〈国際婦人デー東京集会ルポ〉
強まる自粛圧力のなかで集会を開催
階級的観点から女性問題を捉えよう
日本の女性の状況と運動の課題
集会実行委員会が集会の準備を進める中、コロナウイルス情勢は日を追って急変していった。実行委員会も開催か中止かの検討を迫られ、直前の断念も考えつつ、細心の注意を払って実施を決めた。
三月七日一三時半、司会の友田幸枝が国際婦人デー集会の開会を宣言した。実行委員の倉田智恵子は「戦争反対 声をあげよ、そして行動へ」をテーマに基調報告を行ない、その冒頭で、根拠の不明瞭なコロナウイルス対策で国民を翻弄する政府を批判した。続いて今年一一〇年を迎える国際婦人デーの意義を訴えた。資本主義の矛盾は世界中で噴出している。これに反対する闘いは世界各地でくりひろげられ、その闘いの中心に女性たちがいる。しかし日本の女性労働者が置かれている状況は現在も将来も悲惨極まりない。なぜ日本の女性労働者は政治的・組織的運動を作り出すことができないのか、報告はそのことを中心に分析し詳細に述べている(全文は間もなく発行の『国際主義』第一号を参照してほしい)。ここでは内容の一部を簡略に紹介する。
二〇代前半に就職氷河期を迎えた現在四〇代後半の世代の女性たちは天皇制を肯定的にとらえることは当然とされている時代に生まれ教育された。その一〇年前には男女雇用機会均等法が女子保護規定の撤廃と引き換えに成立していたために、二重、三重に自立の道を阻まれてきた。政府独占は、労働法制を改悪し、今日とりわけ女性労働の収奪は資本のほしいままである。組織的女性運動は低迷し、替わってジェンダー論があらゆる領域に浸透している。日本政府もジェンダー論を利用し、日本共産党も綱領に「ジェンダー平等社会をつくる」を加えた。
ジェンダー論はどのように発生したか。
階級的立場で問題を見ることが重要である。自民党の稲田朋美幹事長代行が憲法改正を視野に入れ女性政策で奔走している。安倍政権は改憲成功のカギは女性であると位置付けている。
報告のなかで昨年夏、実行委員の村上理恵子と倉田が日朝友好女性訪問団のメンバーとして朝鮮を訪ねたときに撮影した動画を上映した。日本では朝鮮は「何をするかわからない怖い国」という一辺倒の報道だ。だが現地では生活向上のために近代化をすすめ、ないものは自分たちで作り出す思想と技術力、自分たちのために国をつくるという意識と姿を目の当たりにしたという。中国・朝鮮に対する敵視・偏見は何のためか、それで都合が良いのは誰なのかを考えよう、世界の女性たちとともに何としても憲法改悪と帝国主義の戦争政策を許さず、社会主義の展望をもって闘おうと報告者は締めくくった。
佐野通夫氏の特別報告
佐野通夫さんは他の集会が中止される中、この集会の開催をたたえ、そして安倍政権の一斉休校要請を次のように批判した。藤田医科大学の感染症専門の先生が子どもに向けて書いた「コロナウイルスって何だろう」という絵本を紹介し、「新しいコロナウイルスは子どもがウイルスに感染してもほとんど何も起きない……」。今日の政治は医学の専門性・科学性を無視し、思いつきでなされている、子どもを学校から放してはいけない、と。
佐野さんはさらに安倍政権が進める幼保と高等教育の「無償化」の本質をえぐりだしていった。
高等教育の無償化は民主党政権時の二〇一〇年にできた「高校無償化法(公立高等学校にかかる授業料の不徴収および高等学校等就学支援金の支給に関する法律)」を根拠とする。安倍政権は発足直後、この「高校無償化法」から「公立高等学校にかかる授業料の不徴収および」の部分を削除した。つまりあくまで授業料は徴収し、一部の生徒に就学支援をする、これが「高等教育無償化」における安倍政権の基本姿勢である。
二〇一九年五月に「子ども・子育て支援法の一部を改正する法律と大学等における就学の支援に関する法律」が成立した。「大学無償化」というが国立大学授業料は今では六〇万円にもなる。しかも無償化対象は住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯のみでとても無償化とは言えない。
同じように幼児教育の無償化もひどい制度である。対象はほぼすべての認可幼児施設、認可外幼保機関、ベビーシッター等を利用する三歳から五歳と住民税非課税世帯の〇歳から二歳の子どもたちで、月に三万七〇〇〇円を上限に補償をする。つまり三歳~五歳は全員対象なのだが、幼稚園類似施設や各種学校認可下の外国人幼稚園は「……個別の教育に関する基準はなく、また多種多様な教育を行っており、児童福祉法上、認可外にも該当しないため無償化の対象としない」という理由にもならない理由で朝鮮人学校を外している。
日本では幼児施設は私立が多い。待機児童問題があるのは都会だけで、地方の幼稚園では少子化問題の方が深刻だ。与党の票田でもある私立幼稚園を救済するためにこの制度ができたと言えるくらいだ。公立保育所の民営化と公私保育所の劣悪化もすさまじい。横浜市はほぼすべてを民営化した。
安倍政権の教育制度は政権維持が第一で子どものためではない。教育は子どもの権利なのに、日本人の多くの意識は明治以来の教育観(お上が臣民に施すもの)だ。それを打破してすべての子どもたちがよい教育を受けられなければならないと佐野さんは力説した。
休憩の後はRico&Tatsu親子による歌と演奏である。伴奏が始まったとたんに会場の雰囲気が一変した。肩の力の抜けた和やかさに参加者からため息がもれた。母森理子さんは日本音楽協会で活動している。障害児である息子達哉さんとデュエットを組んで国会前や、闘う人びとの中で歌うようになった。(息子との)生活の歌を作曲し、「カード」、「名前」、「パラダイス」の三曲を歌った。会場は惜しみない拍手でわいた。この後、闘いの現場からの四つの報告があった(別掲参照)。その中で、幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会の宋恵淑さんが森親子の「名前」の歌に共感して述べられたことも忘れられない。
次に海外の友好団体からのメッセージが紹介された(今号の付録に全文掲載)。
集会後のデモを中止したため、最後に実行委員と報告者がデモのために作った色とりどりのプラカードを持って舞台に並び明日からの闘いにむけてシュプレヒコールをして散開とした。それぞれが抱えた闘争や日常が関わり合い溶け込んだ集会だった。
【古賀 圭】
(『思想運動』1051号 2020年4月1日号)
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