第三波に突入した新型コロナ感染症
政府の経済優先政策から労働者人民の生活と健康を守ろう!                          

 十一月十八日、新型コロナウイルス感染症は一日の新規発生数が初めて二〇〇〇を超え、全国で二二〇二、東京都四九三、大阪二七三、北海道二三三であった。八月を頂点とした第二波が日本を襲う中、政府は流行の収束を確認しないまま経済浮揚を優先する政策変更を行なった。すなわち、七月二十二日「GoToトラベル」キャンペーンを東京発着以外で開始し、十月一日には東京発着も追加された。現在は、「GoToイート」キャンペーンが加わり、政府による感染予防対策は消滅し、感染予防はもっぱら個人予防(マスク、手洗い、物理的距離など三密回避)に委ねられることになった。政府は経済優先、感染予防は労働者人民一人一人の責任、まさに菅首相のいう「自助」努力第一主義そのものである。
 果たして、十一月に入ると新型コロナ感染症の新規感染は劇的に拡大した。この責任を菅政権はどうとるのか。十一月十三日、菅首相は新型コロナ禍下の観光業や飲食業を支援する「GoToキャンペーン」の見直しや緊急事態宣言の発出には慎重な考えを示し、「専門家が現時点ではそのような状況にはないとの認識を示している」ことを理由にした。加藤内閣官房長官はじめ政府高官は金太郎飴のようにこの菅首相の言い訳を繰り返している。日本医師会他多くの医療団体が深刻な感染大と医療崩壊の危機について再三警鐘を鳴らしているにもかかわらず、これをまるで無視している。「ファイザー」や「モデルナ」など外国企業が急開発した新型コロナウイルスワクチンにすべてを託し、それが東京オリンピック開催を含めすべてを解決に導くという"賭け"に労働者人民を引き込もうとしているのだ。
 米グーグルによる数理モデルと人工知能(AI)を使った「新型コロナウイルスの感染予測」によると、十一月十五日から十二月十二日の二八日間で、日本では死亡者が五一二人、陽性者が五万三三二一人と予想されている。直近四週間の実数の約二倍である。政府の無策は悲劇である。

経済を優先する菅政権

 政府は、感染症対策の司令塔機能を強化するため、内閣官房に「感染症対策官」を新設する方向だ。これは、安倍=菅両政権に共通する権力集中の欲望の表れだ。権力に都合のいい意見だけ集め、少数の人間だけで政策を強行していく姿勢は、民主主義とは程遠く、おそらく会議録もなく検証もされない無責任の極みとなるだろう。
 新型コロナウイルス感染症の流行開始時、安倍政権は一〇〇兆円の特別予算(国債発行つまり将来人民の肩にのしかかる税金)を組み流行対策にあたるとした。日本での流行はすでに一〇か月を経ようとしている。その間に多くの労働者人民・学生は、仕事を追われ、家を追われ、借金まみれになっている。かれらが「GoToキャンペーン」で救われるだろうか。否である。
 安倍=菅政権の経済優先策は徹底している。労働者人民と零細事業者に対する救済策はお座なりである。大企業、資本家、株主の救済策にはよほど熱心だ。三月の緊急事態宣言で一時大暴落した株式市場は政府による財政出動や金融緩和、さらに日本銀行による株式市場への六・七兆円もの資金投入により十一月六日には二万四三二五円という高値となり、さらに上昇中である。その結果日本の大富豪(大株主)三五人の資産が計二〇兆円を突破した。トップはファーストリテイリングの柳井正の三兆九〇〇〇億円、二位はソフトバンクの孫正義の三兆四五〇〇億円である。
 かれらの資産は新型コロナ禍下の三月から八か月間で八兆円も急増した。新型コロナ禍下で労働者人民が塗炭の苦しみに沈む中、富裕層ばかりに富が集中するように経済対策が打たれたのだ。安倍=菅政権の対策の基本は、観光シーズンに感染拡大の影響ができるだけ縮小するように装い、制御不能な感染拡大によって政府の安定性に傷がつくことを避けることであった。そして政策の基準とされたのは資本主義が適切に機能することに尽きたのだった。そのために労働者人民の生活と健康は犠牲に供された。労働者人民は怒りに燃えるべきだ。

経済優先で疲弊する労働者人民

 総務省の労働力調査(九月分)によれば非正規の労働者は前年同月比で一二三万人減少した。七か月連続の減少である。完全失業者は二一〇万人で前年同月比四二万人増、八か月連続の増加である。厚労省によればコロナ関連の解雇・雇い止めは九月二十三日時点で六万人を超えた。十月に自殺した人は全国で二一五三人、昨年同時期より六一四人(四〇%)増加した。今年七月以後四か月連続で増加し、とくに女性が大幅に増加した。自殺に取り組むNPO法人「ライフリンク」は、「新型コロナ感染症流行の影響が長期化して雇用や生活、人間関係などが悪化したことが関係あるのではないか」と指摘する。
 新型コロナ危機以降、早期退職や希望退職を募集する上場企業が続出し、東京リサーチの調査では十月末で昨年の二倍、七〇社にのぼっている。
 全日空は希望退職三五〇〇人を募集し、賃金カットで年収三割減、三菱自動車は希望退職五〇〇~六〇〇人募集、シチズン時計は希望退職五五〇人募集、アパレル・ワールドは二〇〇人の希望退職募集、三六〇店閉鎖、外食・ロイヤルHDは希望退職二〇〇人募集、外食で最大規模などなど枚挙にいとまがない。また十一月十日までに判明した「新型コロナ」関連の経営破綻(負債一〇〇〇万円以上)は、二月からの累計が全国で六七四件(内六一二件がすでに倒産)に達している。
 生活が困窮した所帯に国が貸し付ける生活福祉資金の特別貸付(「緊急小口資金」や「総合支援資金」)ですら、申請を窓口で受け付けない"水際作戦"が全国的に起こっているという(『しんぶん赤旗』、十一月十四日)。また、勤務先から休業を命じられたのに、休業手当がまったく支払われていない非正規労働者の割合が正社員の二倍の三三・四%に上る(『西日本新聞』、十一月十五日)。入学したもののキャンパスに入れずオンライン授業に悩まされ、バイトによる収入が途絶し生活困窮、寮からの追い出しなど日本の大学生は借金苦と休学・退学などの危機に瀕し、勉学どころではない。「金がすべてではない」と富裕層は言うが、労働者人民は前後左右が閉塞し、打ちひしがれているのである。ただ、マスコミやニュースはこれを看過するか軽視するのである。

自ら立ち上がらなければ明日はない

 労働者人民の閉塞状況を切り開くものは労働者人民自身である。日本の労働力人口は六六八九万人、正規雇用は三五二九万人、非正規雇用は二〇七九万人である(二〇年九月)。しかし連合をはじめとした労働組合の組織率は一六・七%で、さらに年々減少している。この労働組合組織率の低下自体が、政府資本家がマスコミ、権力を総動員した労働者階級への総攻撃の結果である。労働者は自らの雇用と賃金、自らの生活と住居、自らの健康、子弟の教育を守る権利を持っている。それらの権利を労働者階級は行使すべきである。分断された個々の市民の運動では不十分である。労働者は労働組合に結集して初めて自分の要求を実現できる。どこかの政党に、どこかのNPOに頼るわけにはいかない。労働組合は、自らの責務と団結の力を再認識すべきであり、無能な指導者は去るべきである。
 偽りの自己責任を名目にして、労働者人民と大衆闘争を非難し、一方で国の役割を美化し、生命と健康を守るための措置に関する政府の責任を隠蔽する策動を打ち破ろう。労働者人民は、コロナ禍における政府の戦争政策、排外主義ナショナリズムに抗して、空前の軍事予算の拡張にも反対するべきである。労働者人民は自ら立ち上がらなければ明日はない。
 【岡本茂樹】