二〇一九国際婦人デー東京集会への問題提起
思想的弱点を克服してこそ「未来」がある


 今年の国際婦人デーは、日本の女性労働者・人民の歴史認識、国際感覚、世界と日本の状況認識が厳しく問われるもとで迎える。安倍政権は、朝鮮半島の非核化と統一をめぐる進展を妨害し、中国をライバル視しての日米同盟の軍事的強化を図っている。日本政府の、貧困・格差を拡大させる反動政策に対し闘う理論と行動をつくりださなければわたしたちに「未来」はない。

金福童ハルモニの訃報

 一月末、日本軍性奴隷制度被害者の金福童さんの訃報が伝えられた。金福童さんは、被害者に留まらず、人権活動家として世界中の人びとに多大な影響を与えた方だった。金福童ハルモニは息を引き取る直前に、「日本軍『慰安婦』問題の解決のために最後までたたかって。在日朝鮮学校の子どもたちへの支援を、わたしの代わりに最後までやってほしい」という言葉を遺されたという。
 日本政府に公的謝罪と法的賠償を行なわせることのないまま、金福童さんら何人もの日本軍の性奴隷制度被害者たちは、旅立たざるを得なかった。このことは、日本政府に対抗できていないわたしたち日本側の運動の弱さの反映でもあることを痛感する。
 日本は、かつて朝鮮をはじめとした植民地から富を収奪して、いっそうの市場獲得のためにアジア太平洋各地を侵略した。今日、日本政府は、日本軍性奴隷制度や南京大虐殺などの真相が明かされることを、権力を使い妨害している。筆舌に尽くしがたい凄惨な侵略戦争犯罪・植民地支配責任が、戦後隠蔽されつづけ、多くの日本人が無自覚なまま真実を知ろうとせず、現在に至っていること、それ自体が犯罪的なことである。天皇の戦争責任を不問に付し、侵略と植民地支配の歴史を捻じ曲げることによって、今日の日本は、腐敗・不正が横行する無責任な社会になっている。

韓国議長の発言の根拠

 韓国の文喜相国会議長は、米・ブルームバーグ通信のインタビューで、「天皇は戦犯の息子」と表現し、日本軍性奴隷制度の被害者への「天皇または指導者の心のこもった謝罪」があれば「慰安婦」問題は解決するであろうと述べた。それに対してA級戦犯容疑者岸信介の孫である安倍首相は、衆院予算委員会で連日ヒステリックにその発言の撤回をアピールした。日本のマスメディアもそれに同調し、韓国非難を繰り返している。
 朝鮮半島や中国、フィリピンなどの日本軍性奴隷制度の被害者たちの多くは、戦後解放されてからも体の後遺症、さまざまな偏見、迫害に生涯苦しみながら一生を終えた。日本軍が犯した残虐極まる戦争犯罪は明白であるし、韓国の被害者たちが「責任者(天皇)を処罰せよ」と訴えた声は世界中に届き、日本が引き起こした大罪の償いを求める動きもひろがっている。
 これまで日本政府は経済協力資金で、互いの国の資本家にとって都合の良いインフラ整備、道路、ダム、工場建設、企業への投資で植民地支配責任、戦後責任追及の声を抑えつけてきた。
 しかしながら、南北朝鮮の平和・統一へ向かう努力によって歴史的に朝鮮半島情勢は変わりつつある。性奴隷制度被害者を代弁する文政権の文喜相国会議長が日本政府に対して遠慮なく強く出ることができるのも南北融和が背景にある。何よりも天皇の名のもとに皇軍が行なった戦争犯罪であるのだから、事実を述べたことを非難される道理はない。
 「天皇に戦争責任がないのに、騙され犠牲になってきた自分たちにあるはずがない」、日本の「国民」は、加害の責任や、植民地支配責任をなんら自覚することもなくのほほんと過ごしてきた。性奴隷制度の被害者たちに「過去を蒸し返すな」と冷たく言い放ってきた日本「国民」は、元徴用工への賠償も含め、いまこそ責任を果たすべきである。
 昨年、「関東大震災95周年朝鮮人虐殺犠牲者追悼シンポジウム」が、朝鮮大学校で開かれ、そのシンポジウムで鄭永寿朝鮮大学校助教は、戦後、日本の革新勢力が虐殺は、「デマに踊らされた『善良な自警団』が虐殺に利用された」という認識であったため、「朝鮮人虐殺への加担問題を日本人民衆の主体的責任としてとらえ返す最大の契機を消失した」と報告した。植民地朝鮮の人びとに対しての人を人として見ない蔑視が、あの大虐殺をもたらしたのであって「デマに踊らされた」という理由で自警団や民衆が免罪されるべきではなかった。
 植民地支配、侵略戦争がつづくにしたがって、より積み重ねられてきた他民族蔑視・自己優越思想、天皇への忠誠心が帝国主義戦争を継続させる下支えとなった。「日本人民衆の主体的責任」を問うことなく戦後を経過したことが、現体制を支持する基盤づくりにつながった。「主体的責任」の自覚を持たないかぎり、日韓・日朝関係が良い方向に向かうこともなく性奴隷制問題も元徴用工問題も解決しない。

ものが言えない国

 安倍政権の軍事優先政策によって貧困が広がり、生活破壊、家族の崩壊は深刻なものになっている。連日報道される子ども・高齢者への虐待や、過酷な労働現場での悲惨な事件は、現政権がもたらす矛盾の表れだ。子どもが死に至るほどの虐待をする常軌を逸した親の存在は、鬼と化した戦時の軍人を思わせる。日本のこれらの非人道的な事件は、分断策によって個々バラバラにされ、敵愾心にみち、最低限の人権が損なわれた資本主義社会を象徴している。
 安倍らには、他国の人権うんぬんを非難する資格はない。嘘とごまかしと不正がまかり通ってきた戦後七〇余年間。
 とくに社会主義世界体制が崩れた九十年代初頭以降、新自由主義教育改革によって能力主義に基づく自由競争と市場原理が徹底され、大学の独立法人化、学校統廃合・民営化、幼保一元化など、公費の投入が大幅に削減された。家計に占める教育費が急増し、歪められた歴史教育によって、修正された歴史認識がはびこった。第一次安倍内閣の「国家と伝統の結びつき」「愛国心」を強調した教育基本法の改悪(二〇〇六年)は、子どもたちと教師をふるいにかけ徹底管理し、より体制に順応する人間をうみだすこととなった。破綻した教育は人間を破壊させ、そのしわ寄せは子どもや高齢者、差別された女性に向かう。
 昨年の国際婦人デー集会の報告に日本に♯МeToo運動が広がらない原因として「日本全体を覆う、ものを言うな、考えるな、責任を取るなということの反映」と述べたくだりがあった。このようにものが言えなくなったのは、従順な人間を目指した教育と戦前戦後を通して脈々と流れる生活にしみ込んだ天皇制の重圧・呪縛によるのではないか。そしてこれに歯止めがかけられなかったのは日本の労働者・人民の弱さと、闘いの芽がうまれてもすぐさま摘まれてしまう団結力のなさだったのだろう。

翻弄される働く女性

 日本経済は企業の経常利益は上がっても、実質賃金はマイナスをつづけている。いくら統計をごまかそうとも安倍政権の経済政策は破綻する一方で、労働者の生活は、困窮に向かうばかりである。資本は、より質が高く安い労働力でありさえすれば性別も、年齢も、国籍も問わない。
 「生涯現役いつまでも元気に働こう、それが生きがい」とおだてられ、暮らしていけない年金を嘆きながら、老いた体にむちうち働かざるをえない。共働きを続け、何とか子どもを育て上げ、趣味の生活に入りたい。しかし、これからの女性はそのような優雅な老後の生活は送れない。有効な少子高齢化対策を立てられない安倍政権は、資本の言いなりになって成り行き任せの策を講じるしかない。
 安倍政権の「未来投資戦略2018」では、「人材の最適活用に向けた労働市場改革、高度外国人人材の活躍推進など」として、高齢者と、女性、外国人の能力をいかにAI化に合わせ、働く意欲を高め、かつ効率よく使うか、それらが労働者のためであるかのように見せかける、否、脅しをかける戦略をうちだしている。
 機械に置き換えることができないと思っていた仕事が、置き換えられている。スキルがなくても誰でもできる仕事が増えている。金融、保険、証券をはじめとした事務部門では、女性パート・派遣労働者がまず真っ先に削減の対象となり、正社員も整理されている。「個々の人材が、ライフスタイルや、ライフステージに応じてもっとも生産性を発揮できる働き方を選べるよう、選択肢を拡大する」と「戦略」ではテレワーク、クラウドソーシング、副業・兼業を推進する。AI化によってはじき出された働く女性は、人だからこそできる、人と人とのやり取りが必要な「創造性、経営・管理、おもてなし」がキーワードの職種、観光、介護、保育、女性の視点を生かした製品開発といった業種に移動していく。
 「多様で柔軟」という従来から資本が好んで使う言葉によって常に翻弄されながら、高いスキルをめざして自己投資をしても新たに正社員として働く道は閉ざされ、非正規、個人請負、フリーとして働かざるを得ない。これまで働く女性たちが切り開いてきた労働現場での権利、団結、闘いの継承は遠くはるかなところにいってしまった。

連帯こそ力

 日本の労働者から本来の労働者としての階級意識や、権利の行使が忘れられているのに、どのようにして外国人労働者の労働条件を確保すればよいのだろうか。ベトナム人技能実習生の「中絶か、帰国か」の悲痛な叫びは、外国人実習生の人権がいかにないがしろにされているかが明らかになった事例だ。日本の働く女性は、彼女たちを自分のこととして考えなければならない。彼女たちの存在に無自覚であることを恥じなければならない。同じ労働者として不当に劣悪な労働現場に置かれている彼女たちの労働条件を引き上げる闘いを作り出さなければ、それこそ「未来」はないのだ。
 現在の日本の女性労働者は、世界の闘う女性たちから学びながら進んでいる。朝鮮半島に平和・統一を実現させるべく強力な働きかけをする南北朝鮮の女性たち。アメリカを筆頭とした国々からの制裁攻撃に屈しないキューバ、ベネズエラの女性たち。世界の女性たちとともに帝国主義の戦争政策を許さず、腐敗した資本主義によって損なわれた人間性を取り戻そう。【国際婦人デー3・9東京集会実行委員会】

(『思想運動』1038号 2019年3月1日号