状況2020 社会/COVID19     大山 歩
傍観するな! 受け身になるな! 労働者なら!
政府独占の新型コロナを悪用した攻撃に反撃を


周知のとおり、新型コロナウイルスによる肺炎(COⅤID19)については、政府・マスコミが連日、大々的にこの問題を取り上げている。われわれもこれが、全世界の労働者階級人民に甚大な影響を及ぼす問題である、と認識している。しかしわれわれは、この問題を、巷間に広まる「国難」として捉え、「政府対応を不完全だと批判するより、いまは日本国民全体、中央政府も自治体も一致協力してウイルスに打ち勝つときだ」(三月二日『産経』「美しき勁き国へ」櫻井よしこ「疑わしい習政権の情報」)との主張に同意しない。なぜなら、こうした一見「正論」を装って、日々さまざまな人と手段を使って、事態を資本家階級の利益に回収する攻撃が意図的に行なわれているからだ。
櫻井はここで「武漢ウイルス」という言葉を使い(トランプは「中国ウイルス」、ポンペオは「武漢ウイルス」を連呼)、中国共産党の特質を「第一は中国政府の情報は基本的に虚偽だ」と述べている(モリ・カケ、桜、検事長……中国を日本と読みかえよう)。財務相の麻生太郎は三月十九日の参院財政金融委員会で、中国の発表する感染者数などの数字について「信用しないのが正しいと思っている」と発言した。安倍の盟友のかれらは、まさに資本家階級としての自覚を持ち、自らの階級闘争を貫徹している。
この問題の発生とその後の各国政府の対応を見るとき、問題の根底には、ここ数十年来の全世界の独占資本家階級(金持ち連中)による医療をはじめとする公的部門の民営化=私有化、公費削減=福祉切り捨て政策の存在にゆきつく。このブルジョワたちによる人民の資産の分捕り・山分け=新自由主義政策によって、労働者階級人民の労働と生活、生命が破壊されてきたのだ。
病院・医療従事者の削減、労働環境の悪化、値上がりをつづける医療費。ブルジョワ支配階級は、決して労働者階級人民の生活と利益を第一には考えない。かれらの目的は金儲けだけだ。金が儲かるならば人殺しも戦争もやる。それは米国や日本の歴史を見れば一目瞭然だ。朝鮮で、中国で、キューバで、ベトナムでアフガニスタンで、そしてイラン・イラク・シリア・ベネズエラでやつらがかつて何をし、今何をしているかを見よ! われわれはまず、こうした認識に立ち、問題の把握と闘いを組み立てなければならない。
そして、それは先回りして言えば、この問題に対してわれわれ労働者階級人民はどう闘うのか、「君たちは資本主義を選ぶのか、それとも社会主義を選ぶのか」という根本的問題を提起しているということだ。

戦時体制下の様相

目を国内に転じてみよう。
いま日本では、労働者階級人民に自覚がないまま、まるで戦時体制のような社会状況が生まれている。新型肺炎をめぐる安倍政権の科学的根拠を示さない自粛要請の連発によって、ウイルス感染への恐怖心と社会不安が過剰に煽られ、「自粛ドミノ」ともいうべき現象が起きた。そうした中、戦時中の「欲しがりません 勝つまでは」式の「この非常時に好き勝手は許さない」という同調圧力が日本社会全体で強まっている。
東日本大震災直後も開催された高校野球の選抜大会が初めて中止となった。身体を十分に鍛えた頑健な若者たちが換気には何の問題もない屋外の競技場でしかも無観客の試合をするのに、どんなリスクがあるというのか。「高校野球だけやらせるわけにはいかない」との理不尽な圧力に屈したのである。大相撲春場所は無観客で行なわれたのだが……。春の選抜が中断されたのが戦時中だけだったことを考えると、この事態は戦前回帰の危険な状況を象徴する出来事といえよう。
安倍の一声で一二〇〇万人の児童生徒が教育を受ける権利を奪われた全国一律休校もしかりだ。首相要請を受け、全国の市町村立小学校の九八・八%、市町村立中学校、都道府県立高校の九九・〇%、国立小中高の一〇〇%が休校に入った(三月四日の時点)。休校を決定する権限は政府にではなく各自治体(教育委員会)にあるのにほぼ一〇〇%の自治体が「右へならえ」で追従した。突然決まった長期休校によって、子どもも保護者も、学校も学童クラブも、子どもを持つ親が休んだ事業所も、学校に食材を供給している業者なども、大きな混乱と不当・過重な負担・不利益を強いられた。にもかかわらず、表立った「反乱」はなかった。教職員組合が抗議集会を行なうようなこともなかった。関係者は不平不満を抱きつつも(果たしてそうかは疑問もあるが)全体としてはこの無茶苦茶な要請に唯々諾々と従い順応していった。
休校期間中に公園で遊んでいる子どもを見かけた近所の住民が「なぜ家で過ごさせないのか」と教育委員会に通報するということも起きている。「非常時だから我慢しろ」というわけだ。戦争中に隣組が行なっていた、住民同士の相互監視、「お上」の指示に従わない、同調しない者の「摘発」が起きている。
検査がほとんどなされない一方で、ウイルスの危険性が強調され、それが人びとを不安にさせパニックが引き起こされた。マスクやトイレットペーパー、一部の食料品の買い占めが行なわれ品不足が生じている。マスクをしないで電車に乗ろうとした人が他の乗客から「乗るな」と注意される、電車内で咳をした乗客が「車両をかわれ」と怒鳴られる。そのような不寛容で殺伐とした出来事も報じられている。
だが、安倍は「科学的根拠」を示して人民に安心感を与えるようなことは絶対にしない。逆に根拠などけっして示さずリスクだけを煽って、大衆に恐怖心、先行きに対する不安感を持ち続けてもらう方が好都合なのだ。全国一律休校のような大きなパニックを引き起こす「ショック療法」を意図的に行ない、人民の動揺と非理性的感情を増大させる。そしてそこから生じる「安定と安心、それをもたらす強力なリーダーシップ」を求める大衆の自己防衛・保守指向の意識を体制の側に取りこむ、つまり安倍支持の方向に組織する、そうした戦略をとったのである。単なる「思いつき」からではないのだ。これは、かつてナオミ‐クラインが「惨事便乗型」と定義した支配政策といってよいだろう。

奏功した安倍の「ショック療法」

そして安倍の「ショック療法」は今のところは功を奏している。共同通信の世論調査(三月十四日~十六日)では、安倍内閣の支持率は二月の前回調査から八・七ポイント増えて四九・七%に、ウイルス感染拡大への政府の対応についても、「評価する」(四八・三%)が「評価しない」(四四・三%)を上回った。『毎日新聞』の世論調査(三月十四日・十五日)でも、内閣支持率は四一%から四三%に増え、「自粛もやむを得ない」が七五%で「自粛が行き過ぎている」の二一%を大きく上回った。ちなみに二月の世論調査での内閣支持率はその前の調査から各紙軒並みに、二~八%下落していた。さらに言えば、一七年六月の『毎日』の世論調査では、なんと二六%に落ちていた。もちろんマスメディアの世論調査を鵜呑みにはできないが、この間の安倍のパニック戦術は人心の離反をもたらさなかったし、逆に低迷していた支持率を回復させた。
話しは変わるが、『毎日』三月二十二日付けは、「仙台で聖火見物5万人 感染リスクの数時間行列 組織委、再び密集なら中止検討」の見出しで次の記事を載せた。「東京オリンピックの聖火を東日本大震災の被災3県で巡回展示する催し『復興の火』は21日、仙台市で行われ、約5時間半で約五万二〇〇〇人が観覧した。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、主催する宮城県は混雑緩和に努めたが、想定(一万人)の五倍以上の人出に五〇〇メートルを超える長蛇の列ができた。感染リスクが高まる密集の中、数時間待つ状態が続いた。/共催する東京五輪・パラリンピック組織委員会は22日以降、列の間隔を前後1メートル以上空けることを徹底し、過度な密集状態が発生した場合は中断や中止も検討することを明らかにした。」官民ともになんたることか。
安倍たちはこの「惨事」に便乗して、これまでやろうとしてできなかったブルジョワ支配体制のいっそうの強化、反労働者的な制度改悪を一気に押し進めようとしている。政府・独占に有利に働いた事例を列挙する。
●「モリ・カケ」、「桜を見る会」「検事長定年延長」等の疑惑追及、今次コロナウイルス感染に対する初動態勢の遅れや誤り、ちぐはぐな対応への批判、パニックを起こすことでそれ以前に強まっていた政権に否定的な世論を吹き飛ばすことができた。
●新型インフル特措法「改正」によって、権力の側は非常事態宣言を可能にする有事立法を手に入れた。この間の自粛体制自体が戒厳令施行の予行演習的側面をもったし、憲法に非常事態条項を盛り込む地ならしにもなった。一方、労働者や市民の集会の多くが強制的にではなく「自発的に」中止や中止決定となった。さようなら原発! 全国集会、連合メーデー、沖縄の平和行進なども。
しかし、権力の側は辺野古の土砂投入にしろ、関生弾圧にしろ、強権的政策をけっして中止しない。
●特措法に大半の野党が賛成し「国難突破」のための挙国一致・大政翼賛的状況づくりが進められた。これによって野党共闘に不和・分断が持ち込まれた。社民党も特措法に賛成(福島党首は採決時に退場した)。
●テレワークやフレックスタイムをやりやすくするためという理由で裁量労働制の拡大など独占資本の意に沿った労働の「規制緩和」を加速させる動きが強まった。
●企業の業績悪化を理由に春闘での賃上げが抑制された。春闘不要論も一段と強まった。内定の取り消しも。
●主に中国、韓国を標的にした民族排外主義的世論が高まった。両国に対する出入国規制の強化を主導した右派勢力が勢いづいている。等々。

求められる労働者階級の闘争主体

しかし、安倍たちの「ショック療法」が一時的に成功したからといって、かれらの支配体制は盤石ではない。世界的な株価の大暴落に現われているように、新型肺炎の感染拡大はリーマンショックを超えるといわれる経済状況の悪化をもたらしている。日本では、消費税増税によってもともと冷えこんでいた景気が「自粛」にともなう関連企業(観光業、イベント業界、飲食・小売り・サービス、航空、鉄道など)の業績悪化で一段と落ち込んでいる(一九年十月から十二月のGDPは前年比六・三%減で、二〇年一月から三月も大幅マイナスが予想されている。「米金融大手ゴールドマン・サックスは20日、第2四半期の米GDP成長率見通しを、従来のマイナス5%から24%へと大幅に下方修正した」(『産経』三月二十一日付)。さらにこれからは世界経済のいっそうの後退・収縮によってあらゆる産業分野が深刻なダメージを被っていくだろう。東京五輪が延期や中止になればその経済的損失は莫大なものになる。経済成長・株価の維持を売り物にしてきた安倍政権にとっては大きな痛手となるだろう。
今後、企業の倒産・休業が拡大すれば労働者の解雇、帰休、賃下げ、労働条件の悪化などが大規模に起こってくる。とりわけ非正規やフリーランスなど弱い立場にある労働者に矛盾が集中する。
『毎日』三月二十一日付け朝刊は「新型コロナ NY、失業者続出 店内飲食禁止、消えた観光客」の見出しをつけ、「新型コロナウイルスの感染者が1万人を超えた米国で解雇の嵐が吹いている。800万人以上の人口を抱え、年間約6500万人が訪れる全米最大の都市ニューヨークは、レストランや劇場、美術館などが軒並み閉鎖。観光客の姿はほとんどない。レストランなどの営業中止で職を失う人が相次ぎ、経済の負の連鎖が広がっている。……米メディアの世論調査によると、全米で成人の労働者の18%が既に解雇されたり、労働時間を短縮されたりした。年5万ドル(約540万円)未満の低所得層では25%に上る。先週の失業保険の申請数は前週比7万件増の28万1000件。窓口には長蛇の列ができている。」と報じている。日本ではこうした数字がまだ出てきていないが、早晩こうした現実が明らかになるだろう。
資本と賃労働の矛盾、階級的矛盾が赤裸々に現われてくる。労働者人民の不満は増大せざるを得ないし、この間の「自粛」によって人民の潜在的なフラストレーションは高まっている。支配階級の客観的危機は深まっていくのだ。
だがこの客観的危機を現実的危機に転嫁させるには労働者人民の闘いがなければならない。まさにいま、労働者階級人民を鼓舞し、闘いの先頭に立つ前衛部隊と労働組合が求められているのだ。闘いが正しく有効に組織されなければ、大衆の不満はファシズムの方向に収れんさせられる。一九二九年の世界恐慌の後の状況がそうであったように。
しかし共産党をはじめ野党は「国会論戦」に明け暮れ、フェーズ(段階)やエビデンス(根拠)のカタカナ言葉を連発しながら自分たちの見識をひけらかしているだけに見える。しんぶん『赤旗』三月二十一日付は二面見開きで特集「新型コロナQ&A」を載せているが、そこでは「コロナ危機」の状況を打ち破る大衆闘争を呼びかけるのではなく、この状況の中でいかに上手に生きていくかの手ほどきをしているだけだ。
「安倍改憲は遠のいた」とも報じられているが、敵はしぶとく、「緊急事態」を使っての策動をはじめ、さまざまな策を弄して実現を狙うだろう。安倍が「オリンピックと改憲を自分の手で」などと言い出さないとも限らない。トランプ政権は一〇〇兆円以上(一説は二二〇兆円も)の経済対策を打ち出した。報道では、「安倍政権も三〇兆円、『国民』一人当たり一〇万円の現金・商品券支給」を言い出した。もちろんこの金は安倍たちや金持ちの資産から出るのではないし、「国民」の税金から出るのだが、それを政府はいかにも「やってます」と見せかけるのだ。つまり安倍たちは「国民」の税金一〇万円で票を買うということだ。そう言えば、いっとき世間を騒がせていた大企業の内部留保四六三兆円(一八年九月)の話は、どこかに消えてしまった。
『産経』論説委員長の乾正人は三月十四日の一面で「団結して『国難』に立ち向かえの」タイトルの主張を掲載し、その最後の部分で「事態鎮静の後に『コロナウイルスからの復興五輪』を開く方が、都民や国民の理解を得られよう」と書いている。
3・11から九年、「復興オリンピック」をまたしても政治利用することを、あけすけにすすめているのだ。われわれの敵は、えげつないが、正直だ。われわれは、敵階級の本質を見抜き、階級的憎悪を堅持し、やつらに勝利するために「諦めない闘い」を継続しなければならない。
(二〇二〇年三月二十四日)

(『思想運動』1051号 2020年4月1日号)