労働者通信 台風一五号災害で考えたこと
復旧が進まないのは職員の大幅削減が原因

        中村美彦(千葉県・市原地区労議長)

十一日に内閣改造など言語道断

 今回の過去に例を見ないような台風の被害にあわれた方々に心からのお見舞いを申し上げます。
 わたしも現在千葉県市原市に在住していますので、各地からご心配の言葉をいただきました。幸いなことに、洗濯物を飛ばされたこと以上の被害はなく、騒いでいたほどたいした台風ではなかったのだな、と九月十日の朝、家を出るまではそう思っていました。
 しかし一歩外に出ると風景が違っていました。集合住宅の道路は木の枝や葉で覆われ、多くの方がそれをかき集めていました。クルマのボンネットもフロントガラスも同様でした。走るのに支障のないように取り除いて出発すると、何でもないところで渋滞しています。信号機が点いていないのです。大きな木が倒れ、瓦が飛ばされていました。その時は、まだ大停電が起こっていることに気が付いていませんでした。
 東京電力によると十日午後の停電は千葉県内で五六万軒に達していたとのことです。被災というと東日本大震災時の津波に顕著なように等しく呑み込んでいくイメージがありますが、そんなものではないようです。わたしのように何の被害もないものもいれば、数十メートルしか離れていないのに、屋根も飛ばされ、電気も水もダメというケースもありました。
 そして、十日午後、東電は「今夜中に(停電が) 約二万軒まで縮小する見込み」だと発表し、残りについても「明日中の復旧を目指す」としていました。しかし、十三日の夜の会見で、同日から二週間以内に「おおむね復旧する」との認識を示しました。
 以上述べたことから始まっていろいろなことを考えました。
 まず第一に指摘すべきは政府も県もメディアも情報収集がなってない、ということです。災害だから仕方がない面もあるかもしれませんが、「大災害ではないのか」と考える緊張感に欠けていたことは間違いないでしょう。十一日に行なった内閣改造など言語道断です。自民党は昨年も西日本豪雨の際の「赤坂自民亭」でひんしゅくを買ったばかりなのに、何の反省もしていないことが明らかです。こんな奴らにいつまで国政を任せておくのか、と怒りが止まりません。内閣改造を災害報道より優先するメディアの報道姿勢も安倍独裁が生み出したものでしょう。安倍打倒を何としても成し遂げなければなりません。

自治体の対応の遅れと公務員リストラ

 さて、今回もボランティアの活躍が報道されています。志があり、それを実行に移す方が多くいらっしゃることに頭が下がります。しかし、その善意が被災者にすべて届いているのか、という疑問もまたわいてきます。というのも、ボランティアの受け入れも含めて、現地で被災者の救済や災害復旧作業の先頭に立たなければならない公務員が絶対的に足りないからです。
 ヤフーニュース(九月十七日)にアップされた神戸国際大学の中村智彦教授の「役所の職員が来るのが遅いのはなぜ? 自然災害が明らかにした人員不足」という文章をたまたま読みました。そのなかに総務省の「平成三〇年地方公共団体定員管理調査結果」というデータが紹介されていて、それによると、一九九四年に約三二八万人いた地方公共団体の職員は、二〇一八年には約二七四万人と五五万人、一七%も減少しているのです。なかでも市町村の土木部門の職員数の減少の割合は大きく、技術系職員のいない市町村の割合は三割に上っているといいます。
 この文章には、国土交通省関係の団体職員の次のような言葉が紹介されています。「公務員叩きをすれば票になるということで、人員も削減してきた。しかし、災害発生だけではなく、これから大きな問題が発生する。もちろん、災害に備えて余剰の人員を抱えておく余裕はないという批判も理解する。しかし、この一〇年ほどの急激な職員数の減員が日常業務の執行に限界までになっている点も理解してほしい」と。
 つまり、今回の台風被害に対し各自治体の対応が迅速に進まなかった背景には、そうした公務員リストラの問題があると思うのです。

東電では大震災後大幅なコスト削減

 また、東京電力は当初の発表の見通しの甘さを認めていますが、東電についても職員の削減や設備投資の削減が復旧の遅れの遠因となっているようです。『しんぶん赤旗』九月十四日付に「停電 遅れる復旧なぜ 『想定甘かった』と東電 人員・設備投資減が影響か」という記事が載っています。それによると、東電は電力自由化で大口需要家市場に他社の参入が始まった二〇〇〇年代から経営合理化に大きくかじを切り、原発事故で賠償・廃炉に巨額の出費が見込まれたことがさらに拍車をかけた。事故後の新卒採用の抑制で数千人の人員を削減、二〇一四年には五〇歳以上の社員一〇〇〇人以上が希望退職に応じた。一九九一年には九〇〇〇億円あった送配電設備への投資額は昨年には三〇〇〇億円に減った。こうしたことを紹介し、今回の対応の遅れとコスト削減・リストラとの関係を問題にしています。
 大きな災害に対する家庭での備えや対応の大切さが強調されますが、今回の台風被害では、国や自治体、関連の企業の対策がどうなっているかを住民の側が厳しく点検・追及していくことの重要性を痛感しました。

(『思想運動』1045号 2019年10月1日号)