壊憲NO! 96条改悪反対連絡会議の講演と討論の集い
ともに闘う仲間として団結しよう

移住労働者の問題をテーマに指宿昭一弁護士が講演


技能実習生など海外からの移住労働者は年々増え、現在一五〇万人とも言われている。農業でも製造・建築・サービス業等々でも、かれらの労働抜きにはこんにち日本の社会はまわっていかない。ところが、その人権状況・労働環境は酷い。今年四月の出入国管理法「改正」はむしろ改悪であって移住労働者を剥き出しの搾取構造の中に置き去りにするものであった。
こうした中、「移住労働者とどう向き合うか」をテーマとした講演と討論の集いが十一月十五日、都内にある文京シビックセンターの四階シルバーホールで開催された。主催したのは〈改憲NО! 96条改悪反対連絡会議〉である。多くの労働者の参加で会場は満席となった。

二瓶・共同代表の挨拶

午後六時半、司会の土松克典氏(連絡会議事務局)が「同じ労働者として向き合うことが求められている」と述べて集会が始まった。まず、連絡会議共同代表の二瓶久勝氏が主催者を代表して挨拶する。
「今日、講演をお願いする指宿昭一弁護士は国鉄闘争における対鉄建公団訴訟(二〇一〇年に和解成立)以来の仲だ。国鉄では一九九〇年に多くの仲間が首を切られた。かつて中曽根康弘は国労を叩き潰して改憲する。そのための国鉄民営化だと嘯いた。国鉄のあと郵政、水道と民営化が進み、新天皇即位式にあたっては憲法が謳う国民主権に反して天皇を高いところにおいて安倍が万歳をする。中曽根の筋書き通りになっている。今月、大嘗祭に二四億円かけた。台風被害の手当てもせず、なんで税金を使うのか。天皇個人の問題ではない。天皇制そのものを廃止しなくては。今年六月、長崎の大村収容所で四〇代のナイジェリア人がハンストをやって死亡した。移住労働者に対して日本という国がいかに酷い扱いをしているかということだ。正規と非正規の格差があって、さらにその下に移住労働者が置かれている。自分より下に誰かいてほしいという心理。そこにつけこんで分断支配しようとする。わたしはオリジン電気の労働組合出身だが、オリジンでは労組の闘いで四〇年前に男女の賃金差を無くした。その結果、生産性は衰えず逆に上がった。差別はいけないのだ。安倍を辞任に追い込めないのはわれわれの力不足。労働組合に責任がある。状況をいくらわかっていてもだめだ。行動しなくてはならない。わたしは千葉県に住んでいるから、やはり県民である全労協前議長の金澤壽さん、国労元委員長の坂口智彦さんと三人で〈京葉ユニオン結成準備会〉というものを立ち上げる。」
二瓶氏が挨拶で触れた京葉ユニオンについては、参加よびかけのチラシが集会プログラムにも帳合いされていた。十二月二十三日午後六時から、国労千葉地本会議室で結成準備会が開かれる。
続いて、指宿昭一弁護士が「技能実習制度・入管法『改正』と労働運動・市民運動の課題」と題して一時間にわたって講演を行なった。労働運動に関わりたくて弁護士になり、中でも移住労働者問題を特に重要と考えてきたという指宿弁護士の立場は「国民という言い方は違う。国籍にかかわらず人間としてということだ」という語り出しに象徴されていたと思う。熱のこもった講演だった。

指宿弁護士の講演

在留外国人の総数は二〇一〇年末で前年同期より六・六%増えて二七三万一〇九三人である。このうちで雇用されている人は二〇一六年十月末に一〇八万三七六九人だったのが翌二〇一七年同期には前年より一八・〇%増えて一二七万八六七〇人に、さらに二〇一八年同期には前年比一四・二%増で一四六万四六三人になった。どんどん増えている。
中国からが一番多く、一八年十月末で三八万九一一七人と全体の二六・六%を占める。次がベトナムからで、この一年間で三一・九%も増えて三一万六八四〇人である。全体の二一・七%だ。
その労働者数のうち、身分に基づく在留資格が、旧植民地出身で特別永住権がある人たちなどだが、四九万五六六八人で全体の三三・九%である。次いで技能実習生が三〇万八四八九人。前年より一九・七%増えている。そのつぎが資格外活動つまり留学生で二九万八四六一人。前年より一五・〇%増だ。つまり、本来は労働者ではないのに労働者として働かせられている技能実習生と留学生がどちらも年々増えてきて約三〇万人ずつ。移住労働者の中でほぼ二〇%ずついる。これが大きな特徴だ。
この人たちがどんな働かされ方をしているか。資料として『朝日新聞』二〇〇八年三月八日付の岐阜県版に載った記事のコピーを持ってきた。岐阜市内の縫製会社で働いていた中国人実習生の女性四人が二年半分の未払い賃金約一一〇〇万円を求めて労働審判を申し立てた。彼女たちは朝から夜一一時ごろまで働き、徹夜することもあった。休みは数か月に一日だ。残業時間は多い月には二一九時間にも。残業代は一時間三〇〇円。賃金は月四万円しか払われなかった。パスポートや外国人登録証は会社に預けさせられていた。
一二年前のケースだが、技能実習制度の問題点が典型的に出ている。そして今日でも実態がまったく変わっていないことが問題なのだ。技能実習制度は「発展途上国への技術移転による国際貢献を目的」と謳われているが真っ赤なウソだ。彼女たちは日本に来る前に自国で縫製の仕事をやってきており、日本で学んだ技術などまったくない。この制度は実際には安価な労働力を確保するために作られ、運営されてきたのである。

労基法はどこへ

二〇一八年に明らかにされた厚労省の調査で労働基準関係法令の違反が認められたのは七〇・四%に上った。約六〇〇〇の事業所のうち四二〇〇か所だ。最低賃金など労働基準法は移住労働者にももちろん適用される。ところが、そのことを知らない、あるいは知っていても知らないふりをして開き直る経営者がいる。また、表向き最低賃金をクリアする賃金にしても、不当に高い家賃、光熱費をそこから控除する。実習生を受け入れる事業協同組合などの管理団体が各企業や農家から実習生一人につき毎月三~五万円の管理費を徴収する。そうしたことが手取り賃金額を月三~四万円にしてしまう。
四二〇〇もの法違反があっても、実習生から申告があったのは約一〇〇件だ。なぜか。実習生はがんじがらめにされているのだ。ベトナムから技能実習生として日本に来るとき、渡航前費用として一〇〇万円くらい徴収される。現在ベトナムでの平均年収は二五万円くらいで、一〇〇万といえば年収の四年分。実費は一五万~二〇万円のはずなのに、送り出し機関というブローカーが残りを中間搾取する。その際、送り出し機関が違約金契約と保証人を要求する。これは制度上も二国間覚書でも禁止されているのだがなくならない。日本で実習生受け入れにあたる管理団体にもいかがわしいブローカーがいて、実習生が法違反を申告しようとする動きをつかむと、無理やり空港に連れて行って強制帰国させてしまう。申告して日本の労働審判で訴えが通って未払い残業代を取り戻しても、自国に戻ったら取り戻したのと同じくらいの違約金を払わされるケースも少なくない。そうしたことで実習生はものを言えなくさせられている。そんな中で、むしろ一〇〇件の申告がよくあったとさえ思う。安倍政権は口先だけで、規制をまったくやっていない。
日本の労働組合は良心的なところでも「支援」にとどまっている。移住労働者の低賃金によって日本の労働者の賃金が下がるという考えは一〇〇%間違っているわけではないけれど危険ではないか。入ってくるなではなく、なぜ共に闘おうとしないのだろうか。

真のインターナショナリズムを

移住労働者が運動の大きな力になっている国はたくさんある。たとえばベトナム人労働者を組織しようとするならベトナム人の中に活動家を育てなくてはならない。……
指宿弁護士は最後に「インターナショナル」の歌を引いて、国内にいる国籍の違う労働者と団結できずに国際連帯とは言えないのでは、と提起して講演をむすんだ。質疑では最初の質問者は、鉄筋施工などの技能実習をする契約だったベトナム人実習生が福島で除染作業や避難指示区域内での作業をさせられたケースについて質問した。元実習生たちは九月、福島地裁に提訴している。
約三〇分の質疑応答に、この集会に参加するため鹿児島から来たという人など六名から発言があり、午後八時半、二瓶・連絡会議共同代表の音頭による「団結がんばろう!」で集会は締めくくられた。【土田宏樹】

(『思想運動』1047号 2019年12月1日号)