あれから八年、福島第一原発事故は終わらない
東電救済・原発保護政策 ―― すべては金融商品を紙クズにしないために
東電存続政策
東京電力福島第一原発事故から九年目に入ったが、事故はまったく終わらない。五万人以上の避難者がいまだに帰ることができないでいる。災いの拡大、未来への押し付けが進む。最悪の放射能公害を発生させた東電は、本来、汚染者負担の原則により、破綻処理されるべきであった。ところが、加害者東電が国の保護を受け、被害者が切り捨てられるという倒錯した事態になっている。
東電の存続が許される理由は、巨額の賠償費用の捻出のためとされる。
東電は賠償をやり遂げるためとして、柏崎刈羽原発六・七号機を、安全対策費六八〇〇億円をかけて再稼働させる予定だ(七号機二一年一月以降、六号機未定)。原発事故の賠償費用を原発で稼ぐというのは、被害者を愚弄しきっている。
また、東電の実質子会社である日本原子力発電を破綻させないため、東海第二原発再稼働(二三年一月予定)のための安全対策費三〇〇〇億円の三分の二を東電が資金支援する。被害者救済より原電延命を優先している。
賠償は終わったつもりの東電
東電の事業計画では、賠償について、「最後の一人まで賠償貫徹」「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」および「和解仲介案の尊重」という「三つの誓い」を掲げている。しかし、東電は、裁判外紛争解決手続き(ADR)において、一二一件の和解案拒否を行なっている(一八年末までに手続きが終了した二万三〇〇〇件のうち)。
二月二十一日、東電と市民との対話会(東電共の会)で、ADR和解案拒否についての質問に対し、東電原子力センター石田守也所長は、拒否の理由として、「それを払ってしまうと、公平性が失われ説明責任が果たせない。すでに解決済みの人から苦情が出て、また始まることになる」と答えた。避難生活をする市民からは、「被害者としては、加害企業に公平性などと言ってほしくない! 勝手に避難区域を線引きされ、区域外ホットスポットは無視されるなど、賠償金額は不公平で不満は大きい」と怒りをぶつけた。公平性というなら、和解案を蹴っておきながら、日本原電に資金支援することこそ不公平との批判も出た。
どうも東電は、賠償はもう片付いたと思っているふしがある。東電のホームページにアップされた、役員年頭挨拶(小早川智明社長、川村隆会長、大蔵誠福島復興本社代表)の中には、「原発事故の責任」という言葉も、「原発」という言葉すらまったくなかった。「福島への責任」という曖昧な言葉が繰り返されたが、その中身は、何はともあれ稼ぐ力を高めて成長を続けることであり、原子力損害賠償・廃炉支援機構からの資金で廃炉作業を進め、国による福島への帰還政策、風評払拭キャンペーンに大いに協力するということのようだ。
川村会長にいたっては、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を持ち出して、「企業が稼ぎ、社会に還元することが、貧困からの脱出と社会の持続的成長の基礎になる」と述べた。社会への還元がどのようになされたというのか。札束をばらまいて原発立地を進め、挙句の果てに福島原発事故を起こし、取り返しのつかない巨大な負の還元をもたらしたのに。
失われた経済合理性
三月二十三日の『朝日新聞』によると、経済産業省は安全対策費が高騰する原発を支えるため、「原発は安い」の標語をあっさり取り下げ、電気料金に原発補助金を上乗せする制度の創設(二〇年度末目標)を検討しているという。
なりふり構わぬ原発保護政策だ。すでに経団連の中西宏明会長は年頭会見で、原発はコスト高でビジネスとして存続しえないので政府が率先して原発で儲かる仕組みを作れ、という趣旨の発言をしている。設備投資の回収を保証する総括原価方式による電気料金の仕組みは、電力自由化に伴い二〇年度末に経過措置終了となる。それに替わる仕組みが必要ということだろう。
安全対策費がかかるといっても、原発本体の設計は古いままなので、本当の改良にはなっていない。電力資本は、巨費をかけて、見せかけの安全対策をしているが、事故が起こることも折り込み済みだ。
危険や恐怖は大金が動く動機となる。事故が起きても、賠償、復興、廃炉等の後始末費用は支援機構を通して国庫から投じられる。金融資本にとって、大金が動き続ける状態こそが望ましい。金融商品が紙クズになる心配のない仕組みさえあればよいのだ。現在の倒錯した状況は、金融本位に物事が動いているために生じているように思う。原発推進政策は人民の犠牲を前提にしている。断じて許されない。 【中村泰子】
(『思想運動』1039号 2019年4月1日号)
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