十月社会主義革命一〇一周年記念集会での主催者挨拶
討論を通じて切磋琢磨し、ともに成長しよう


 以下に掲載する文章は、十一月十日に東京において開催された「ロシア十月社会主義革命一〇一周年記念集会」における主催者挨拶である(集会の模様については三面にルポを掲載)。資本主義と安倍自公政権の行き詰まりと、それゆえの、なりふり構わぬ政権運営を打破するためには、労働者階級自身の階級的自覚と、それに基づく実践が不可欠だ。【編集部】

 本集会を主催する<活動家集団 思想運動>常任運営委員会責任者で、かつ本郷文化フォーラムワーカーズスクール(略称HOWS)事務局責任者を務める広野省三です。一九六九年に出発したわたしたち<活動家集団 思想運動>は、集団の発足以来、社会主義国、ならびに社会主義を志向する諸国人民と連帯し、自分たち自身が社会主義をめざす決意を固める日として、毎年十一月七日の前後にロシア十月社会主義革命記念集会を開催しています。
 今日は土曜日の夜の集会であり、かつこの後映画上映と講演が控えており、時間がありませんので、簡潔に二〇一八年度後期(二〇一八年十一月〜二〇一九年三月)のHOWS講座の特徴点を紹介します。
 まず「日本のナショナリズムと近現代」シリーズですが、これは二〇一八年度前期六回の講座を引き継ぐものです。
 みなさんご存知のように、つい最近、韓国大法院(最高裁判所)が、韓国の元徴用工をめぐる裁判で、日本企業に賠償を命じる判決を出しました。これに対して、日本政府とマスコミ、各党議員、さらに知識人と呼ばれる人びとの大半が、この問題は「一九六五年の日韓請求権協定ですでに解決している」、それを韓国側が「ちゃぶ台返し」をしたとか、「韓国に法の支配はない」などと非難しています。
 十一月五日に「日本国内の弁護士有志の声明」(以下、声明)が出されました。それによると、「安倍首相は、本年十月三十日の衆議院本会議において、元徴用工の個人賠償請求権は日韓請求権協定により『完全かつ最終的に解決している』とした上で、本判決は『国際法に照らしてあり得ない判断』であり、『毅然として対応していく』と答弁し」ています。
 しかし「声明」によると、「日本の最高裁判所は、日本と中国との間の賠償関係等について、外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、『請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能を失わせるにとどまる』と判示している(最高裁判所二〇〇七年四月二十七日判決)。この理は日韓請求権協定の『完全かつ最終的に解決』という文言についてもあてはまるとするのが最高裁判所及び日本政府の解釈である。」「安倍首相は、個人賠償請求権について日韓請求権協定により『完全かつ最終的に解決した』と述べたが、それが被害者個人の賠償請求権も完全に消滅したという意味であれば、日本の最高裁判所の判決への理解を欠いた説明であり誤っている。他方、日本の最高裁判所が示した内容と同じであるならば、被害者個人の賠償請求権は実体的には消滅しておらず、その扱いは解決されていないのであるから、全ての請求権が消滅したかのように『完全かつ最終的に解決』とのみ説明するのは、ミスリーディング(誤導的)である。」と明確に述べています。
 これまでも日本政府は、「これは日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したということ」であり、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と明言してきているのです。しかし、安倍首相らの誤った認識、考えが連日大量にばら撒かれることによって、日本社会にまたぞろ、「韓国(そして朝鮮)はとんでもない国だ」というイメージが拡大しています。河野外相にいたっては記者会見で「こういう判決を出すというのは暴挙だ」とさえ発言しています。
 (付記=十一月十三日に発表されたNHKの世論調査では、韓国大法院が賠償を命じる判決を言い渡したことについて、
「納得できる」が二%、
「納得できない」が六九%、
「どちらともいえない」が一九%で、
 また、日本政府が、国際司法裁判所への提訴も検討していることについては、
「提訴すべき」が五六%、
「提訴する必要はない」が五%、
「どちらともいえない」が二五%
という数字が出ている)。
 いっぽう国連では、日本軍「慰安婦」問題で「日本政府に人権侵害として責任を認め、被害者目線で最終的な解決を確実に履行するよう」勧告が出されています。また朝鮮高校の無償化からの排除を改め、朝鮮学校にも適用するよう勧告が出されています。
 しかし日本政府は、それらになんら答えていません。
 日本政府は「国際社会」という言葉を、さも自分たちの正しさを証明する権威あるもののように好んで使っていますが、実際はダブルスタンダードなのです。自分たちの気に入らないものは無視・敵視し、自分たちの主張が「国際社会」で圧倒的支持を得ているかのような宣伝に必死なのです。
 昨年十月の衆議院選挙では、自民党は朝鮮脅威論を煽りに煽り、勝利を手にしました。しかし、その後今年に入ってからの南北首脳会談、朝米首脳会談を通じて、朝鮮半島の非核化・平和構築・南北統一の動きが進展しています。南北朝鮮、中国、ロシア、そして米国さえもが朝鮮半島で戦争が起きるとすればそれは核戦争で、もはや戦争はできないという認識に至っています。それなのに、安倍政権は、朝鮮制裁の継続、軍備拡張に躍起となっています。
 わたしたちは、こうした流れを、日本のナショナリズム、とりわけ近現代のナショナリズムの歴史、日本帝国主義の侵略と植民地支配の歴史を学ぶことによって克服していかなければならないと考え、このシリーズを継続しています。さいわい、受講生は二六、七名で定着しています。後期からでもかまいませんのでぜひ、ご出席ください。
 次に、「大西巨人『神聖喜劇』を読む」は、今後一年間を通したシリーズの前期四回を実施します。『神聖喜劇』は二〇世紀の日本文学の傑作と評価され、全五巻文庫本にして二五〇〇ページの大作です。
 そこでは、戦争と軍隊と性と革命、天皇制と被差別部落、資本主義社会の差別構造と階級意識、闘う仲間の連帯等々のテーマが追求されます。それは、「一般社会とは隔絶した特別の社会」と捉えられがちな軍隊の中にあって、その不条理と、ときにはブルジョワ法や規範をも楯にして闘い抜き、まさに「権利は闘い取るもの」という思想と実践が貫徹されていく物語です。
 HOWSは二〇〇〇年四月に出発しました。大西巨人さんには、その開講講座で、わたしたちHOWSの創設者で批評家の武井昭夫と「文学・表現公表者の責任」と題する対談を行なってもらいました。また折にふれてHОWSでの講演を引き受けていただきました。
 このシリーズは、長年、大西文学を愛読、研究している立野正裕さん、山口直孝さんにアドバイザーになってもらい、受講生が分担して報告を引き受けるスタイルの講座です。これは「日本のナショナリズムと近現代」の進め方と同様です。このスタイルは「講師は教える人」、「受講生は教えられる人」ではなく、「ともに討論を通じてお互いが切磋琢磨し成長する、学習と行動の場を創りだそう」というHOWS出発時の趣旨を自覚し、実践するものです。
 非正規雇用は四割に達し、年収二〇〇万円以下の労働者が一〇〇〇万人を超える日本社会。『消費者白書』二〇一七年版によると、「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(二〇一三年度)で、若者(一三~一九歳)に、将来に希望を持っているかどうかを聞いたところ、「希望がある」の回答がアメリカで五六%、イギリスで四四%、スウェーデンで五二%、韓国で四二%だったのに対し、日本は一二%です。このデータ一つとってみても、日本社会の崩壊は急速に進んでいると言わざるをえません。
 その他、二〇一八年後期のHОWSでは、労働運動の再建、国際連帯、改憲反対、朝鮮の平和・統一への支持・連帯、沖縄の反基地闘争への参加、文化・芸術関連などなど、二七講座を準備しました。
 資本主義社会に出現するさまざまな問題は、相互に、そして根底でつながっています。現代への疑問と不満を抱き、その矛盾の解決をめざすHOWSへの参加を、改めて呼びかけます。【広野省三】

(『思想運動』1033号 2018年11月15日号