総裁選の勝利から改憲をめざす安倍戦略
朝鮮半島の平和を求める闘い、沖縄の反基地闘争との連帯を!


安倍政権の当面の改憲路線


 八月十二日、安倍晋三は山口県下関市内の講演で「いつまでも議論だけ続けるわけにはいかない」「自民党としての憲法改正案を次の国会に提出するよう取りまとめを加速すべきだ」と発言、秋の臨時国会に自民党の「改憲原案」を提出する意向を明らかにした。二十七日には、来年夏の参院選前に改憲の国民投票を実施するよう求める麻生派の政策提言に対して、「基本的な考え方はまったく同じだ」と賛意を表明してみせた。
 こうした安倍の改憲促進発言にはかれらなりの根拠がある。そこには改憲勢力が参議院の議席の三分の二以上を確保しているいまのうちに、つまり来年七月の参院選前までに改憲発議をしておかないと、選挙の結果次第では発議が遠のき、二〇二〇年新憲法施行という目標が達成できないという強い危機意識があるのだ。
 「森友・加計」問題をはじめとする数々の疑惑や強権的政治手法への人民の不信・反発、アベノミクスがもたらした貧困と格差の拡大、社会保障費の抑制や消費税増税などで今後確実に増大する勤労人民の負担、相次ぐ災害等々「難問」は山積している。トランプ米政権との「日米蜜月関係」も貿易赤字をめぐって対立が表面化している。安倍政権に対する有権者の支持がこの先も維持され、参院選で改憲発議に必要な三分の二の議席を確保できる保障(肯定的材料)などどこにもない。
 そうしたなか、九月二十日に自民党の総裁選挙が行なわれる。安倍はこの選挙で憲法問題を無理やりにでも争点化させ、石破茂に圧勝することで改憲の流れを一気に加速させたいと考えている。
 しかし、改憲に向けた論議と意思統一は国会内ではむろんのこと自民党内でさえ進んでいないのが現状だ。安倍が打ち出した「第九条の二」に自衛隊を明記する案に対しては石破を中心に異論が根強くあり、今年三月の党大会では安倍が打ち出した改憲四項目を正式に決定することすらできなかった。公明党は早期の改憲には慎重な態度を崩していないし、各種世論調査では改憲反対が賛成を上回っている。もちろん安倍らは自分たちの都合のいいときに、さまざまな手練手管を使ってくるだろうが、国民投票実施となればすんなりいくはずがないし、決してそうはさせてはならない。
 そうした状況を何としても転換させるために、安倍たちは、来る総裁選挙で圧勝し、石破ら党内で異論をとなえる勢力をねじ伏せ、一刻も早く自民党内を制圧し、一丸となって安倍の論に沿った明文改憲の具体化に突き進もうとしているのだ。この流れに日本の人民全体を巻き込んでいく、これがかれらの描く当面の改憲戦略だ。

「公共性」の欺瞞を露呈した演出

 八月二十六日、安倍は、「あと三年、自民党総裁として、首相として日本のかじ取りを担う決意だ。来月の総裁選挙に出馬します」と、三期目の当選を目指し、自民党の総裁選挙への立候補を表明した。
 自衛隊日報問題、「森友・加計」問題、「残業代ゼロ法案」におけるデータ改ざん問題等々、安倍政権は、ブルジョワ支配の帰結として噴出した数々の腐敗・不正には知らんぷりを決め込み、反人民的政策をあくまでやりぬく構えだ。
 では「正直、公正」を掲げる石破茂は人民の側に立つ「対抗馬」か? 断じて否である。その実施時期・スピードに違いはあるが、石破もまた、憲法改悪という点では現安倍政権の路線と何ら変わるところはない。それどころか、石破は戦力不保持をうたった第九条二項を削除し、陸海空自衛隊保持をよりはっきりと憲法に明記しろと述べているのだ。さらに、改憲の項目としては内閣総理大臣に独裁的権限の行使を許す、きわめて危険な「緊急事態条項」の創設を優先せよと主張している。
 安倍の地方視察にあわせ、「異例」の総裁選立候補表明が行なわれたのは鹿児島県垂たる水み市だった。それはNHKの大河ドラマ『西せ郷ごどん』の舞台である鹿児島の象徴・桜島を背景に、「明治一五〇年」と首相の地元である山口県とを絡めて新たな「薩長同盟」をという、俗耳に入りやすく、またマスメディアがもてはやしそうな凝った演出であった。そこまでやるかとあきれかえったが、同じ日の晩に放映の『西郷どん』がちょうど「薩長同盟」の回で、西郷役の俳優が「日本を守るため薩長は手を結ばにゃならん」といったナショナリスティックなセリフを吐いていた。ここでも傲慢と忖度が手に手をとってはしゃいでいる。
 この「異例」の演出で明らかなのはブルジョワ支配階級による「公共放送」の私物化の現実であるが、これこそが資本主義社会のメディアの姿・役割であることを、わたしたちは知らねばならない。資本主義社会におけるテレビ放送とは、資本家階級が労働者階級をイデオロギー的に骨抜きにするための道具であり、無前提に労働者と資本家という階級を超越した「公共」が成立することを夢想してはならない。

自民党総裁=次期首相ではない

 言うまでもなく、自民党の総裁選挙は、資本家階級の代弁機関で改憲を実現しようとする保守反動政党の代表を選出する選挙だ。そこで選ばれた人物がだれであろうとその主張・政策は日本の労働者・人民の利益や平和への願いに反し憲法改悪をおし進めるものとなる。しかし、結果的に圧倒的な議席数を持つゆえにそうなるとしても、自民党という一政党の総裁を選ぶ選挙が、あたかも次期の首相(国民の代表)を選ぶ選挙であるかのような報道がなされ、その結果は国民の支持を得たものであるかのように世論が作られている。
 「自民党総裁選は一国の首相を決める極めてパブリックな意味合いがある」(成蹊大学名誉教授・加藤節たかし、『毎日』九月九日付)というが、自民党総裁選の投票権を持つのは当然、自民党議員と党員のみである。国民みずからが投票する機会を持たない選挙に、「一国の首相を決める」意味合いを認める国民主権の原則に反した考えを、学者・知識人までが振りまき、主権者としての意識を眠り込ませる役割を演じている。
 マスメディアも同様だ。『毎日新聞』は九月三日、一、二日に実施した全国世論調査の結果を報道している。記事は、「次期総裁にふさわしいか」(結果、安倍=三二%、石破=二九%)、次に七月の安倍内閣の支持率(三七%)を挙げ、「次期総裁に関する回答を自民支持層」に限った質問の結果(安倍=六五%、石破=一八%)などを伝え、最後に「次の首相に最も期待する政策」を聞いて報道を終えている。ここにあらわれているのもまた、記者の意識がまったく自民党総裁選=次期の首相選出という構図を前提にしている実態だ。
 日本の人民は、自民党政権存続が既定事実という意識の植え付けを拒否し、主権者として現政権のあり方を批判していく姿勢を獲得しなければならない。
 かつて二〇〇一年の自民党総裁選挙で、小泉純一郎が「自民党をぶっ壊す」などのセンセーショナルな主張を掲げて選挙戦を戦い、マスコミがそれを興味本位に取り上げ、事前の読みでは優勢とみられた橋本龍太郎に圧勝した。この総裁選でマスコミがつくり出した「小泉旋風」が、その後の小泉の長期政権へとつながり、格差の拡大、自衛隊のイラク派兵や郵政民営化などの反動的政策の遂行を許すことになった。

改憲阻止の闘いのキーポイント

 一つのポイントは、南北、朝米の首脳会談の成功に示された、朝鮮半島の平和の流れを支持する立場に立ち、これを妨害する動きと闘うことである。安倍政権が進めてきた改憲と軍拡路線の最大の「根拠」は「北朝鮮脅威」論であったが、いまやその破たんは明白である。にもかかわらず、安倍たちは依然としてこれに固執している。二〇一八年度版『防衛白書』は、朝鮮を「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」と位置づけ、来年度予算の概算要求では過去最大の約五兆三〇〇〇億円の軍事費を計上し、その目玉に「北朝鮮のミサイルの脅威に備える」ためとして総額六〇〇〇億円を超えるイージス・アショアの導入が盛り込まれた。朝米間の交渉が米国の不誠実な態度によって停滞している状況のなか、政府とマスコミはその責任を朝鮮側に押し付けるキャンペーンを強めている。「北脅威論」との闘いは、現在も改憲反対闘争の最重要な課題だ。
 もう一つのポイントは、沖縄・辺野古における新基地建設を阻止する闘いと固く連帯して運動を進めることである。安倍たちは、沖縄の反戦・反基地の闘いがみずからの改憲・戦争政策の前に立ちはだかる最大の障害と位置づけ、ありとあらゆる悪辣な手段を駆使してこれを潰そうとしている。
 沖縄の闘いを勝利させることは、日本の労働者階級人民全体の改憲反対闘争の、最重要課題である。九月三十日の沖縄県知事選の勝利に向け、翁長知事の遺志を継ぐ玉城デニー候補を全力で支援しよう!【大山 歩】

(『思想運動』1029号 2018年9月15日号