「明治一五〇年記念式典」を前に日本の歴史認識を問う
「地獄への道」からの脱却を!
韓国の済州島で十月十一日から十四日にかけて行なわれた2018世界海軍祝祭国際観艦式に日本の「海上自衛隊」の護衛艦が「旭日旗」をつけて参加することをめぐり、日韓政府間の軋轢が報道された。
問題は二つある。一つは、国際観艦式を済州島で行なうことの是非、もう一つは言うまでもなく「旭日旗」である。
済州島での観艦式
韓国における国際観艦式は、金大中政権時の一九九八年と李明博政権時の二〇〇八年に次いで、今回で三回目になる。前の二回は釜山や鎮海などで行なわれてきたが、今回は済州島の海軍基地(軍民共用港として二〇〇七年着工~二〇一六年完工)周辺で一〇か国、米核空母ドナルド・レーガンなど外国艦艇一五隻を含む三九隻が参加するなかで行なわれた。この済州海軍基地は、地元の江汀村民や韓国内の平和団体・環境保護団体活動家などの一一年におよぶ反対闘争を国家権力の投入で弾圧し建設を強行したもので、基地建設は江汀村民の間に葛藤と分断を生み癒しがたい傷痕を残した。その済州海軍基地周辺で、文在寅政権は国際観艦式を敢行したのだ。
まして、南北・朝米の対話がすすめられているこの時期に。
「2018国際観艦式反対と平和の島済州守護共同行動」と民主労総は観艦式が開始される十一日当日、済州海軍基地前で共同記者会見を行ない、また観艦式の期間中、ボートを出しての海上抗議行動や江汀周辺での抗議宣伝行動に取り組んだ。共同記者会見では「平和を破壊する国際観艦式に総身で反対する」という声明を発表し、次のように意思表明した。《文在寅大統領が本日、観艦式の観閲を終えて江汀村を訪問するという。/文大統領はさる四月、済州4・3七〇周年追悼式場で「済州に春が来ています」と言ったが、この秋また訪れる済州に“平和の風”を集めて来たのではなく、“葛藤の寒風”を巻き起こしているだけだ。/本日、大統領が江汀を訪ね、華麗な美辞麗句で慰労の言葉を伝えるといっても、すでに引き裂かれてしまった江汀住民たちの心の傷は癒すことのできない状況に達した。観艦式開催の過程で、住民たちに行なった青瓦台(大統領府)の懐柔と葛藤を助長する過程を振り返ってみれば、本日、大統領が述べるあらゆる言辞は、やはりその真正性を疑わざるを得ない。
周辺地域発展計画という体のいい名分で世論を糊塗しようとする試みもまた、過ぎ去った一一年間に江汀で起きた江汀住民たちと平和活動家たちの闘いを、国民の税金を投じて買収するものに他ならない。/南北首脳がつどい、韓半島の平和体制と非核化を実現していくこの時に、まさに済州海軍基地が当初約束した民軍複合型の観光美港ではない、明白な軍事基地であることを全世界に宣言する席で、果たしていかなる平和の話ができるかも疑問だ》と。
侵略糊塗する日本
いっぽう、十月五日、安倍第四次内閣の新防衛相岩屋は、この国際観艦式への「海上自衛隊」の護衛艦派遣を中止すると発表した。韓国政府が「海上自衛隊」の護衛艦に対し「旭日旗」(自衛艦旗)を掲載しないように求めてきていたが、その要請を拒否し不参加を決めたのである。「旭日旗」は旧日本軍が使用し、「自衛隊」は一九五四年発足時にその旗を「自衛艦旗」とした。「旭日旗」は、朝鮮や中国などアジア諸国人民から「日本軍国主義の象徴」と強い批判を浴び続けている。
韓国政府は国際観艦式へ向けて、八月三十一日に日本など参加一四か国に対し式典に参加する軍艦は「自国の国旗と太極旗(韓国の国旗)のみの掲揚が原則」と通知し、十月三日に「艦首と艦尾に旗を掲げない」との追加条件も連絡した。さらに韓国海軍の報道官は九月二十七日、国際観艦式へ向けての参加各国への上記の通知について公表し、その際「韓国海軍は旭日旗に対する国民の憂慮を解消するために努力している」と述べた。
韓国海軍がこの問題を公表した際、防衛省関係者は「非常識な要求。降ろすのが条件なら参加しないまで。従う国もないだろう」と述べた(『朝日新聞』九月二十八日付)。
さらに十月四日、統合幕僚長河野は会見で「海上自衛隊にとって自衛艦旗は誇りだ。降ろしていくことは絶対にない」と述べた。
南北朝鮮人民の声
しかし、こうした言こそ侵略の歴史を糊塗して省みない物言いだ。このような言動に対して、南北朝鮮人民はどう反応しているか?
十月一日、韓国進歩連帯や民主労総、全農などで構成する「戦争反対平和実現国民行動」はソウルの旧・日本大使館前で記者会見し、《侵略戦争犯罪国家の日本が旭日昇天旗をつけようがつけまいが、何の謝罪と責任もなく韓国の地に入ってくることじたいが問題》だとして、《韓国政府は日本に積極対応せず、国民の怒りばかりをかきたてるところでは、国際観艦式を廃棄するほうがましだ》と強調して、「戦争犯罪 謝罪のない日本」の文字が書かれた「旭日旗」を切り裂く示威行動を行なった。
また、十月三日に同じ旧・日本大使館前で行なわれた「第一三五五回日本軍性奴隷制問題解決のための定期水曜デモ」では、壇上から日本軍性奴隷被害者の金福童ハルモニが、日本軍国主義を象徴する「旭日旗」をつけては韓国に入ってこられない。日本政府は過去の罪悪に対して謝罪すべきと強調した 【上段写真】。
さらに、朝鮮民主主義人民共和国の『労働新聞』(十月八日付)は、「厚顔無恥なぶったくりの詭弁」と題するシム・チョリョン署名の論評を掲載した。そこでは、《日本反動どもが済州島で開かれる「観艦式」に「旭日旗」を掲げた海上「自衛隊」艦船を参加させると横車を押して、内外の大きな非難と怒りをかきたてた。防衛相小野寺をはじめとする日本反動どもは「旭日旗」掲揚に反対することに対して、何か「主権の象徴」とか「非常識で礼儀をわきまえない行為」とか言ってつじつまの合わない弁を弄し、かえす返事で「受け入れられない」と居丈高に述べ立てた。/これこそ厚顔無恥このうえない者どものぶったくり的仕打ちにほかならない。/果たして常識も礼儀もわきまえない無礼非道な者どもはどちらなのか。/「旭日旗」と言えば、さる二〇世紀に日本帝国主義者どもが「東洋制覇」を叫びながら、わが国とアジア諸国に対する野蛮な侵略行為を敢行する時に使った血のにおいのする戦犯旗だ。日本軍国主義を代表する象徴物である「旭日旗」は、当然一九四五年日帝の敗亡とともに歴史のくず籠に葬り去られるべきだった。国際社会もナチスの象徴物の使用が厳格に禁止されているように、日本の「旭日旗」の使用も禁止させなければならないと強力に主張している》と指摘した。
問われる日本人民
いま、日本人民に決定的に欠けているのは、この歴史認識である。「旭日旗」も「日章旗」も「君が代」も、そして何より「天皇制」そのものも、主権者意識をもった日本人民が、日本の敗戦時に自力で歴史のくず籠に葬り去って然るべき代物だったのである。その歴史的要請はいまも変わらない。否、それなくして社会主義日本の実現は望みようがない。
きたる十月二十三日には、日本政府主催の「明治一五〇年記念式典」が東京・憲政会館で敢行される。それは、安倍「戦後七〇年談話」を踏襲する歴史認識で貫かれた醜悪なものとなるだろう。それは「地獄への道」にほかならない。その道からの脱却は、われわれ日本人民みずからが成し遂げるほかはない。人民の思想運動が求められているのである。【沖江和博・土松克典】
(『思想運動』1031号 2018年10月15日号)
|