新型コロナ
社会的混乱を機に権力集中策す安倍政権
生命と健康、労働権を守るために起ち上がろう!
流行は全世界に広がっている
昨年十二月中国武漢市から流行が始まった新型コロナウイルス感染症(以下COVID19)は、瞬く間に中国全土を席巻し、韓国、日本、イランに飛び火した。現在、中国での流行は収束に向かっているが、その流行は全世界に広がっている。三月二十日現在イタリア、フランス、ドイツ、スペインなどヨーロッパ諸国が流行の中心地となり、アメリカも流行の危機を迎えている。今後、南米、豪州、東南アジア、南アジア、中東、アフリカ諸国での流行は予断を許さないものがある。
COVID19の流行と中国政府のいささか強烈な流行抑止策に対しては、当初から現在まで悪意に満ちた宣伝が行なわれている。日本のある大臣や米国の高官がCOVID19を〝武漢ウイルス〟だの〝中国ウイルス〟だのと呼んだり、中国政府の抑止策を強権的で横暴だと罵ったり、流行の中心が欧米に移ってからは、パンデミックの元凶は中国にあるなどという大統領まで現われた。COVID19だけでなくSARS、МERS、新型インフルエンザ、さらにHIV感染症などを含む新興感染症の発生は、どこかの国やどこかの人に責任を押し付けて済むような問題ではない。意図的な細菌ウイルス戦争を仕掛けたものでない限りは、である。世界の国々の政治指導者は、一刻も早くCOVID19流行の収束に向けて、何よりもそれぞれの国の労働者・市民の生命と生活を守るためにこそ万事を尽くし責任を果たすべきだ。
さて日本におけるCOVID19の流行にあたって、日本政府安倍政権の態度はどうであったか。三月十九日時点でまとめて見よう。二月三日に横浜港に接岸したクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」は船内で検疫が実施され、三月一日に全員が下船した。その結果、乗客乗務員三七一一人中七一二人がウイルス検査陽性で、重症で治療中が一五名、死亡が七名となっている。その間、日本政府による船内の検疫のあり方には多くの疑問が投げかけられた。検疫方針の説明不足に始まり船内感染対策や長期拘禁に対する心理的援助の欠如など乗客乗務員の人権を無視したやり方に多くの批判が向けられた。「船内での人権が守られていない」の批判に厚労相が「(政府は)COVID19国内侵入防止のために検疫をしている。(船内で医療を行なっているのではない)何が悪いのか」と言いのけたことに政府の態度が象徴されていた。やる気さえあれば、検疫と船内の医療は両立できたはずである。彼らの検疫作業に民主も人権もないことは明らかであった。それはその後の政府のCOVID19対策に引き継がれていくのである。
社会に大混乱与えた全国一斉休校
クルーズ船の検疫作業がマスコミでも不評で、国内でのCOVID19の発生が拡大し政府の初期対応策に批判が高まる中、二月二十七日安倍首相は「三月二日から春休みに入るまで、全国すべての小学校・中学校・高校、特別支援学校に臨時休校を要請する」と発言した。そして、その後すべての多くの人が集まるイベントの中止や公共施設の閉鎖が要請されるに至ったのである。驚くことにこれらの決定は、決定による社会経済的影響を学者、専門家、官僚にまったく相談せず政府の国家安全保障会議の数人で決めたことが明らかになっている。安倍首相によるほとんど命令に近い要請は、その大きな社会的影響に対する何の準備策もないものであった。案の定さまざまな社会的混乱を引き起こした。
学校教育現場では、三学期の最後の三週間が突然消滅したことで、学習権の侵害、給食の中止、入試や卒業式の変更、二次的には自宅待機となった子どもたちの養育のために親の労働権が侵害され、膨大な給食材料が無駄になり、牛乳などの納入業者は途方に暮れた。子どもたちは、科学的根拠の薄い「学校でのCOVID19の流行が、大人と高齢者の感染の危険を高める」という思い込みにより教育を受ける権利を侵害された。親のいない家庭に子どもだけを在宅させることの危険性を安倍首相は関知しなかった。多くの学校では、急遽学童保育の定員拡大、時間延長、教室での受け入れなどで在宅児童に対応したが、学校を閉鎖し、その結果より密集した学童保育を拡大することになった今回の決定に果たして意味があったのか、徹底的な検証が必要である。
医療の現場でも大きな混乱が起こっている。政府はこれまで水際対策に始まる濃厚接触者や重症者のPCR検査と患者の隔離・治療に終始してきたが、軽症者の流行拡大が常に不安視されてきた。国内陽性者が一〇〇〇人を超え、感染源不明の患者の増加を前にして専門家が欧州のような感染爆発(オーバーシュート)が国内で起きる可能性を強く示唆するに至っている。公衆衛生を担う保健所は地方自治体の合併広域化によりその数は半減し、日本の感染症対策の専門機関である国立感染症研究所ですら研究者が削減され、米国CDC(疾病対策センター)と比較すると人員は四〇分の一、予算額は一〇〇〇分の一という有様である。患者把握の決め手であるPCR検査はきわめて制限的であり、保険適用されても一般医療機関で実施し陽性者が出れば即その医療機関が機能停止に陥るリスクがあり、それは医療崩壊につながる。今やわたしたちは、八〇%は軽症であるが二〇〇九年新型インフルエンザより数十倍も死亡率の高いCOVID19を市中感染症として受容するかどうかの瀬戸際に立っているのである。これらは、国民医療に必要な費用を削減し公衆衛生対策を縮小してきた大企業優遇の自民党政権の無策の代償なのである。そのツケが、最終的に労働者人民に転嫁されることを断固として許してはならない。
労働者人民への危機転嫁と闘おう!
COVID19の流行抑止の初期対応への批判を奇貨として、安倍政権は「新型インフルエンザ等対策特措法」を改訂し、緊急事態宣言を可能にした。失政と自ら招いた社会的混乱を機に国家権力を集中させる独裁に道を開いた安倍政権には徹底的な批判を加え警鐘を鳴らさねばならない。
待ち受けるCOVID19感染爆発に対して、政府は三〇兆円という莫大な臨時経済対策を宣言している。しかしそれはこれまで同様に大企業救済に回され株価暴落で危機に瀕した資本主義制度の修復に使われるに決まっている。労働者人民は自らのために闘いに立ち上がらなければならない。労働者人民は、COVID19流行下でも必要で十分な医療を受けられること、基本的社会経済活動が縮小する中であっても住居、賃金が確保され、解雇されずに働く権利が保障されること、子どもたちが十分な教育を受けられる権利を政府に要求して闘わなければならない。そうでなければ政府資本はすべてのツケを労働者人民・市民に支払わせるだろう。わたしたちは、労働者人民・市民の健康と生命を守るために団結して闘おう。
二〇二〇年三月二十二日
【岡本茂樹】
(『思想運動』1051号 2020年4月1日号)
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