労働者通信 誤算だらけの定年後就活 ㊤
届いてくるのは不採用通知ばかり
わたしは昨秋、六〇歳で定年退職した。もう一年早く生まれていれば、女性の場合、六〇歳から老齢厚生年金の報酬比例部分だけは貰えるはずだったが、一九五八年生まれなので運悪くも、はじめて無年金の期間が生じる年代に該当していた。年金の繰り上げ請求は、減額されるなどデメリットがあるのでしたくなかった。零細個人事業所に勤めていたので退職金はなく、加入していた共済会から少し給付金が入ったが、年金受給までの生活費にはあまりにも足りない。頼みの綱は失業保険だが、良く調べもせずに人から聞いた話だけで、失業保険の給付期間は、半年間あると思い込んでいたが、わたしのケースでは五か月しか貰えないことを、ハローワークに行ってから知った。
「人生一〇〇年時代」と言われるが
それでも、人手不足が深刻だと盛んに喧伝されていたし、失業率は二・五%、有効求人倍率も一・六倍とか、「景気拡大、いざなぎを超える」などとも報道されていて、実感は無かったが、定年後の再就職にはそんなに苦労はしないだろう、という無防備な楽観を持っていた。最近、統計データの不正問題が取沙汰されているが、失業率の改善とか有効求人倍率の高さだとか景気拡大と言っていることも、信用の置けるものかどうか怪しいものかもしれない。
実際、転職活動を始めてみると、せっせと職安に通って求人に応募し、何通も履歴書を送ってみても、不採用通知が届くばかりだった。政府は、高齢化社会に向けて、「一億総活躍社会」の実現や「人生一〇〇年時代」と銘打って、高齢者の雇用を促進しているという。ハローワークにもシニアコーナーが設けられていたりもする。就活に楽観的だっただけに、どこにも採用されない自分は「活躍」する価値のない人間で、「人生一〇〇年」どころか、人生も六〇年でクビだということなんだろう、と落ち込んでしまった。わたしの弟は、ハローワークだけで職探ししてないで、転職エージェントに登録しなきゃダメなんだよ、というアドバイスをくれたが、不採用の原因を、自分なりに分析してみた。
日本の企業の約八割は、定年年齢を六〇歳にしているが、二〇一三年に「高年齢者雇用安定法」を改正して、本人が希望すれば、継続雇用や再雇用制度で六五歳までは雇用を継続することを義務付けたことで、政府は、「高齢者の雇用促進」に努めたのだが、罰則が無いのでわたしの務めていた零細個人事業所では継続雇用制度や再雇用制度はなかった。しかし、ほとんどの企業では制度上六五歳までの延長制度ができているということだ。してみれば、会社に経験豊富な定年延長者がいるのに、わざわざ他所で定年になった高齢者まで新期採用するという場合は、特殊な技術を持っている者などのレアケースしかないだろう。だから、ハローワークのシニアコーナーにある求人は、経験の蓄積を必要とする仕事は少なく、警備や清掃などの仕事が多いのではないか。
ハードル高い事務職での転職
また、スキルのなさは相当にダメージだった。履歴書に書く資格・免許がほとんどないということは、何十年も経理事務の仕事を続けてきても、履歴書に書く資格としては、「簿記二級」しかなかった。
パソコン作業は自己流で、自分の仕事に使う範囲でしかできないし、エクセルやワード検定も取っていなかった。その上、当初希望の「事務職」は、IT化の波が押し寄せて人員削減が進んでおり、いずれAIに取って代わられる職業と予想されているし、派遣社員でまかなっている企業も多いという現実があったし、事務職に限ってみれば全体の有効求人倍率の六分の一程度しかない〇・二五%なので四人の求職者に一件の求人しかなく、「事務職」での転職は、定年後のスキルなしではハードルが高かった。しかも、シニア歓迎求人の所定労働時間は、だいたい五時間前後なので、生活費を賄えるフルタイム求人が少なかった。おそらく、社会保険加入の目安が、正社員の四分の三以上なのでシニアのパートは社会保険の加入を必要としない労働時間が多くなっているのかもしれない。シニア女性のアルバイト時給平均は首都圏で一〇五〇円くらいとなっているが、求人票で見ていると最低賃金の求人が多い印象を受けた。
税金と社会保険料を引いた額で、せめて最低生活費になるぐらいは稼がなければならないので、やはり一日七時間以上働けるところで職種にこだわらず手当たり次第に職安から紹介状を書いてもらおうと思った。
工場での軽作業や部品組立作業などもハローワークで紹介を希望したが、経済のグローバル化で製造業は中国などの海外生産比率が高まっており、工場自体が都内に少なくなっているので、紹介できる求人はサービス産業の方が多数を占めているということであった。【田口ケイ】
(『思想運動』1038号 2019年3月1日号)
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