資本擁護を貫くマクロン政権と対決
仏「黄色いベスト」運動、政府に譲歩を強いる


 十月十日、二人のトラック運転手が「自動車燃料(ガソリン、軽油)の高騰に抗議し、十一月十七日に道路を封鎖しよう。その際、抗議行動参加者であることを明示するためにフランスで自動車運転手が事故発生時のために常備が義務づけられている蛍光黄色のベストを着用しよう」とソーシャルネットワークで訴えた。
 この呼びかけに応え十一月十七日㈯、フランスの二〇〇〇か所で「黄色いベスト」を着用した二八万八〇〇〇人が抗議行動に参加した。その多くが自動車を必須とする農村部の人びとであった。この運動の第四波となる十二月八日㈯には、一三万六〇〇〇人が抗議行動に参加したがパリの参加者は一万人である。
 「黄色いベスト」運動は、マクロン政権に燃料税増税一年間延期、最低賃金引き上げなどの譲歩を強いた。その際にも、マクロン政権は資本擁護の姿勢を貫いた。十二月二十日現在、この運動の鳴動が鳴り響き続けている。そして、その影響が欧州各国やイラクにも出ている。「黄色いベスト」運動の背景と運動の経緯を以下、見ていく。

勤労人民を犠牲に資本を擁護

 二〇一七年五月、マクロン政権は、法人税を二〇二〇年までに現行三三・三%を二五%に、仏労働人口の二〇%を占める五五〇万人の公務員を二〇二二年までに一二万人削減を掲げ成立した。
 二〇一七年九月と十二月、労働法を改悪し「下位の協約が上位の法を変更できるのは労働者が有利な時に限られる」との仏労働法の「有利原則」を突き崩した。
 二〇一八年二月に大学のエリート化につながる教育改革法(ヴィダル法)を採択し、四月には仏国鉄改革法を成立させ終身雇用など仏国鉄労働者が獲得してきた諸権利を剥奪しようとしている。
 九月二十四日、仏政府は二四八億ユーロ(約三兆一四〇〇億円)減税を目玉とする予算案を発表した。そのうち一八八億ユーロは法人税減税であり大半が企業向けである。六〇億ユーロのみが家計向けで、住民税減、残業代への課税減、高齢者三〇万人を社会保障税の対象外とする施策である。公共政策研究所によると、この予算案で、所得上位一%の超富裕層の可処分所得は六%増加するが、下位二三%の低所得者層の可処分所得は減少する。また、軍事費は全省庁で最大の一七億ユーロ増の三六九億ユーロで、以後順次五〇〇億ユーロに増加するとしている。
 このような勤労人民を犠牲にして資本擁護を貫くマクロン政権の諸政策に対し、五日間のうちに二日間のストを実施する闘いを四月から六月まで繰り返し三か月間続けた仏国鉄労働者の闘いをはじめとし、勤労人民はストライキや全国的な抗議集会を繰り返し展開してきている。十月九日にも、労働総同盟(CGT)などが主軸となりマクロン政権の諸政策に対する抗議集会が全国一〇〇か所で三〇万人が結集し行なわれた。
 燃料高騰に関しては、九月中旬、運転手団体が「燃料の過剰な課税」を非難し、アピール文とともに燃料支払いレシートをマクロン大統領に送付する運動を開始した。
 自動車燃料は二〇一七年五月から一年強でガソリン一五%(一・四→一・六ユーロ/L)、軽油二三%(一・二→一・五ユーロ/L)上昇した。燃料価格の内訳は、原価が三〇~三五%、輸送費八%、燃料税と付加価値税五六~六〇%である。ディーゼル車はガソリン車より安価なのでフランスの車の三分の二を占める。歴代の政権は数十年間ディーゼル車購入を促進してきたがディーゼル燃料は「環境にやさしくない」として廃止しようとしている。
 大都市圏は経済活動と雇用機会が集中し公共交通機関も発達しているが、農村部は隔離され人びとは生活するにも労働をするにも車を必須としている。
 マクロンは「黄色いベスト」運動に対し「ガソリンや軽油が買えないのなら電気自動車を買えばよい」と、現状の課題を何ら受けとめることなく、自動車独占資本の利益獲得を後押しする発言を行ない人びとの強い怒りを呼んだ。

増税一年延期、最賃引き上げ引き出す

 先に述べたように十月上旬に二人のトラック運転手が抗議行動を呼びかけたが、その後の十一月上旬、仏政府は二〇一八年一月の燃料税増税に続けて二〇一九年一月の燃料税増税実施を公式発表し「黄色いベスト」運動の燃えあがる火に油を注いだ。
 十一月十七日㈯全国で二八万八〇〇〇人が抗議行動に参加したが、直後の二十日パリで看護師たちが、自動車で訪問看護する看護師への燃料手当不支給に抗議しデモで訴え運動に呼応した。
 十一月二十四日㈯は全国で一〇万六〇〇〇人が参加、第三波となる十二月一日㈯には一三万六〇〇〇人が参加した。
 週明けの十二月三日から教育改革法に抗議する高校生たちの校舎封鎖行動が全国で始まり排除のため機動隊が導入され、七〇〇名の高校生が拘束されている。七日には全国で高校生がデモを行ないパリでは数千人の高校生たちが抗議行動に参加した。
 また、十二月四日には個人零細経営の民間救急車の運転手たちが燃料税増税や医療予算削減に抗議しパリのシャンゼリゼ通りを救急車で埋め封鎖した。
 マクロン政権への抗議行動が広がるなか、フィリップ首相は十二月四日、テレビ演説で燃料税増税半年延期、電気ガス料金値上げ延期、車検基準強化延期、地方市民との「税と公共支出に関する対話」実施(十二月~三月)を表明。
 翌五日、フィリップ首相は下院の答弁で燃料税増税一年延期を表明した。また同日、ギューム農相は年内予定の農産物特価販売を制限し農家の収入を高める食品法の実施延期を表明。反発する農民たちは抗議行動実施を決定した。
 この間の仏政府の譲歩にもかかわらず十二月八日㈯の抗議行動には全国で一三万六〇〇〇人が参加した。仏政府は八万九〇〇〇人の軍警察部隊を配置し徹底した鎮圧を行なった。
 十二月十日、マクロン大統領はテレビ演説で「経済的社会的な非常事態」を宣言し、「黄色いベスト」運動について「多くのフランス国民が共有できる深い怒りだ」と述べた。
 そして、二〇一九年一月より、現状の税引前一四九八ユーロ/月、税引後一一八五ユーロ/月の最低賃金を政府補助金引き上げにより一〇〇ユーロ(約一万二六〇〇円)引き上げ、残業代非課税、年金受給月二〇〇〇ユーロ未満の退職者の社会保障税減税、今年末の賞与非課税を表明した。
 そして、「最低賃金引き上げで雇用主には一ユーロの負担もかけない」と述べた。
 高校生の学生連合UNL―SDは教育基本法に抗議し翌十一日を「暗黒の火曜日」にと呼びかけ、全国の高校の一〇%にあたる四五〇校で校舎封鎖行動を行なった。このうち五〇校は完全に封鎖された。
 十二月十四日、労働総同盟(CGT)などが呼びかけ「黄色いベストの大衆運動によって突き動かされた社会的要求と賃上げを支援する」ため全国ストライキが実施された。
 十二月十五日㈯には全国で六万六〇〇〇人が抗議行動に参加した。この鎮圧に六万九〇〇〇人の軍警察部隊が動員された。
 十二月十六日、フィリップ首相は仏経済紙『レセコー』のインタビューで、燃料税増税見送り(四〇億ユーロ減収)と十日表明諸施策による一〇〇億ユーロ追加支出で、EUの「財政赤字GDP三%以内」を守れないと述べた。
 警察官の三労組(同盟、UNSAポリス、統一SGP―FO)はこの間の警備出動時の残業代未払いに抗議し「暗黒の水曜日」を訴えていたが、十二月十九日、カスタネール内相との交渉でストを中止した。仏政府は、二〇一九年末までに毎月の賃金を一二〇ユーロ増(上級職一五〇ユーロ増)、二三〇〇万時間の残業代支払い(二億七五〇〇万ユーロ、約三五〇億円)を約束した。
 「黄色いベスト」運動は、ベルギーやオランダ、ポルトガル、セルビア、ハンガリー、スペイン、ドイツなど欧州各地そしてイラクにその影響が出ている。また、世界各地の世界労連加盟諸労組が仏労働者の闘いとの連帯闘争を展開している。仏国鉄労働者の長期ストに対して、四月マクロンが率いる「共和国前進」のアタール報道官は「フランスにおけるストライキ文化をなくす」と宣言した。
 農村部での公共交通機関の廃止を進めながら自動車独占の新たな利益源となる電気自動車を購入しろと訴えるマクロンの主張は資本家階級の利益を守り抜くものである。
 仏国鉄SUDレイルのマルティネス指導者は「われわれはフランスの公共サービスを守るために闘っている」と述べた。
 仏人民の闘いは、資本主義の枠を突き崩していく継続した闘いを必須としている。【三田 博】

(『思想運動』1036号 2019年1月1日号