南北朝鮮、鉄道連結へ向け調査開始
「板門店宣言」は妨害を排して着実に実施


 四月二十七、日朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の金正恩国務委員長と大韓民国(以下、韓国)の文在寅大統領が会談し「板門店宣言」を発表した。いま、それから七か月が過ぎた。
 安倍政権は板門店宣言そして六月の朝米首脳会談以降もあらゆるところで朝鮮制裁が必須だと繰り返し声高に叫び続けている。
 また、米国のポンペオ国務長官は九月二十七、日国連安全保障理事会で「朝鮮の非核化が実現するまで、われわれは国連制裁決議を履行する責任がある」と述べ、朝鮮制裁の維持を訴えた。
 四月に南北朝鮮の両首脳は板門店宣言のなかで高らかに、北南関係の改善・発展について「北と南は、北南関係の全面的で画期的な改善と発展を実現することで、断たれた民族の血脈をつなぎ、共同の繁栄と自主統一の未来を早めていく」と、軍事緊張の除去に向けて「北と南は、朝鮮半島で先鋭化した軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的に解消するため共同で努力していく」と宣言した。
 いま、南北朝鮮両首脳の宣言が日本政府や米国などの朝鮮制裁維持の圧力などさまざまな妨害をはねのけ、着実に進められている事実を喜びとともに確認する。
 十一月三十日、朝鮮と韓国の鉄道連結へ向けた共同調査のため、韓国の鉄道車両がソウル駅を出発し朝鮮に入った。
 十一月二十二日、韓国国防省は、江原道鉄原の非武装地帯内にある通称やじり高地で南北をつなぐ道路を開設したと発表した。南北共同での遺骨発掘作業へ向けた措置で、同地での道路開設は一九五三年朝鮮戦争休戦以来、六五年ぶりである。
 十一月一日、朝鮮と韓国は、南北軍事境界線上空の飛行禁止区域の設定や軍事演習の中止など、陸海空で敵対行為の中止措置の適用を開始した。十月二十八日、韓国国防省は、板門店の共同警備区域の非武装化措置が「成功裏に成し遂げられたことを確認した」と発表した。

九月平壌共同宣言と合意書で明記

 これらの諸措置はいずれも板門店宣言で謳われ、「九月平壌共同宣言」(『思想運動』十月一日号)およびその付属文書である「板門店宣言軍事分野履行合意書」で明記された内容である。
 南北鉄道連結へ向けた共同調査は、南北の鉄道を連結し、現代化し、活用していくため、一八日間にわたり朝鮮の線路や設備などを調査する。
 具体的には朝鮮の西側(黄海側)の京義線を十一月三十日から十二月五日まで、東側(日本海側)の東海線を十二月八日から十七日まで調査する。京義線は南西部の開城市から中朝国境の新義州まで四〇〇キロ、東海線は南東部の江原道金剛山からロシア国境近くの豆満江まで八〇〇キロである。
 そして、九月平壌共同宣言は「南北は今年中に、東海線、西海線の鉄道および道路連結のための着工式を行なうことにした」と述べている。
 朝鮮と韓国はこの鉄道連結のための共同調査を八月に実施しようと計画したが、在韓国連軍司令部が軍事境界線の通行を許可せず実施できなかった。
 また、九月平壌共同宣言発表後、米国政府は、道路と鉄道連結などの南北の経済協力については国連制裁違反につながる可能性があるとして韓国に外交ルートで問合せを行ない、韓国政府が「国連制裁に違反する行動は取らない」と米国に回答している。
 十一月二十四日、韓国政府は、国連安全保障理事会制裁委員会との協議を終え、南北の鉄道連結へ向けた共同調査をめぐり、国連制裁の一部が免除されたと発表した。
 十一月三十日に朝鮮入りした韓国の鉄道車両には軽油五万五〇〇〇リットルを搭載しているタンク車がつながっている。「板門店宣言軍事分野履行合意書」(以後、合意書)は、「双方(南北朝鮮)は、東、西海線の鉄道、道路連結と現代化のための軍事的保障対策を講じることとした」と述べている。
 板門店の共同警備区域の非武装化措置は、合意書の「双方は、板門店共同警備区域を非武装化することとした」との宣言に基づき実施された。
 この宣言に対し、次期在韓米軍司令官に指名されたロバート‐エイブラムス陸軍大将は、米国の上院軍事委員会の承認公聴会で「非武装地帯内のすべての活動は在韓国連軍司令部の判断が必要だ」と述べ「合意書のすべてに同意したわけではない」との立場を表明した。
 十月二十六日と二十七日、南北軍事当局と在韓国連軍司令部の三者は、板門店の共同警備区域の非武装化について共同検証を行ない措置が忠実に履行されたことを直接、確認し評価した。具体的には、十月一日から実施した地雷撤去作業や火器・弾薬および歩哨の撤収状況、警備人員の調整実態についてである。
 遺骨発掘について合意書は「双方は、非武装地帯において試験的に南北共同で遺骨発掘を行なうこととした」と述べている。
 江原道鉄原で朝鮮と韓国は共同で十月一日から地雷撤去作業と道路開設作業を進めてきた。来年、電気と通信線を敷設し遺骨発掘共同事務所を開設し、四月以後本格的な発掘作業を行なっていく計画である。
 十一月一日からの軍事境界線一帯での軍事演習の中止や飛行禁止も合意書で定めたものである。飛行禁止区域は軍事境界線から固定翼航空機は東部四〇キロ、西部二〇キロ、回転翼航空機は一〇キロ、無人機は東部一五キロ、西部一〇キロ、気球は二五キロとしている。

平和体制構築と同時行動が原則

 九月、国連総会で朝鮮の李容浩外相が演説を行ない、そのなかで次のようにのべた。
 「朝鮮半島の非核化も信頼醸成を優先させることを基本にし、平和体制構築と同時行動の原則で、できることから一つずつ段階的に実現しなければならないというのがわれわれの立場である。しかし、これに対する米国の相応の回答をわれわれは見ていない」(『思想運動』十月十五日)。
 米国は毎年実施してきている米韓合同軍事演習のうち小規模の合同軍事演習は中止としたが、大規模の合同軍事演習は継続すると表明している。
 八月実施の「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」と十二月実施の「ビジラント・エース」合同軍事演習は中止した。
 しかし、十一月二十一日、米国のマティス国防長官は、毎年春、朝鮮半島有事を想定した米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」について「朝鮮との外交を損なわないため、再編成中」と言い訳をしながら合同軍事演習の継続を発表した。
 米国でも日本でも独占資本にとっては自らの生き残りのため、莫大な利益を得る軍需産業の維持が不可欠である。また、支配階級はナショナリズム鼓吹による人民支配のために緊張状態を継続しようとしている。しかし、一方で、独占資本は資源と市場を求めて、たとえばユーラシア大陸全体を貫く鉄道と道路の連結に乗り遅れまいとやっきになっている。各国の資本家総体は資本主義体制を維持していくため緊密に連携しながらそのなかで支配権を握ろうと争っている。
 メディアはいま進行している胎動をねじ曲げ報道し続けている。たとえば、十月二日『日経』は南北朝鮮が地雷除去作業に着手した事実を「南北、性急な非武装化。非核化置き去りの恐れ」の見出しで報道している。
 われわれは、眼をしっかり見開き具体的な事実を確認し、戦前戦後を貫く負の歴史とまともに向かい合い前に進んで行こう。【沖江和博】

(『思想運動』1035号 2018年12月15日号