということの量りようがない。ところが日本の正規雇用は人基準で賃金が払われる(職能給)。在職が長くて定期昇給をくり返してきた人と年数が浅くて定期昇給の回数が少ない人とでは、全く同じ仕事を普段やっていても賃金は違う。すると正規雇用同士でも同一年齢あるいは同一勤続年数同一賃金というのはありえても同一労働同一賃金にはならない。では非正規雇用は仕事基準で賃金が払われているかといえば、これも違う。非正規なら低賃金でいいという「作られた常識」によって最賃ギリギリのところに貼り付かされている。

ガイドラインをどう乗り越えるか

 日本政府の「同一労働同一賃金」ガイドラインは、賃金の決まり方が正規と非正規では違うという肝心のところに踏み込まず、基本賃金における巨大な格差には手を触れない。日本郵便判決で格差を不合理と認めさせた諸手当は、基本賃金との関連は薄い。それらについては譲るのはやむをえないと支配層は観念したようである。もちろん闘ったからこそ観念させることができた。いっぽうメトロコマースの退職金、大阪医科大学のボーナスは、それらの額は基本給に基づいて算出される。基本賃金との関係が深いし、ここを譲れば資本の側にとっては諸手当よりも持ち出しが大きい。だからビタ一文出さないということだろう。日本郵便もボーナスは地裁段階で通らず、上告は受理されなかった。また裁判が開始された同じ二〇一四年、郵政では正規雇用の中に「新一般職」という低賃金の雇用区分が新たに作られた。月給制だが昇給が圧縮され、時給換算すると非正規雇用とほとんど変わらない。だから原告側は基本給については初めから争わなかった。
 どちらの判決もガイドラインに沿っていると述べた所以。同時に、十三日の判決はガイドラインに照らしても労働者に辛い。メトロでは五人の裁判官のうち一人は反対意見を書いたし、ガイドライン策定をリードした水町勇一郎・東大教授も翌日の朝刊に批判的コメントを出した。「同一」を逆手にとって、「職務の内容」に違いがあることを理由に、格差を不合理とまでは言えないと逃げた判決で、そんな逃げを許さないためにも、現局面では「均等」の理念を改めて強く押し出そう。その上で、ガイドラインそのものを乗り越えなくてはならない。「通常の労働者」(ガイドラインの用語)ではないがゆえに低賃金でかまわないとされてきた非正規雇用労働者の賃金を仕事基準へと確立していく方向だ。仕事基準なら企業を横断する。日本郵便が物流業に重点を移しつつある中で、物流業において企業横断的な仕事基準の賃金を闘い取っていくことは日本の労働運動の宿痾たる企業別分断状況を克服していく巨歩となりうる。併せて正規雇用労働者の賃金も、切り下げ攻撃を阻みつつ仕事基準に仕立て直すことによって日本版ではない国際基準の「同一労働同一賃金」に進もう。裁判の勝利に続いて、現場の労働運動が前に出るときである。
 【土田宏樹】