「野党統一?」と天皇代替わり
統一地方選挙に見る日本の政治構造


 来る七月の参院選は、改憲勢力が引き続き憲法「改正」の発議に必要な三分の二の議席を確保するのか、改憲反対勢力がそれを阻止することができるかを最大の争点として戦われる。
 参院で三分の二超の議席があるいまのうちに改憲を発議し、二〇二〇年に“悲願”の憲法「改正」を成し遂げようと安倍が描いた政治日程はいまや不可能になった。こうした状況を踏まえてだろう、衆議院を解散し衆参同時選挙に持ち込む思惑がくすぶりつづける。同時選挙の相乗効果で一挙に打開しようとする目論見なのである。
 参院選に向けた改憲反対勢力の結集と態勢づくり、労働者人民の闘いはいかにあるべきかが問われていることはいうまでもない。そのためにも四月におこなわれた選挙全般を分析し、評価する作業が不可欠だ。

自公優位は揺るがず

 本紙の基本的立場を明らかにしておこう。
 われわれは議会選挙の重要性を認める。しかし、それとともに、労働者人民の政治闘争を議会選挙に閉じ込め、矮小化する議会至上主義への批判的観点を貫く。大衆的政治闘争の展開が主であるべきであって、それがあってこそ選挙でも前進する保証となり、確固たる橋頭堡を築くことができる。こうした立場が、「現実」の諸関係と乖離していることはもとより承知しているが、この乖離をいかに縮めるかがわが労働者運動のつねに変わることのない課題なのである。
 四月におこなわれた一連の選挙は、七日投票の前半戦と、二十一日投票の後半戦とに分けて実施された。細部はともかく、全体を俯瞰して、大まかな特徴点をつかむことがここでの課題となる。
 モリ・カケ問題、防衛省の日報隠蔽、統計不正など、真相解明に程遠く、すべてがうやむやのうちに葬られた不祥事の数々、事実上更迭された桜田・塚田の“失言”問題、長期政権の驕りの度重なる露呈にもかかわらず、自民党の優位は揺るがなかった。各種世論調査によると、安倍政権の支持率は改元騒ぎの演出と露骨な政治利用も相まって、軒並み上昇した。
 派閥間の軋轢から分裂選挙となった四知事選のうち、福岡と島根で自民党候補が現職に敗れるハプニングがあったものの、再選された現職はもともと自民党のひもつきだったのだから、自民党の基盤が揺らいだわけではなかった。
 〝与野党対決〟の北海道で野党統一候補を大差で破り圧勝したほか、四〇道府県議会で第一党の地位を守り、前回を上回る定数の過半数超の議席を確保した。
 一方、今次選挙の平均投票率は五〇%を切り、史上最低を更新した。無党派層はもはや投票所に行かなくなった。ブルジョワ独裁にとってこれほど好都合なことはない。低投票率の定着は、この社会が病み、活力を失った証左なのである。
 「与党対野党」という対比にどれほどの意味があるか。各政党をその階級的性格において評価するわれわれは、こうした見方を否定せざるをえない。維新は大阪の府知事と市長のいわゆるダブル選挙で圧勝し、その余勢を駆って衆院大阪一二区補選も制した。かれらは、いわずと知れた改憲勢力である。安倍官邸は大阪の自党候補の選挙に積極的に動こうとしなかった。維新と気脈を通じていたからだ。
 地方議会に多い諸派や無所属のなかにも、改憲勢力や隠れ自民党の別働隊は少なからずいる。東京二一区議選で都民ファーストが一九議席を、また日本会議の息のかかったワンイシューの「NHKから国民を守る党」は一七議席を獲得した。自民党は区議選で二〇議席を失ったとはいえ、全市議選で一〇〇議席を上積みする強さを発揮した。

「九条改憲」の争点化

 それに引き替え旧民主系の不振が目立った。立憲と国民民主(以下「国民」)は前半戦で三三三議席を獲得したが、前回の三九一議席から一五%減らした。後半戦でやや持ち直したとはいえ党勢の伸び悩みは覆うべくもなかった。
 四月の選挙結果に示されたのは、組織力と財政力の有無と差異が明暗を分けるという、冷厳たる事実であった。自民は北海道知事選で徹底した組織選を展開した。支持した企業・団体は一〇〇〇以上といわれる。公明には創価学会という磐石な基盤が存する。共産は衰えたとはいえ党組織があるのに対して、立憲・国民はもっぱら「風」だのみ、根無し草の脆弱性を露呈した。
 いっそう深刻なのは共産と社民の敗北である。社民はトータルで二六議席を、共産は同じく一一三議席を失った(町村議選は除く)。共産は道府県と市と区のすべてで後退した。全般を見渡すかぎり、政権与党と補完勢力の健闘・優勢、野党・改憲反対派の敗北・劣勢という厳しい現実を浮き彫りにして終わった。
 四月の選挙期間中、野党統一の成功は、衆院補選沖縄三区と札幌市長選の二例にとどまった。次の焦点は七月の参院選に移る。
 五月三日、安倍は日本会議系の「公開憲法フォーラム」にビデオメッセージを寄せ、昨年の同集会で「二〇二〇年を新しい憲法が施行される年にしたいといったが、いまもその気持ちに変わりはない。憲法に『自衛隊』の根拠規定を明記し、違憲論に終止符を打つ」と、九条改憲にあらためて意欲を示した。
 改憲勢力は参院で一六五議席(自民一二三・公明二五・維新一二・希望三・無所属二)、三分の二をわずかに超える。改選で八七議席を超えないと三分の二割れする。「四月の道府県議選の得票をもとに試算すると、公明・維新を加えても三分の二に届かない」(四月二十三日『産経』)。自民の甘利選対本部長も、党内の引き締めを図る意図もあるだろうが、改選対象六六議席を維持するのは難しいと語る(五月十六日)。
 『サンデー毎日』五月二十一日号がこれと類似の見立て「参院選一二四議席当落全予測」を掲載したが、与党の改選後の議席数は一四一(自民一一三・公明二八)、維新一三・希望一を加えると一五五議席、三分の二に届かないと予測する。各種世論調査の結果、公明の消極的態度などを勘案すると、あくまでも希望的観測にすぎないが、来る参院選で九条改憲を争点化し正面突破を図る難しさを、安倍たちもある程度予測しているのではないか。

与野党対決の落とし穴

 一方、これを迎え撃つ野党六党は、一月末、全国三二ある一人区の候補者一本化で合意したものの、現時点で話がまとまったのは愛媛・熊本・沖縄の三選挙区にすぎない。
 立憲と国民のかねてからの確執や、連合を支持母胎とする国民の共産と組むことへの抵抗が立ちはだかる。現に、熊本の予定候補者が統一地方選で共産の候補者を支援したという理由から、連合が推薦を取り消す事態も起きた(五月二十三日)。連合内の電力総連や電機連合の意向を忖度すると、共通政策に「原発再稼動反対」を掲げることもできない。「真の保守」を広言する立憲の枝野代表の本音は改憲志向にある。国民は内部に改憲派を抱える。だから「安4倍政権下の改憲に反対」にトーンダウンせざるをえない。
 一口に野党統一といっても内実はバラバラなのだ。
 そうしたなか、共産党が五月十二日の六中総で「相互推薦・相互支援」という従来の主張を撤回する方針を決めた。これは一人区に自党候補を立てないことを意味する。
 野党統一の実現に“誠意”を示したつもりだろうが、一人区で野党が候補者を一本化しても効果は限定的であって、自民が三議席減らすだけという見方もある(前掲『サンデー毎日』)。たんなる数合わせでは、この状況を突破することはできないことを知るべきである。
 さまざまな矛盾をはらみながら進む「野党統一」の気運を見守るわれわれは、さしあたり他に有効な対抗策を見出せない以上、安倍政権を阻止するための応急措置として受け入れざるをえない立場にある。だが野党統一は、到底見過ごすことのできない思想的対決の放棄を伴っていた。
 それは、天皇代替わりに際し衆参両院で「賀詞決議」が全会一致で採択されたことにかかわる。五月九日、衆院本会議で採択された決議は「天皇皇后両陛下のいよいよの御清祥と令和の御代の末永き弥い や栄さ かをお祈り申し上げます」と天皇の治世が永遠につづくことを「国民の代表」の名において表明していた。一方で〝与野党対決〟を呼号しつつ、他方で挙国一致と天皇制翼賛の片棒をかつぐ異常事態がまかり通ったのである。
 しかも、滑稽かつ悲劇的なのは、共産党の志位委員長が祝意の談話「新天皇の即位に祝意を表します」を発表したことであった。党員や支持者の視線を意識したのだろう、十日付『赤旗』は志位委員長の記者会見、言い訳がましい「一問一答」を掲載した。決議文にある「令和の御代」は「国民主権になじまない」と起草委員会で表明したというのである。だったら、決議に反対するのが筋であろう。
 「賀詞決議」の採択は「天皇を戴いただく国家」(自民党「憲法改正草案」二〇一二年)の実現へ確実に歩みを進めた。われわれが「野党統一」を無条件に支持するわけにはいかない理由は、ここにある。【山下勇男】

(『思想運動』1041号 2019年6月1日号)