GM全米ストライキ四〇日間闘い抜く
非正規労働者の正規雇用化前進

五〇年ぶりの長期スト

 UAW(全米自動車労組)のGM(ゼネラルモーターズ)労働者四万八〇〇〇人は、十月二十五日ストライキ闘争終結を承認した。九月十五日深夜に開始した二〇〇七年以来一二年ぶりの全米スト闘争は、実に五〇年前一九七〇年の五四日間ストに続く四〇日間の長期ストとなった。
 闘いは十月十六日GMとUAW執行部間で暫定合意。労組執行部は翌十七日各支部代表者会議でスト闘争終結を行なおうとしたが、支部代表者会議で「スト闘争継続し全員投票で闘争終了を決める」こととなった。そして労組員五七・一%賛成で暫定合意を承認、ストを終結した。
 UAWはGMと四年毎に労働協約改定を行なっている。UAWは七月十六日から協約改定交渉を開始したが、昨年十一月米国四工場閉鎖を発表したGMとのギャップが大きく今回のスト突入となった。
 UAWは五項目要求(四工場閉鎖撤回/賃上げ/医療費負担軽減/非正規労働者の正規雇用化など)を掲げ、米国九つの州にある全GM五五拠点(三三製造工場、二二流通部品倉庫)でストを実施。
 合意内容は、①閉鎖予定四工場のうち三工場の閉鎖、②最高時給三〇ドル(約三二七〇円)を三二ドル(約三四九〇円)に増、③交互年毎に年三%賃上げまたは一時金四%増、④正規雇用者一万一〇〇〇ドル(約一二〇万円)・非正規雇用者四五〇〇ドル(約五〇万円)臨時ボーナス、⑤手厚い医療保険の維持などである。
 正規雇用化については、非正規雇用者は三年就業後正規雇用。新採用正規雇用者が八年で最高時給を得るのに対し四年で最高時給を得るで合意。
 GMは今回の生産停止で二〇億ドル(約二三〇〇億円)の損失を被ったと試算されている。また、メキシコおよびカナダのGM工場も部品供給の支障で操業停止し、十月一日メキシコの二工場六〇〇〇人が一時帰休となった。GM工場への部品供給メーカー約一〇〇社は操業停止を余儀なくされ、スト開始直後の九月十六日に七万五〇〇〇人を一時解雇している。ミシガン州では部品供給メーカー労働者五〇〇〇人が失業手当を申請した。

GMストは米国労組運動復権を象徴

 UAWはスト中、労組員に週二五〇ドル(約二万七〇〇〇円)を支給、闘争四週間経過の十月十三日からは週二七五ドル(約三万円)を支給した。無論この収入は通常の半分以下で家計を支えきれない。それでも労組員たちは一丸となって闘い続けた。
 GMは七月に開始した協約改定交渉で、ぎりぎりストを回避できると判断していた。GMは労組の五項目要求のうち正規雇用化を除く四項目で改善提案を明示していた。それには四工場閉鎖撤回に対し、一工場を電気自動車向けに存続するとの提案も含む。
 スト開始そして長期の闘い継続の背景には、労組員全体の四工場閉鎖と非正規労働者の実状に対する怒りがある。GMは二〇〇九年の米国政府五〇〇億ドル投入のGM救済以後、非正規労働者導入を推進してきた。労働者の二〇%が非正規である。非正規労働者の時給は約一五ドルで正規労働者の半分以下だが、仕事内容は正規労働者と同じである。年休はわずか三日で、実質無期限雇用である。
 UAW労組員の労組執行部への突き上げも厳しくなっている。前回二〇一五年協約改定では三〇年ぶりにGMと労組執行部の合意が労組員により一度覆されている。
 また、今回の労組員全員投票では工場閉鎖対象支部では新協約に反対が多数を占めた支部もある。
 『日経』(九月二十五日)に英フィナンシャルタイムスのコラム(ラナ‐フォルーハー)が掲載されている。コラムは「GMストは米国で労組活動復権を印象づけた。/昔ながらの労働運動の最後のあがきと見なすかもしれないが違う。/最近の組合加入者増加の背後には、比較的若く、人種や文化面で多様かつ十分な仕事のないミレニアム世代が多くいる」と指摘している。
 GMは二〇〇七年以後下請化を推進。工場内の清掃や組立部品整理などは高齢化した勤続年数の長い労働者が従事した仕事を下請化した。テネシー州スプリングヒルGM工場の労働者五二〇〇人は全員UAW労組員であるが、三六〇〇人は労働協約適用だが、一六〇〇人の下請労働者は協約適用外である。
 米労働統計局の二月発表データで、二〇一八年の一年間のスト参加者数が五三万三〇〇〇人で一九八六年以後最大となった。二〇〇七年の二日間ストの際、UAW労組員七万三〇〇人が全米八〇拠点で闘った。GM拠点の減少もあり、UAW労組員数は三分の二に減少している。
 厳しい状況のなか、搾取の自由を当然と主張する資本主義に対し米国労働者は自分たちの生きる権利を主張し敢然と前に歩んでいる。【沖江和博】

(『思想運動』1046号 2019年11月1日号)