新型コロナ
第一波の収束に失敗し感染は再拡大
生命と生活を最優先に! 労働者・市民は要求しよう! 立ち上がろう!


新型コロナ感染は新たな段階へ

 日本国内の新型コロナウイルス感染者数は二万八〇〇〇を超え、死者数は一〇〇〇を超えた(七月二十三日)。「命令」ではない外出自粛により国内の感染者数は徐々に減少したかに見えた。しかし、労働者・市民が外出自粛、休業、失業により生活が疲弊していく中で、政府は労働者・市民の生活の補償を真剣に行なおうとせず、その政策は首尾一貫せず、いい加減であった。「生活の困窮」と「経済の混乱」が、政府の無策の結果であることは明白である。
 反対意見を無視し政府は、五月二十五日、財界からの要請に応じて「経済活動」の再生のために緊急事態を全国で解除し、六月十九日には県境をまたぐ移動自粛を全面解除した。
 今また多くの反対を押し切って七月二十二日より政府補助金付きの旅行政策(Go To・トラベルキャンペーン)を進めようとしている。その結果、六月下旬から新型コロナ感染症は劇的に再拡大し、現在第一波を超える勢いで増加し第二波を形成しつつある。政府や東京都はほとんど感染抑止対策を放棄し、「新しい生活スタイル」を人民に押し付け感染予防を個人の責任に転嫁し始めた。
 政府は政策の失敗を糊塗するために「With Corona」なるキャッチコピーのもと、人々を新型コロナ感染症の坩堝に投げこんでいる。これが新型コロナの新段階である。

人民を襲う苦難

 全国的な社会活動の自粛の中で、多くの労働者が賃金のない休業を強いられた。さらに多くの非正規労働者が解雇され宿舎を追われ路頭に迷わされている。『消費者リポート』(NO.1635)によれば、「深刻なのはシングルマザー、高齢者、そして外国人労働者と家族で、あるシングルマザーは四月以来収入ゼロが続き、子どもに食べさせるために自分は一日何も口にできない日が続いている。人々の目に見えない飢餓が広がっている。ある県で働いていた女性七人のベトナム人技能実習生は職場が閉じられ、「お金が尽き、畑で野菜を作り、川や海で魚を獲って凌いでいる」という。日本医労連の調査によれば、全国三三八の医療機関のうち、およそ三割に当たる一一五の医療機関が、新型コロナウイルスの影響を受け経営悪化したことを理由に、看護師などの夏季一時金を昨年より引き下げた。東京女子医大病院では、全職員の夏季一時金を全額カットしたため、退職を希望する看護師が四〇〇人以上にのぼるという。労使交渉の場で経営者は、「四〇〇人の看護師が退職しても入院患者減少の現在経営はできる、必要になれば募集すればよい」と答えた。労働者を使い捨てにするブラック企業そのものである。また首都圏の複数の保育園で、休園・登園自粛期間中の休業補償の未払いをめぐってストライキが起きている。同様なことは地方でも報告されている。政府は何もしない。労働者は自ら立ち上がるしかない。

二つの医療崩壊

 新型コロナウイルス感染症の第一波では、感染者が高齢者に集中し、医療機関は病床の確保に追われた。酸素投与や人工呼吸さらにECMОなどの重症患者の治療には高度な医療機器と専門の医師、看護師など多数の医療スタッフを必要とし、その分コロナ患者以外の入院患者の治療を犠牲にせざるを得なかった。多くの医療機関は緊急でない手術や検査・入院を一時中断して対応するしかなかった。さらに、政府が軽症者を収容する医療施設の確保を怠ったため多くの患者が自宅待機や医療機関でない施設に不完全に「隔離」されるしかなかった。
 一部の患者が自宅で待機中に悪化し死去した例も出ている。押し寄せるコロナ患者と不足する感染予防具による院内感染の危険や医師ほか医療関係者の疲弊のために、日本の新型コロナ感染症の医療体制は崩壊ないし崩壊寸前であった。これが第一の医療崩壊である。
 第二の医療崩壊は、第一波がやや落ち着きを見せた頃に露見してきた。社会活動の自粛の結果による感染症の減少と感染防止のための受診抑制の結果、ほとんどの医療機関が三月~五月の医療収入が減少し、とくにコロナ患者を受け入れた病院の中には数億から数十億円の赤字を計上したところもある。政府の支援事業など焼け石に水の赤字幅である。保団連(全国保険医団体連合会)の調査によれば、四月の診療実績で、外来患者が前年四月比で「減った」との回答が医科で八七・四%、歯科で八七・五%であった。そのうち約三割が三〇%以上の減少であった。医業収入の減少もほぼ同じであり、五月は四月以上の減少が見込まれている。しかもこの減少は、今後一年以上続くだろうと予想されている。医療機関の経営危機は第二の医療崩壊である。

根源にある低医療費政策

 二つの医療崩壊の根源には、医療費を社会的損失としか考えない、政府の長年の「低医療費政策」がある。それは、国民医療費の中に占める国費支出の割合を削減し、高齢化による医療費の増加を徹底的に抑制するために、窓口自己負担割合の増加、多数の病院と病床の閉鎖縮小、医師数抑制を続ける政策だった。現在日本はいわゆる先進諸国の中でもっとも医師数が少ない国の一つになっている。さらに国民皆保険制度を形骸化し、この三〇年間新自由主義によって公的医療を徹底的に切り捨て、地域の保健・公衆衛生活動を担う保健所を統廃合し約半数にまで縮小させてきた。日本の医療と保健は、もうこれ以上は縮小できないところまで追い詰められてきたところに今回の新型コロナウイルス感染の世界流行が起こった。これに立ち向かう余力はもともと日本の医療には残されていなかった。かくして二月以来の日本では、第一に発熱しても受診できない、検査ができない、第二に院内感染、施設内感染が相次ぎ病院・診療所の閉鎖や診療制限が相次いだ。第三に、救急医療体制が深刻な危機に陥り、最後に医療機関の経営危機が生じたのだ。これらは、まさに労働者・市民の生命と生活を軽んじ、大企業・資本の利潤と経済権益を優先してきた資本主義・新自由主義のなせる業である。

生命か経済か

 いま政府は、「感染予防も経済活動も両立させることが前提」のコロナ対策を行なうと言っている。しかし、それは真っ赤な嘘である。その証拠は、七月三日政府が医学医療関係者主体であった新型コロナ感染症対策「専門家会議」を廃止し、経済専門家を配置した「対策分科会」を設置したことに現われている。政府は人々の命と健康を守るための感染防止策は二の次にして、外出自粛・営業自粛を解除し経済活動を優先する方針に舵を切ったのだ。

資本主義では立ち向かえない

 政府に他の対策を選択する余地はなかったのか。そうではない。感染防止対策を最優先し、労働者・市民の命と生活を優先し、必要な財源は大企業の莫大な内部留保金の充当、大企業優遇の法人税や高額所得者優遇の累進課税の是正、最低所得補償や生活保護制度の改善、住宅政策の改善などさまざまな政策があるはずだ。しかしそれをしないのが資本主義の政治なのだ。
 資本主義ではパンデミックに立ち向かえない!
 政府は命と生活を最優先せよ! 労働者・市民は立ち上がろう!
 感染対策と経済を両立しているのは、中国、ベトナム、キューバ、朝鮮など社会主義国である。それらの国でも困難な対応を余儀なくされたが、社会主義の制度であるがゆえに企業の利潤を優先する必要はなかったのだ。
 日本政府にかける期待はない。労働者・市民は諸要求を掲げ政府と経済界と対決しなければならない。無料のPCR検査を含む新型コロナ感染対策を最優先せよ! 人民の命と健康を守れ! コロナ解雇を許さずすべての人民に仕事と賃金、食糧・住居と公的医療を保障せよ!
【岡本茂樹】
 (二〇二〇年七月二十三日)

(『思想運動』1055号 2020年8月1日号)