キューバ人民は二月新憲法投票実施
万全の準備の下、革命的楽天主義で前進


 昨年十二月二十一日第九期第二回人民権力全国会議(国会)が開始され、冒頭の二日間、八月から三か月間組織された憲法草案に関する大衆討議で豊富化された憲法草案の修正案を集中討議し、二十二日全会一致で修正案を承認した。そして、修正した新憲法草案の是非を問う国民投票を本年二月二十四日に実施することを決定した。
 昨年八月十三日から十一月十五日まで組織された一三万三六八一回の憲法草案討議集会に、ほぼ有権者数と同じ約九〇〇万人(八九四万五五二一人)が参加し、七八万三一七四件の提案が行なわれた。

共産党の力は理念的権限、国家の力は実体的権限

 キューバ共産党と国家はこの全人民が参加したと言っても過言ではない大衆討議で出された数多くの提案を総力で分析し整理し、その上でキューバ共産党は、今回の大衆討議でも再確認され憲法草案に再度明記された党の役割、社会と国家の指導勢力としての任務を遂行し、キューバ共産党で十二分な論議を経て、最終的にすべての人に遵守を求める制度を定める権限を有する人民権力全国会議の討議に最終結論を託した。
 今回の憲法改正において上記の方針が一貫して貫かれている。その一端を大衆討議後の経緯でも如実に見ることができる。
 大衆討議で提出された諸提案を分析しまとめるために、九月二十八日、ラウル‐カストロ・キューバ共産党第一書記を含む三〇人の作業グループが設置された。その構成員の九人は憲法改正委員会メンバーで二人は委員会のアドバイザーである。
 作業グループの指揮により完成された詳細な分析結果とまとめが、ラウル‐カストロ党第一書記を委員長とする憲法改正委員会に提出され、十一月十六日から二十一日に討議された。
 そして、さらにそれぞれの課題に関する各委員会で掘り下げた幅広い討議が行なわれ、憲法草案の改訂版が十二月十一日と十二日のキューバ共産党第八回中央委員会総会でその詳細な内容が報告され分析された。
 その成果が人民権力全国会議で報告され集中討議されたのである。
 一九七五年のキューバ共産党第一回党大会の翌年一九七六年に革命勝利後最初のキューバ共和国憲法が制定された。
 今回の憲法改正は二〇〇二年の憲法改正に続く一二番目の改正である。
 昨年七月二十一日第九期第一回人民権力全国会議が開始され冒頭で憲法草案が集中討議され二十三日承認され、冒頭で述べたように大衆討議が組織された。
 現行二〇〇二年憲法は、全文一一編、一五章、一三七条で構成される。大衆討議にかけられた憲法草案は、全文一一編、二四章、一六節、二二四条である。現行二〇〇二年憲法に、八七条を付加し、一一三条を修正し、一三条を削除した。改正の内容と広がりから実質的な新憲法とも言える。
 そして、大衆討議を踏まえ十二月二十二日第九期第二回人民権力全国会議で承認した修正憲法草案は、七月の憲法草案に七六〇件の修正行ない、最終的に全文一一編、二四章、一八節、二二九条(五つの条文が追加)となり、憲法草案全体の六〇%にあたる一三四条が修正された。

帝国主義が存在する限り防衛が最大任務

 キューバ革命六〇周年の本年一月一日、ラウル‐カストロ党第一書記はキューバ東部サンティアゴデクーバのキューバ革命の父ホセ‐マルティやフィデル‐カストロが眠るサンタエフェニア墓地で演説を行なった。
 翌二日、キューバ共産党機関紙『グランマ』は、ラウル党第一書記のこの演説を「六〇年間の闘い、多くの犠牲、努力そして数かずの勝利を経て、いま自由で独立した国、われわれ自身が主人公であるわが祖国がある」の大見出しで全文掲載した(四〇〇字×二五枚)。
 そして一月三日『グランマ』は「キューバ人民の大衆討議により豊かにされた憲法草案」と題した憲法草案に関する大衆討議の内容とその処理などを詳細に述べた記事(四〇〇字×三〇枚)を掲載した。その章立ては「第一章=大衆討議とその結果/第二章=提案の処理と分析/第三章=主な変更点と最も議論された項目」で、第三章は下記の小見出し「前文/第一編=政治的基礎/第二編=経済的基礎/第三編=市民権/第四遍=権利,義務および保障/……/第一一編=憲法改正」を立て憲法草案全体について論議の要点を紹介している。
 ラウル演説そして憲法草案の大衆討議内容が次の事柄を明示している。キューバの党と国家そして人民が、ジェノサイドと言うべきキューバ経済封鎖を続行し、ベネズエラやニカラグアなどの諸国人民の諸権利を剥奪しようと攻撃を繰り返す帝国主義諸国に抗し、毅然として社会主義とプロレタリア国際主義の旗を高く掲げ、万全の準備をし、その上で革命的楽天主義のもと自信を持ち前進していることを。
 ラウル党第一書記は「米国政府は再びキューバとの対立の道を進んでいる」と指摘した上で次のように述べた。
 「この複雑な国際情勢において、われわれにとって、キューバ革命の歴史的指導者の指摘はいまも全面的に厳守すべき指摘である。フィデル‐カストロはキューバ共産党第一回党大会の基調報告で『帝国主義が存在する限り、党と国家そして人民は防衛の任務に最大限の注意を払う必要がある。歴史が雄弁に物語っている。この原則を忘れた人民はこの誤りにより生き残ることが出来ない』と述べた。
 われわれはあらゆるレベルで防衛訓練を引き続き第一に行なっていく。この訓練は独立および領土保全、主権そして平和を守るために『全人民による戦争』の戦略概念に基づいて遂行する。この方針は先ほど承認されたキューバ共和国憲法に反映されている。
 われわれは事前にありとあらゆるシナリオを想定し具体的に細心の注意を払い準備する必要がある。そのシナリオは最悪の事態をも想定し、そしてそれは決して軍事レベルの問題だけでなくあらゆる状況について考慮する必要がある。われわれが行動しなければならない時に、あいまいな方針で事に対応し、当惑や即興的な対応をすることがあってはならない。しかし、フィデルがわれわれに教えてくれたように、勝利へ向けての楽天主義と自信を堅持し、そして人民に完全に依拠し前進すれば、われわれはどのような難題が立ちはだかろうとかならず最良の解決を見出すことができる。」
 そして続けて次のように述べた。
 「誤った性急な評価ではなく、わたしは新世代が重要な責務を担っていくようにしていくための移行プロセスは順調に進んでいると断言できる。われわれはキューバ人民が前進し続けることを確信している。
 一九五九年一月一日から六〇年が経過した。しかし、キューバ革命は決して年老いていない。革命はいまも若く生き生きとしている。これは決して誇張ではない。歴史が明示し刻んできた事実である。キューバ革命のまさに最初の瞬間からその指導者たちは若者たちであった。そして、この事実はこの六〇年間を通じて引き継がれている。」

搾取が必須なアメリカンドリームは不要

 『グランマ』(三日)の記事を軸に討議経過と内容を以下紹介していこう。
 冒頭で述べたように昨年八月十三日から十一月十五日の三か月間に一三万三六八一回の大衆討議が組織された。討議の組織化の内訳は、地域住民(七万九九四七回)、労働者組織(四万五四五二回)、諸島(三四四一回)、大学生(一六八五回)、高校生(三二五八回)であった。
 大衆討議に約九〇〇万人が参加し、一七〇万六八七二回の発言があり、七八万三一七四件の提案(修正六六万六九九五案、追加三万二一四九案、削除四万五五四八案、疑問三万八四八二案)が行われた。また、海外在住のキューバ人民から二一二五件の提案があった。
 討議のなかで出されたそれぞれの意見は、六二%が全面的な賛成意見で、三五%が希望や提案および懸念で、全面的な批判はわずか三%であった。
 提案が最も集中した項目は同性婚を認める規定(二四・六%)で、この問題は賛否が分かれたため第八二条で憲法改正後二年後に家族基本法を制定し国民投票に付すと定めた。
 次に集中したのは大統領にする規定(一七・八%)で草案原案「共和国大統領は、国会議員により選出され、五年の任期で二期連続まで」(第一二一条)および「第一期選出時の年齢が六〇歳まで」(第一二二条)がそのまま維持された。
 ラウル党第一書記は二〇一一年のキューバ共産党第六回大会で「高位の政治的および基本的な国家的任務の遂行については、五年の任期を最長連続二期までに限定するのが望ましい。これは今日では可能である。指導的幹部の若返りに関する政策がキューバの社会主義の継続を危機にさらさないための絶対必要な条件であり保証となる」(『社会評論』一六六号)と提案し、二〇一六年の第七回党大会で「第一期選出の年齢六〇歳まで」を提案した。その後これらの提案は、さまざまな組織で論議が積み重ねられ合意に達していた事項である。
 そして、次に論議が集中した項目は、州政府(三・三%)、弁護( 二・三%)、住宅(二・〇%)と続いた。
 以下、いくつか変更点と議論内容を示す。
 【前文】主にプロレタリア国際主義について修正が加えられた。そして「キューバは決して人による人の搾取をその権力の土台とする資本主義に逆戻りすることはない。社会主義と共産主義社会においてだけ人類はその完全な尊厳を達成する」と記された。
 【第一篇=政治的基礎】第五条で、キューバ共産党は社会と国家の指導的政治勢力であると規定し、共産主義についての言及が含まれている。大衆討議のなかで提出された意見のなかで党についての規定に疑問を提起したのは、全体のわずか〇・〇〇三%であった。
 【第二篇=経済的基礎】二つの新たな条文が挿入された。ひとつは、「経済の企画、統制、管理そして支配」への労働者の参加である(第二〇条)。他のひとつは、わが国の経済・社会発展における科学と技術そしてその革新についてである(第二一条)。
 私的所有について、キューバ人、外国人そして法人企業であれ経済活動において補完的なものであることが明記された。全人民の社会主義的所有について、公共財の所有を人民の所有から外すのは国家評議会が決定すると明記した(第二三条)。また、相続財産やわが国の経済社会発展にとって戦略的な所有について「主要なインフラ(経済基盤)、産業・経済・社会諸施設」の所有移転は特別な場合のみ行なわれ、その決定は国家評議会が決定する。その移転はわが国の経済・社会発展にとって不可欠な場合のみに実施される」と明記された。
 第二二条には、民間の法人企業や諸個人への財の集中に対する国家の規制について修正が加えられた。この規制は、富の公正な再配分と関連している。
 【第四篇=権利、義務および保障】新たに第四〇条は、人間の尊厳を人びとの最高の価値と定めるために追加された。
 報道の自由について(第五五条)、基本的な通信メディアは全人民の社会的所有物であり、「政治組織、社会組織、大衆組織」の所有物であると明記された。そして、いかなる状況においてもこの基本的な通信メディアは私的所有されることはないと付け加えられた。
 HOWS講座「キューバ共和国の女性政策」でクラウディオ‐モンソン駐日キューバ共和国大使館書記官は「キューバ人民は米国と自由に往来ができるが思想的な影響は」の質問に対して、「『アメリカンドリーム』を実現するためには他の人びとの搾取が不可欠である。他の人びとを潰して実現するのなら『いらない』と言う人がキューバのほとんどの人だと思う。教育も不可欠だがそれほど心配ではない」(『思想運動』二〇一九年一月一日)と回答した。
 モンソン書記官に、可能な限りの備えを行ない、そのうえで勝利へ向けて揺るぎなき確信と自信を持ち前進するキューバ人民の姿を見た。【沖江和博】

(『思想運動』1037号 2019年2月1日号