国際婦人デー
働く女性たちの困難と戦争の危機
現実から目を背けず、闘いに起とう!
新型コロナウイルス問題が全世界に影響を及ぼしている。
感染拡大が長引けば、日本国内でも製造業、観光業、サービス小売業などでは倒産、失業につながり、中小零細事業者、休業補償のない非正規労働者には死活問題だ。
現在、メディアは、「中国発の感染拡大」がニュースの中心で、桜を見る会問題での安倍首相の公職選挙法違反、公文書管理法違反を問いただすことも、東京高検の黒川検事長定年延長のために犯した森雅子法務相の虚偽答弁への追及も影が薄い。
国会での「はぐらかし」、「ごまかし」の横行にうんざりしている一般有権者の関心も、いつ新型肺炎感染が収束するのかに移りつつある。
一九一〇年の第二回社会主義婦人会議でクララ‐ツェトキンらによって提唱された国際婦人デーは、今年で一一〇年を迎える。「女性を差別・抑圧し、戦争を引き起こすものは資本主義である」とはっきりと指摘し、それを打ち倒そうと働く女性の団結を訴えたクララ‐ツェトキンらの主張は、残念ながら、いまもその輝きを失っていない。
資本主義の矛盾が世界中に噴出し、地域紛争、貧困、飢餓、格差、社会保障の削減、排外主義が拡がっている。しかし、それに抗し、欧州で、南北アメリカで、アジアで、やむことのない闘いが起こり続けている。その闘いの中心に女性たちがいる。
いっぽう、日本の女性たちの大部分は、組織的な政治・労働運動を作り出すことができえていない。それは、労働運動の弱体化によって特に若い女性たちが、派遣、請負、パート、出向、契約社員などさまざまな差別的な雇用形態のもとにおかれ、日常的なストレスばかりでなく、パワハラやセクハラなどの深刻な問題をかかえ、展望も出口も見いだせない状況にあるからだ、と言えよう。
しかし、女性たちが資本の攻勢によって、不安定な雇用、低い賃金、きびしい労働現場におかれているのは、資本主義諸国共通だ。ではなぜ、日本の女性たちが怒りを表せないままなのか。それは、ひと口で言えば、戦前戦後を通じて厳然としてある天皇を頂点とした日本社会の封建思想・体制のもとで育ち、教育され、それを克服する闘いを、女性たち自身が積みあげてこられなかったことにあるのではないか。
若い女性の働く実情
就職氷河期世代といわれる一九七〇年頃から一九八五年頃に生まれた世代は、九〇年代半ばから二〇〇〇年代半ばが、職に就く時期であった。
その時期は、新自由主義に基づく構造改革、規制緩和、民営化の嵐が吹きまくり、特に二〇〇〇年前後は企業が一斉に新卒採用を手控え、正規職につくことができる人は限られた。男女問わず多くが派遣や、アルバイトなど非正規職に就かざるを得なかった。
理不尽にも不安定な立場におかれた若い労働者たちは、自己責任・自助努力の言葉に翻弄される日々を過ごし、未来に希望が持てず、自信を無くした女性たちが、「家事手伝い」として家に引きこもる例も多々あった。家族を頼れない一人暮らしの若者の前途は、悲惨極まりない。
安倍首相は今年一月の施政方針で、「就職氷河期世代の皆さんの就業を三年間集中で一気に拡大する」そして「兼業や副業をやりくりするため労働時間に関するルールを明確化し、大企業に中途採用・経験者採用比率の開示を求め多様で柔軟な働き方となる改革を進める」と述べた。いかにも救援策のような言い方だが、その内実は、運輸や建設、農業など人手不足の業界団体や人材派遣会社に職業訓練、キャリア教育を委託しようというもの。就職氷河期世代を労働力供給源として使い捨てようという意図は明らかだ。それどころか、すでにAIや5Gに対応するために日本企業は、従来の長期雇用慣行を投げ捨て、正社員の範囲を限定し、中途採用やジョブ型雇用を拡大することによっていっそうの人件費コスト削減と労働者間競争の強化を狙っている。非正規雇用の拡大と並行して正社員の二層化が進行している。
ジョブ型つまり専門スキルを活かして勤務や勤務場所を絞って働くことは、アメリカでは熟練した専門職として条件も保障されているが、日本では、非熟練の非正規の若者が多い。地域最賃に近い安い賃金で企業の都合のいいように働かせられている。これまでの新卒一括採用で長期雇用の正社員よりも新たな技術を開発できる人間をとっかえひっかえするほうが資本にとってより旨みがある。中途採用は、国籍も男女も年齢も問わない。効率よく働きさえすればいいのだ。政府と企業は、就職氷河期世代=中途採用者の有効活用・即戦力化を画策している。
現在、「自由で好きな時に好きなように働くことができる」仕事として女性たちを組み込んでいるのがネットを活用した仕事だ。企業に属さず、個人で複数のクライアントと契約して仕事をするフリーランス。しかし、労働者としての保証は切り捨てられている。今後、企業の幹部ではないジョブ型正社員とフリーランスとして働く女性たちが確実に増えていく。
一九七四、五年恐慌以後、政府・資本は、危機乗り切りのために、いつでも首を切ることができる低賃金の労働者を大量にうみだすことを狙った。そのためには労基法の女子保護規定=時間外、休日、深夜業の規制を緩和させ、女性を夜・昼問わずに酷使することがもっとも有効で早道だった。女性たちは、非正規で格安な厳しい労働環境におかれた。一九八〇年代から九〇年代、政府・資本は女子保護規定撤廃を突破口にして、裁量労働制の拡大、有期雇用の上限延長と次々に労働法制を改悪していった。労働組合の闘いも弱く、思いどおりに事を運び、労働者は奴隷のごとく無権利になっていった。
このとき政府資本の策動を助けたのが学者や弁護士の「女性の権利拡大のためには保護よりもまず雇用平等法を」の声だった。女性労働者や労組活動家たちの多くが「保護か平等か」の二者択一論に惑わされて運動の方向を見誤り、労基法改悪を阻止できなかった。そして一九八五年、男女雇用機会均等法、労働者派遣法が成立した。
政党や労働組合に大きな影響を与えた学者や弁護士たちは、女性差別の原因を性別役割分業にあるとし、その解消を一番に掲げた。性別役割分業は解消されるに越したことはないが、差別は資本主義、階級社会が生み出すものであり、資本との闘いがなければなくならない。資本主義が引き起こす問題をそのままにした平等法制定運動を、政府・資本はマスコミを総動員して持ち上げた。法制定に頼る運動は、労組の存立基盤を失わせ、運動は議会主義、市民主義の方向に走ることになった。
国際婦人デー集会に参加しよう
安倍首相は、戦争政策を推進するために、任期中の憲法改悪を至上命題としている。衆参両院の議席は「改憲派」が圧倒的多数だ。しかし、自民党はそれでも安心できず、国民投票での改憲有効票数獲得を確実にするため、非正規職で生活苦を抱える女性や、憲法改悪反対派、リベラル派などをターゲットにした「左」にウイングをひろげたアピールを強化している。わたしたちにとって戦争は、どんな災害よりも第一に防がなければならない最大の災害である。いまこそわたしたちは、現実を直視し、けっしてあきらめることなく起ち上がるために、国際婦人デー集会に集い、闘う意思を再確認しあおう。
【国際婦人デー3・7東京集会実行委員会】
(『思想運動』1050号 2020年3月1日号)
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