沖縄ルポ
声を上げ、声を集め、声と出会う
誰の声に耳を傾けるのか?
コロナ禍で、本土から辺野古の海の抗議行動に参加する場合は、二週間の待機が必要だったが、その制限が解除になった。十月五日、沖縄へ出発する。那覇で一泊し、不屈館で「ミサイル危機」展を観て、那覇軍港移設問題の浦添西海岸を訪ねた。その後、名護へ向かい辺野古で海上抗議に参加し、十一日に帰る予定だったが、不運にも台風一四号とかち合う。幸い直撃ではなかったが、連日海が荒れてカヌーは海へ出られなかった。安和の琉球セメント桟橋や本部港塩川地区における土砂搬出もなかった。
辺野古一日目(十月七日)、テント2ではカヌーチームのメンバーたちが台風対策作業に力を尽くす。テントの幕を撤収し備品や外回りの整備、塩害で所々が錆びているテントの修理、周りの草刈りなどさまざまな作業があった。
その日のキャンプシュワブゲート前の座り込み活動は、海上行動と違い二週間の待機が課せられていた。わたしは他の人から離れてプラカードを掲げる。五〇人ほどの抗議者による座り込みと牛歩デモのなか、砂利を積んだ大型ダンプやミキサー車、それに鉄柱を積んだトラックが国道三二九号線に延々と連なり、後方が霞んで見えないほどだ。この日は一九四台がシュワブ内に資材を運び込んだ。
現在辺野古側浅瀬の埋め立て工事は、護岸ブロック四メートルの上にさらに大型波消しブロックを四メートル積み上げた壁を築いているそうだ。シュワブ内にも建物がどんどん建設され、そのための土砂も大量に必要なのだろう。
十月八日は、台風接近のためシュワブ前の抗議活動も工事車両の出入りもなかった。
大浦湾の軟弱地盤をめぐり沖縄防衛局の設計変更申請への意見書が、全国や国外から一万八九〇四件も沖縄に届いた。わたしの住む埼玉の所沢地区では、街頭宣伝を七月から始め、九月に入ってからは、その場で意見を書いてくれる人や積極的に意見書の用紙を求めたり、話に耳を傾けてくれる人もいて反響があった。
大浦湾側に存在する軟弱地盤の改良に関して、事もあろうに防衛局は「不同沈下」(ふぞろいな地盤沈下)に対応するための沈下シミュレーションの検討をすることが分かった。埋め立て区域を六分割し、それぞれの箇所についての沈下の想定・検討と資料作成を進める。八月に同業務をコンサルタント会社などと契約した。契約金額は八億五八〇〇万円で履行期間は来年三月末まで。県による設計変更申請の審査が続くなかではありえないことだ。苦汁を飲まされ続けた沖縄にまたしてもだ。「日毒」(今の日本の「闇黒」をまるごと表象する一語――八重洋一郎詩集『日毒』から)としか言いようがない。
十月十日、カヌーチーム有志による伊江島わびあいの里への援農に加わる。七か月ぶりの伊江島だ。館長の謝花悦子さんに「こんなきつい仕事に二度と来ないと思っていた」と言われ、再会を喜びあった。
話は前後するが、十月六日、浦添西海岸へ行った。那覇ターミナル二番から三八五のバスで四〇分ほど乗車し、終点サンエーパルコシティーで下車する。バス停のある道路は車が切れ目なく走るが、海岸沿いは人の姿がほとんどない。見渡す限り遠浅の海がずーっと広がっている。砂浜はなく護岸が階段状に造られ海に入れる。台風の影響か海水は濁った感じで空はどこまでも青く雲は白く沖縄の原風景だ。九月三十日付『沖縄タイムス』によると「西海岸に広がる『カーミージの海(命豊かな海)』浦添市港川から西洲まで続くイノー(礁池)は南北約三キロ、沖合一~一・五キロにも及ぶ。多種多様な生物が生息し、沖合のリーフエッジではサンゴが群生し、色鮮やかな魚が群れる。イノーの内側には緑のじゅうたんのように藻場が広がっている。」今度来たとき、シュノーケルをつけて潜ってみたい。
海で網漁をしている年配のおじさんがいた。獲れた小魚を網袋に入れ、ゴシゴシと鱗をとっていた。「内臓をきれいに洗いカラアゲにすると旨いのだ。イワシに似た小魚の名は『ミィジュン』だョ」と、教えてくれた。「一月から三月の海は澄んでいてきれいだョ、ここは埋め立てられるんだ、遠浅だから工事がしやすいさぁ。浦添市長は公約違反だ、この海に米軍の軍港を造らない、と言って当選したんだ。米軍のために海が埋め立てられる、米軍は出ていってほしいさぁ。」
この辺は米軍施設キャンプキンザーと隣接する地域だ。この海と共に生活してきて、それを変えられることを淡々と話してくれたかれの言葉が重く受けとれる。八月に松本哲治浦添市長が代替施設北側配置案の受け入れを表明。九月、浦添市議会で西銘健(共産)は、「市長は那覇のメリットと浦添のデメリットを天秤にかけて、那覇のメリットを選んだ。『どこの市長か』と聞きたい。市民の立場に立つのであれば軍港はいらない、と明瞭に言うべきだ」と述べた。浦添市長は、網漁の人の声に耳を傾けろ!! 沖縄で生きる人たちの生活を米軍のためにこれ以上蔑ろにしてはいけない。
【大舘まゆみ】
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