イシカワ大使迎え「ベネズエラに連帯する集い」開催
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大使は二度目のHOWS講演

 四月二十日、本郷文化フォーラムワーカーズスクール(HOWS)ホールにセイコウ‐イシカワ駐日ベネズエラ・ボリバル共和国全権大使を迎え「ベネズエラと連帯する集い」を開催した。会場は溢れんばかりの参加者で熱気に満ちた集いとなった。
 開会挨拶で広野省三HOWS事務局責任者は次のように述べた。
 「イシカワ大使をHOWS講座に迎えるのは今回が二回目である。二〇一七年十一月HOWS新ホール開設の際〈こけら落とし〉講演を行なっていただいた。一九九九年のボリバル革命開始は新自由主義と米帝国主義の草刈り場となっていた中南米の政治構造を大きく変えその影響は全世界に及んだ。メディア戦争のなか日本では左翼、民主主義者を自認する人びとのなかでマドゥーロ政権非難の声があがっている。キューバ、ベネズエラ、ニカラグアが兄弟のように団結し闘い、日本でも三か国の駐日大使が連携して活動している。これらの活動をなんとしても支えたい。井の中の蛙にならずに世界の人民の闘いと歴史から学ぶことが日本の人民に求められている」。

混乱を引き起こす戦略はすべて失敗

 当日のイシカワ大使の講演は映像「ベネズエラ:革命を守る」(一五分)を含め九〇分その後短い休憩を挟んで四〇分の質疑応答、六〇分の懇親会と続いた。講演でA4一枚のレジメが配布されパワーポイントを使い行なわれ、大使館の金谷祥子秘書に講演から映像、質疑応答、懇親会のすべてで日本語に通訳していただいた。
 大使は冒頭で「グアイド国会議長が暫定大統領を自己宣言してから一〇〇日、米国・野党によるベネズエラに混乱を引き起こす戦略はことごとく失敗した」とこの間の経過と現状を次のように述べた。
 三月中旬エイブラムス米国ベネズエラ担当特使は記者会見で「グアイドの三〇日間の任期はまだ政権に就いていないから始まっていない」と支離滅裂な説明でグアイドの正当性を説明できず苦笑する始末である。
 米国と野党勢力はベネズエラ国軍を崩壊させようとしたができていない。グアイド国会議長への民衆の支持は減少している。グアイド支持者は当初の「期待」を裏切られ失望している。三月七日の停電攻撃により全土の八〇%が影響を受けたが民衆に混乱は起きなかった。
 米国では安全保障関連の論議で、エネルギーや水の供給遮断、インターネットアクセスの妨害は当然の戦術として論議されている。なんと、極右のマイク‐ルビオ上院議員は、電力攻撃の五時間前に「ベネズエラは、近年の歴史でどの国も経験したことがないような苦難の時に突入することになるだろう」と述べた。
 大使はこの状況のなかで人びとが次のように行動したと述べた。

人びとは「勝てる、勝つ」と確信した

 「停電に対し人びとは自分たちで困難を解決しようと立ち上がった。富裕層はデモをしたが右派の抗議行動は影響力を持たなかった。言うまでもなく、人びとは、経済的、社会的、心理的に大きな困難のなかにおかれ厳しい状況にあった。しかし、大衆はこの困難を克服しようと連携し努力した。たとえば停電でダメになる食料を供給し合いスープをつくり分け合って食べた。
 このなかで人びとは〈勝てる、勝利する〉と確信をもった」と。そしてその土台に「コミューン」と「市民軍」組織があると述べた。
 四月十三日は「尊厳の日」または「市民軍の日」と呼ばれる。二〇〇二年チャベス大統領に対するクーデターを打ち破った日である。この日「市民軍」は二〇〇万人の組織となったと発表された。
 映像「ベネズエラ:革命を守る」は人びとが国内外の脅威に対峙するために革命を守ろうとする状況を伝える、市民軍の訓練や参加者へのインタビューを行なったドキュメンタリーである。日本語字幕付映像がウエブサイト「ラテンアメリカの革命的大衆闘争」(四月九日)に掲載されている。多くの人に見てほしい映像である。
 質疑応答と懇親会では「コミューン」について多くの質問が出た。大使は次のように述べた。
 現状の闘いのなかにいまの経済構造を変える大きなチャンスがある。ベネズエラの法令では三つの所有形態(私的、公的、公私混合)がある。現状九五%が私的所有である。
 公私混合所有は社会的生産とか社会的計画とも呼ばれている。その所有で重要なのが住民自身が統治する「コミューン」で法令によって州など自治体との関係も定めている。
 いま四〇〇〇のコミューンがある。また、コミューンと密接に連携し活動しているCLAP(地域生産供給委員会)がある。六〇〇万世帯(全人口の三分の二)がその恩恵を受けており食料や生活必需品を合理的な価格で供給している。
 いまベネズエラの経済は石油に頼った単一経済である。経済構造の根本的な変革、文化的な変革が必須である。ベネズエラは石油だけでなく金やレアメタル、水など豊富な資源がある。「豊富な資源=国の将来は保障されている」との考えは資本主義的な考え方だ。持っていないテクノロジーに頼り、自分たちでコントロールできない資源の国際市場に頼る考えである。この経済戦争のなかでわれわれはこれらを変革していく大きなチャンスがあると考えている。

軍事介入の脅威は迫っている

 大使は「米国は制裁を介入を正当化するための道具としている」と述べ、二〇一三年から二〇一七年にベネズエラが経済制裁で被った損害が三五〇〇億ドル(約三九兆円)にのぼる(ラテンアメリカ地政学戦略センター発表)と指摘した。
 そして、最近の動きを次のように述べた。
 四月十日国連安全保障理事会でペンス米副大統領は三回目となるグアイド「暫定大統領」承認決議案を提案し「すべての選択肢がテーブルにある」と軍事介入を示唆した。決議は今回も否決された。
 四月八日ファラー米南方軍司令官は「トランプ大統領の指示があれば今年末までにベネズエラに軍事侵攻する」と明言した。
 四月十日ワシントンの米戦略国際問題研究所でベネズエラ軍事侵攻について非公式会合がもたれた。この会議には米軍トップとコロンビア高官そしてグアイド側代表たちが参加した。
 質疑応答で次の発言があった。
 「わたしはニカラグアに二年間居住しベネズエラの状況も見てきた。ベネズエラについてのメディアの情報や一般の人びとの認識とわたしの認識は大きく異なる。情報戦争と言っていい状況だ。子どもがいるが友人の母親たちにベネズエラについて話をしてもメディアを信じ相手にしてくれない。いまわたしは何をしたらよいのか悩んでいる」と。
 イシカワ大使は次のように強調した。
 「世界で共通した重要な問題だ。メディア戦争は階級戦争であり、資本の覇権獲得戦争の延長上にある。この情報戦争に対し自分たちを守っていくためには、まず、各人が情勢について良心を持つことが必要だ。良心を持つためには基準が必要でフィルターが要る。情報戦争では一方に有利な情報のみが流される。バランスのとれた情報を諸国民に流す必要がある。自分たちのメディアが必要だ。そしてディスカッションし、人びとに特に若い人びとに知らせることが重要だ。ベネズエラでも八〇%が私的メディアだ。ボリバル革命のなかでわれわれは自分たちの情報プラットフォームを構築し諸国民と連携をとっている」と。
 この後、広野省三HOWS事務局責任者が「いまベネズエラで起きている事態を知るための相談会にあなたも是非ご参加ください」と「ベネズエラを知る会(仮称)」相談会(四月二十六日)への参加を今回の集い参加者全員に呼びかけ質疑応答を終了し、懇親会に移った。 【沖江和博】

(『思想運動』1040号 2019年5月1日号)