〈国際時評〉
帝国主義はベラルーシに介入するな!
資本主義ではなく社会主義への革命闘争が解決の道


商業紙も『赤旗』も連日、ベラルーシについて大きく報道している。欧州各国の共産党、労働者党も相次ぎ声明を発表している。ベラルーシで何が起きているのか。

大統領選とその後の経過

八月九日大統領選挙実施、即日開票。同日、選挙管理委員会は最終結果を発表。投票率八四・二%で、ルカシェンコ大統領八〇・一%、チハノフスカヤ候補一〇・一%、「すべての候補に反対」六%であった。
開票結果が発表される前、メディアが政府系の出口調査をもとに「ルカシェンコ六選確実」と報道。すると、直後に、反政府デモ隊は警察にガソリン爆弾を投げつけ、主要道路にバリケードを築き始めた。そして、チハノフスカヤ候補は、何の根拠も示さず七〇%以上の得票を得たと声明を出した。
抗議行動は明らかに事前に計画され開始されたのである。
CIS(独立国家共同体)選挙監視団は、「選挙はオープンで競争力があり、人びとの自由な表現を保証した」と述べている。CISには、旧ソ連邦の一五か国中、バルト三国を除く一二か国が加盟。バルト三国は、EUとNATO加盟国である。
八月十一日 チハノフスカヤ候補リトアニアに出国。翌十二日 在外の反政府組織が政権交代へ向け「救国戦線」を設立し、各国にチハノフスカヤ候補を新大統領と認めるよう要請した。これは、ベネズエラのグアイド自称大統領承認と同じパターンを狙っている。十二日 米国ポンペオ国務長官はベラルーシ民主派支援の継続を強調。十四日 EU外相会議、選挙に不正があったとして制裁実施で一致。十五~十六日 ロシアのプーチン大統領は、ルカシェンコ大統領と電話会談、支援の用意を表明。十六日 首都ミンスクで一〇万人超の抗議集会。ルカシェンコ大統領の辞任を要求。

「マイダン」再現を狙う反政府勢力

ベラルーシの反政府勢力は、二〇一三~二〇一四年ウクライナの首都キエフで始まった「マイダン(広場)」運動による政権打倒と同じことをベラルーシの首都ミンスクで行なおうとしている。
この反政府勢力の策動に抗し、政府を支持する大規模な集会やデモが繰り返し全土で組織されている。
帝国主義が支配する国際メディアは、ベラルーシ(総人口九四〇万人)では何百万人もの人びとが反政府勢力を支持していると主張している。国際メディアは、反政府集会は水増しし大きく報道するが、政府支持の動きは実質上一切報道しない。
十六日の抗議集会も英国BBCは二二万人参加と報道。『赤旗』はBBC報道どおり報道し、『朝日』『日経』は一〇万人超と伝えた。
また、この時期、一部の国営企業で、大統領の辞任を要求するストが行なわれた。経済構造については後述するが、反政府勢力の「国家ストライキ委員会」は、国営企業を対象に、大統領辞任を要求するゼネストを呼びかけた。かれらは、いくつかの国営企業で、小ブルジョワ階層の人びとを動員しピケを張った。「国家ストライキ委員会」は、民間企業や外資系企業でのストライキは一切呼びかけない。
ベラルーシにおける労働組合組織率は実に九〇%以上だ。「国家ストライキ委員会」は生産現場に基盤を持っていない。現時点でかれらは主要工場の生産や公共交通機関の運行を停止させることには失敗している。
なお、反政府勢力の策動に対しベラルーシ共産党は、政府支持集会やデモを組織しているが、同時に、民間企業や外資系企業での賃上げや労働条件改善要求ストや、国有化要求闘争を積極的に組織している。

経済構造と反政府勢力の「緊急政策」

ロシアや東欧の旧社会主義国家とは異なり、ベラルーシでは、主要な産業部門と農業生産関連部門は国家が所有する。混合経済である。欧米企業や発展途上諸国の企業との合弁企業があり「市場社会主義」と呼称している。自営業や民間企業は、消費者向け生活関連産業を軸としている。
ベラルーシは旧ソ連邦諸国の中では一人あたりの所得が最も高い。また、近隣諸国より比較的高い水準の社会保障制度、教育制度、医療制度を保持している。
最近、ベラルーシのテレビ局が統一野党の方針書「緊急政策」を暴露した。
主要公共産業の大規模民営化、社会保険サービスの大幅削減、ロシアとの政治的経済的協力の断絶、EUとNATO加盟への軌道切り替え、医療制度の「最適化」(無料治療リストの大幅削減、ベッド数削減など)、住宅および公益事業への競争原理の導入などを謳っている。
IMFが支援実施する場合の通常のIMFからの要求事項は、すでに事前に計画されている。

帝国主義の長年の策動の具現化と解決への道

いまの状況は、米国とEU、NATOの介入と結びついている。かれらは、ベラルーシの市場と天然資源、輸送ネットワークの支配、東欧および広域ユーラシアにおける地政学的軸の確保を狙い、ロシアと争っている。
いま、EUに加盟するポーランドやバルト諸国が「自由」と「民主主義」の旗を掲げ、ベラルーシ民主派支援に「動員」されている。それらの諸国では、民主的な権利と自由があからさまに侵害されている。野党の新聞が裁判にかけられ、共産党員が投獄され、共産党の活動が規制され、禁止すらされている。先にベラルーシの労組組織率が九〇%以上と述べたが、チハノフスカヤが「亡命政府」設立のため逃げ込んだリトアニアでは労組組織率八%、ポーランドでは一三%である。
いまの状況は、米国とEU(英国も含め)が長年多額の資金を投入し、最新の機器、現代技術を駆使し行なってきたプロパガンダの結実である。米国議会の出資によるチェコのプラハに本部を置く自由欧州放送からの「情報」による効果も大きい。
反政府勢力は二〇一四年のウクライナの再現を狙うが、そこにはナショナリズムによる鼓吹も含まれている。ベラルーシの抗議デモ参加者たちが掲げるベラルーシの旧国旗は、一九四三年~一九四五年にファシストドイツ国防軍との協力者たちが掲げた旗である。
ベラルーシ政府によると、今回、抗議行動は、ポーランドおよび英国、チェコからの電話で調整されたという。
ベラルーシの資本主義は行き詰まっている。国家資本主義的な「市場社会主義」は、資本主義の法則と矛盾し、長期的に機能することは出来ない。
多くの人びとがこの矛盾の激化のなか脱出を求めて抗議行動に参加している。人びとは統一野党の「緊急政策」を知らず、NATOやEU加盟を望んでいない可能性が高い。
人びとに真実を伝え、啓発し、本当の利益のための自立的な闘争に組織する必要がある。九〇%を超す高い労組組織率は希望を与えてくれる。ベラルーシの共産主義者たちはいま、草の根の大衆的連合委員会の強化を支援している。
ベラルーシの労働者階級と勤労人民のための解決の道は、現在のブルジョワ資本主義体制とその不十分な社会的民主的条件を永続させることではなく、社会主義のための一貫した革命的闘争にある。
(二〇二〇年八月二十三日記)
【沖江和博】

(『思想運動』1056号 2020年9月1日号)