春闘を利用して攻撃強める独占
職場・生産点での闘いこそが再生の道
三月十四日の朝刊各紙は、電機、自動車大手の賃上げ回答が軒並み前年割れだったと報じた。電機大手組合では一二社による統一交渉で月三〇〇〇円以上のベースアップ(ベア)を要求したが、前年より五〇〇円低い一〇〇〇円で妥結した。自動車ではホンダやスズキなどのベア妥結額が前年を下回った。
連合は、前年同様、賃上げ要求方針を「二%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め四%程度」と確認していた。二〇年にわたる実質賃金の下落、今年十月の消費税増税を考えれば、あまりにも低すぎる「現実的」な要求だ。しかし、日本独占は、二〇一七年度末の内部留保額が四四六兆円を超え、経常利益は一一・四%増の八三兆円のボロ儲けにもかかわらず、米中貿易戦争や中国経済の減速などによる先行き不透明感を口実に賃上げを拒んだ。
運動側の後退も顕著だった。トヨタ自動車労組に加えて産別組織の自動車総連もベアの統一要求を見送った。大手のベア回答が中小の天井(上限)となってしまい格差拡大につながってきたから、という。言いわけだ。格差是正を口実に、パターンセッターとして賃上げ相場を作り出し全産業に押し広げる役割を放棄したのだ。
だが、独占が貫いたのは、賃金水準の抑制だけではない。一月の経団連「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」は、労働生産性の向上に向けてインプットの改善以上に「アウトプットの増加」すなわちイノベーションによる付加価値の高いサービス・商品の創出を強調した。グーグルやアマゾン並みに利潤を生み出す人材が欲しいというわけだ。そのために、報酬決定をますます個別化する仕組みが狙われている。
それを示したのがトヨタだ。売上高、純利益とも過去最高を更新しているにもかかわらず、労使協議会(団体交渉)の席上、「行司役」を自認する豊田章男社長が「組合、会社とも、生きるか死ぬかの状況がわかっていない」「今回ほど距離感を感じたことはない」と一喝した。自動車産業は、自動運転、シェアリング、電動化等「百年に一度の大変革期」に直面していると言われる。トヨタは、社長が経営陣と労働組合の双方を「親のように」叱りつける演出を行ない、事業防衛思想、労資一体感を強化しつつ、労組に「全員一律の賃上げの見直し」の協議の席につくことと、冬の一時金の継続協議とを呑ませた。
かつて、ベアゼロ春闘二年目の二〇〇三年、経労委報告は「労組が賃上げ要求を掲げて、実力行使を背景に、社会的横断化を意図して『闘う』という『春闘』は、大勢においては終焉した」とうそぶいた。
今年の「経労委報告」は春闘を「自社を取り巻く経営環境や課題などを企業労使で共有しながら真摯に話し合う場として『春季労使交渉』は良好な労使関係の維持・発展に寄与している」と評価した。闘う春闘は窒息させられ、政府・独占にとって使い勝手のよいツールに変質させられたと言わざるをえない。電機大手の「統一交渉見直し論」はそれに拍車をかけるだろう。
非正規雇用労働者が四割を占め、労働組合組織率が低下するなか、春闘に取り組む労働者の隊列に、切実に生活改善を求める大多数の労働者人民がいないことこそが問題なのだ。かろうじて闘っている労働組合の多くも、スト権すら立てず集団的物乞いに終始しているのが現状だ。
大幅賃上げ・差別賃金撤廃・労働条件改善など要求を掘り起こし組織して、団結してストライキで闘うことのできる運動をつくりだそう。ナショナルセンターの垣根を超え、階級的に闘おう。【吉良 寛・自治体労働者】
(『思想運動』1039号 2019年4月1日号)
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