2件の最高裁判決(メトロコマースと大阪医大事件)糾弾!
労働組合に入り団結して闘おう
十月十三日一五時過ぎ最高裁判所西門前、「全国一般東京東部労組メトロコマース支部」の原告の一人が「わたしたち『第二ステージ』で働いた者は、退職後は生きていくなということ……」と言いながら、がっくりと肩を落とし裁判所から出てきた。が、大勢のマスコミや支援者が「裁判結果は?」と、かたずを呑んで待ち構えているのを見てすぐに気を取りなおし、他の組合員三人と「ありえない!」「非正規は見棄てられた!」と怒りを込めて「不当判決」と書いた巻紙を両手で拡げた。
同日一三時過ぎ、最高裁でもう一件(大阪医大事件)の裁判判決が出ていた。同じ仕事なら有期雇用と無期雇用とで差別をしてはならないという「労働契約法二〇条」に基づく格差是正の裁判だった。大阪医大事件では「賞与の六割」、メトロコマース事件では「退職金の四分の一」がそれぞれ高裁で認められていた。最高裁はそれをゼロにしてしまった。同日に出された二件の最高裁判決は、安倍前政権が掲げた「同一労働同一賃金」「女性総活躍」などのスローガンがいかに詐欺まがいの言葉だったかを明らかにした。政府の女性労働政策は、利潤追求策であって、女性のためのものではない。
自民党政権下でそして安倍政権下で、どれほど多くの労働者や女性たちが、劣悪な条件のもとで働かされてきたことか。「男女が同一基盤に立って働く」という口実で生理休暇や時間外、休日労働、深夜業規定の廃止などの母性保護の権利がはく奪され「能力主義」の下で分断されて三五年。「個々人の意欲と能力に応じた平等待遇」政策は、結果として多くの女性労働者に過酷な労働を強いることになり、職場を去った女性も数多い。再び就職しようにも女性たちには正社員の道はなく、パートや派遣社員として働かざるを得なかった。今では、全労働者の四割が非正規労働者であり、その七割が女性だ。
今後この不当判決がもたらす影響ははかりしれない。正規と非正規の格差はいっそう広がり、コロナ禍で企業の淘汰が進み、雇用の多様化・流動化も資本にとって都合の良いものになる。
東京メトロ駅売店の非正規労働者でつくる全国一般東京東部労組メトロコマース支部は、正社員との賃金差別をなくすために約一一年間闘ってきた。最高裁判決は、非正規労働者への退職金の不支給を容認する、不当極まりない差別判決だった。「正社員と同じ仕事を十年働こうが二十年働こうが、非正規労働者には一円たりとも退職金を支払う必要はない。これは『格差の容認』などという生やさしい言葉では言い表せない。『差別の扇動』と言うほかない」と東部労組は、満腔の怒りを込め声明を出した。
コロナ禍の中、多くの人々が自ら命を絶っている。警視庁は、七月に一八一八人、八月には一八五四人と増え、九月の全国の自殺者は一八〇五人と発表した。九月の対前年度比では、女性は二七・五%(六三九人)男性は〇・四%(一六六人)増えている。もっとも多かったのは東京都で、一九四人だった。
一二年前のリーマンショックの頃から貧困問題に取り組んでいる作家の雨宮処凛氏は「これほど自殺者が増えたこと、特に女性の増え方が凄まじいことに、コロナ不況の影響を如実に感じる。職を失い、非正規労働者の数も減っている。貧困問題にかかわって十六年間ではじめての事だ。リーマンショックの時は失業しても、家族というセーフティーネットがあった。今は、親たちは高齢化し年金も減り、あるいは死亡していて頼ることができない。」と、あまりの自殺者の多さに驚きを隠しきれないでいる。
メトロコマース原告の「退職後は生きていくなということ……」というつぶやきが、わたしの耳に残って離れない。
男女共同参画局(二〇一九年版)の発表では、五五歳以上の女性の貧困率は、二〇歳から四〇歳代の女性の貧困率を上回っているという。親たちも、医療費・介護費・消費税等が年々かさみ、決して穏やかな生活を送れているわけではない。また、シングルマザーの家庭も少なくなく、親もセーフティーネットにはならないのだ。
「子どもが小学生のシングルマザー。子どもがいるため、最初から残業は出来ないと了解されて勤めた。しかし、夜一〇時までの残業が命じられたので断ったら、パートにさせられ、賃金も大幅に下げられ、有給休暇も使えないことになった。」「出産育児休暇で一度辞めての再雇用だが、職場に戻ってから上司の態度がひどくなった。少しのミスで『だからお前はクズだ』と怒鳴られる。片道二時間で朝六時には出かけ、夜一〇時に帰宅の毎日で残業も四〇時間はしている。死にたいけれど子供もいるので……頭の中がいっぱいになる。」などの相談も東部労組に来ているという。
新しく首相になった菅が掲げる政策は「自助・共助・公助」で、職がなかろうが貧困に陥ろうがとにかく「自分で何とかしろ」という。自分でどうしようもなかったら家族で助け合えと。それでもだめなら「自死」の道を選べというのか!
労働者が生きつづけ、人間としての尊厳を守っていくには、団結しかない。JALの不当解雇撤回闘争は今年で一〇年になる。ユナイテッド闘争団も、多くの支援を得て歯を食いしばって闘っている。今回の判決後、東京東部労組は「すべての労働者は労働組合に入ろう! 正規・非正規を問わず全労働者は団結しよう!」と呼びかけた。この呼びかけを、多くの労働者にとりわけ女性労働者に届けたいと切に思う。
【村上理恵子】
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