孤立する中東政策の打開を狙う米帝国主義
安倍政権の有志連合参加策動を許すな


なし崩し的参加を進める安倍政権

 五月中旬アラブ首長国連邦沖で四隻の船舶が攻撃を受け、六月中旬ホルムズ海峡で二隻の日本タンカーが攻撃を受けた。米国は不鮮明な映像を公開し、何ら証拠も示さずに日本タンカー攻撃はイランが行なったと非難した。
 米国は一貫して中東での対立と緊張を煽りたててきた(後述)。六月下旬イラン領海に侵入した米国無人軍用機がイラン革命防衛隊により警告のため撃墜される(米国はこの撃墜に対する報復攻撃を開始直前に中止)など緊張が高まる中、トランプ米大統領は六月下旬「自国の船は自国で守るべき」と主張。この具体化として、七月上旬ダンフォード統合参謀本部議長(米軍制服組トップ)が「有志連合」構想を発表した。
 米国は「有志連合」センチネル(番人)作戦の説明会を、七月十九日国務省(六〇余国参加)、二十五日フロリダ州空軍基地米中央軍司令部(三〇余国参加)、三十一日バーレーン米中央軍海軍司令部で行なった。
 作戦は、四海域(ペルシャ湾、ホルムズ海峡、バベルマンデブ海峡、オマーン湾)を対象に、監視は米軍が中心で統括を行ない各国と情報を共有、船舶の護衛は各国の判断に委ねる。
 ポンペオ米国務長官は、七か国(日本、韓国、オーストラリア、英国、フランス、ドイツ、ノルウェー)に参加要請をしたと明言。
 現時点(八月十八日)で参加表明したのは英国のみで、ドイツとインドは不参加を表明をしている。
 日本に圧力をかけるため、七月下旬ボルトン米大統領補佐官、八月上旬エスパー米国防長官が来日。その後、八月九日「ホルムズ自衛隊活用浮上/独自派遣も選択肢、要員や艦船・哨戒機検討」(『日経』)など各紙が一斉に日本政府内部での「有志連合」検討状況をほぼ同一内容で報道した。安倍政権は、「参加」表明を行なわないまま、なし崩し的に「有志連合」参加へ向け枠組みづくりを進めている。

対立と緊張を煽りたてる米国

 米国は中東政策では一貫してイスラエルおよびサウジアラビア両国政府と協調してきた。トランプ政権になり、よりいっそう緊密度を増し、中東全域に対立と緊張を煽りたてている。
 二〇一七年十二月米国は翌年五月の米国大使館エルサレム移転を宣言。パレスチナ人民は米国とイスラエルの一連の政策に抗議し、二〇一八年三月三十日「土地の日」に「祖国への帰還の権利を求める大行進」を開始しその闘いは今も続いている。今年八月十六日(金)にも通算七〇回目の「帰還大行進」を実施した。イスラエル軍の銃撃によりこれまでに死者三一〇名、負傷者三万一〇〇〇人に及んでいる。
 二〇一八年四月米英仏軍は、化学兵器使用を理由にシリア攻撃を実施。シリアの要請により化学兵器禁止機関が調査開始する直前に攻撃を実施したのである。
 五月米政権は一方的に「核合意」離脱を宣言。トランプの大統領選の公約であった。そして、八月イラン制裁を再開、十一月制裁第二段(原油禁輸、八か国・地域猶予)を開始した。
 二〇一九年三月、米国は前倒し選挙でイスラエルのネタニヤフ支援のため、イスラエルが占領するゴラン高原のイスラエル主権を承認した。
 四月、米国はイラン革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定し、イラン原油全面禁輸(猶予なし)を宣言。五月、輸出の一〇%を占める金属(鉄鋼、アルミなど)の輸出禁止制裁を実施。以後イランの制裁対象をペルシャ湾石油産業公社(イラン石油化学産業の四〇%を占める)およびハメネイ師と革命防衛隊指令官八名、ザリフ外相など次つぎと拡大していった。
 そして、空母・戦略爆撃機派遣(五月)、中東軍派遣一五〇〇人増派(五月)、一〇〇〇人増派(六月)、サウジアラビア駐留再開(七月、一六年ぶり、五〇〇人)と軍増強。
 米国の制裁が、イランにおける広範な工場閉鎖と経済の急落、失業の増加、貧困の拡大をもたらしている。二〇一八年十一月時点、失業率は一二・一%、三〇歳未満(人口八〇〇〇万人の六〇%)は二五%にも達した。
 制裁が強化された今年六月以降、物価が乱高下し人びとの生活を直撃、投機家たちの買い占めにより極端な品不足となっている。
 イラン財政の八〇%は石油に依存するが、イランの原油輸出量は、二〇一七年まで二八〇万バレル/日、二〇一八年四月二五〇万バレル/日、二〇一九年六月三〇万バレル/日と激減している。

平和勢力全体で戦争の危機阻止を

 米国は中東で対立と緊張を煽りたてているが、米国の中東政策は中東地域、全世界で孤立している。
 先に述べたようにパレスチナ人民は「帰還大行進」を闘い続けている。二〇一八年五月米国大使館エルサレム移転時のイスラエル主催式典の出席はわずか二三か国(招待八六か国)で、エルサレム移転追随諸国も数か国である。
 米国が「核合意」離脱後、英仏独は「核合意」遵守のため米国のイラン制裁対抗策としてイランとの貿易維持のため「貿易取引支援機関」創設で合意した。しかし、同機関は今年七月にようやく稼働開始、金融規模(欧州=数百万ユーロ、イラン要望=一〇億ユーロ)にギャップがある。
 二〇一九年六月米国はバーレーンで一〇年間五〇〇億ドルの鳴り物入りで「パレスチナ支援会議」を開催したが拠出表明国はゼロで失敗した。しかし、「米国はイランの脅威をアピールしイラン包囲網形成に一定の成果を得た」(『日経』六月二十八日)。
 米国は追い込まれた中東政策の孤立打開を狙っている。今回の「有志連合」も多くの加盟諸国を得ることで孤立を打開しようとする米国の施策のひとつなのである。
 イランツデー党は六月二十三日の声明で次のように述べている。
 「現在の状況は長期間持続できない。このことを熟知するイラン政権の指導者たちは『核合意』から完全に撤退しウラン濃縮を加速させると脅迫し地域の緊張が増している。現在の緊張の継続とイラン国内での『戦時中の状況』の進展は、政権が抑圧と専制を強める。
 イランツデー党は、国のすべての愛国的勢力と同じく、『政権交代』を策動する帝国主義国家の干渉および地域諸国の介入に断固として反対する。イランを支配している独裁政権を廃止し、イランの自由と主権を守り、現在の抑圧と汚職を終わらせ、社会正義をもたらす政策を実行する人民指向の民主的政府を設立することは、闘いを通してのみ実現できる。危険な軍事紛争を防止し、緊張を緩和し、地域内および世界的に平和を支持する力強い運動を動員するための闘争は、緊急の課題である。手をつなぎ前進しよう。イランの神権政権を打倒しよう。」
 日本の「有志連合」参加は中東の対立と緊張をいっそう拡大する。実情を訴え、危険を暴露し、そして連携して日本政府の「有志連合」参加を阻止しよう。 【三田 博】

(『思想運動』1044号 2019年9月1日号)