6回目を迎えた日本軍「慰安婦」メモリアルデー
#Me Too運動を拡げるには


 一九九一年八月十四日は、韓国の金学順さんが、慰安所の設置や「慰安婦」の移送への軍の関与を否定した日本政府に対して「わたしが日本軍『慰安婦』制度の生きた証拠である」と証言した日で、アジア各国の日本軍性奴隷被害者のみならず植民地支配責任を追及する運動団体にとっても画期的な契機となった。
 金学順さんの名乗り出を記念した8・14日本軍「慰安婦」メモリアルデーの取り組みは、二〇一三年から世界各国で始められている。韓国では、その日を今年から「日本軍『慰安婦』をたたえる日」として国家的記念日に指定し、政府レベルでの記念式典や少女像の除幕式、講演、コンサートなどが開催された。また、戦時性暴力にあったシリア、コンゴなど数か国の被害者が参加してハルモニたちから学ぶワークショップも開催された。台湾でも南部の台南市に馬英前総統が出席して初めて「慰安婦」像の除幕式が行なわれた。日本では、全国九か所で講演、シンポジウム、映画上映、展示、街頭行動などが取り組まれた。

Me Tоо から With Yоuへ

 東京では、八月十二日、文京区民センターにおいて「金学順さんから始まった #MeTоо」と題して会場あふれんばかりの参加者を集めてシンポジウムが行なわれた。はじめに主催団体の一つである日本軍「慰安婦」問題解決全国行動・梁澄子共同代表が、集会の趣旨と金学順さんの証言を支えた韓国挺身隊問題対策協議会を中心にした運動の背景と経過、及び自身の運動の経験を含めて詳細に述べた。
 梁代表は、最後に「自分たちの被害を歴史と社会の中で客観的に位置付け、現在、被害を被っている女性たちを救援する平和運動家として、また若者たちに影響を与える人権活動家へと大きく変わっていった被害女性たちを尊敬する社会にならなければならない。MeTооだけではだめで、深い傷を負った被害者たちを孤立させないために常に運動が寄り添ったWith Yоuでなければならない」ことを強調した。
 続いて日本人の「慰安婦」制度の被害者について著作のある作家の川田文子さんが「なぜ日本人『慰安婦』は名乗り出なかったのか」をテーマに報告した。名乗り出られなかった要因として「日本で慰安婦にされた女性たちは性サービス産業に従事していた女性たちだった。多くの女性が自分を売った親への憤りがあった。また、日本社会で繰り返される「『慰安婦』は公娼・売春婦」発言の影響と、性暴力は女性に対する深刻な人権侵害であり、犯罪であることの認識の欠如」をあげた。

根深い差別意識

 最後の報告者として角田由起子弁護士が、はじめに世界のMeTоо運動と日本のMeTоо運動を説明比較したうえで、「日本のMeTоо運動が拡がらないのはなぜか」を分析した。
 角田さんは、日本では、性暴力にあった被害者が、支援や保護の対象ではなく非難の対象になることを、伊藤詩織さんが強烈なバッシングの二次被害にあっている例を挙げて説明した。そして、非難の対象になる背景として、「日本の司法の責任」を強調した。裁判事例が示すように日本の司法は、女性被害者の訴えを尊重せず、「客観的な証拠」を重要視しており、「女性の落ち度」を問題視している。法律家自身が誤解と事実無根にもとづいた刷り込みをされてきていることを述べた。
 また、女性がこれまで「ノーを言う権利」があるとして育てられていない慣習・教育の問題があり、暴力は、政治、経済、教育など社会のあらゆる面での支配・被支配の力関係の差によってうみだされることや、日本社会に女性差別が根深くあることなどが日本でMeTоо運動が拡がらない原因であると力を込めて語った。最後に「女性差別が当たり前である日本社会は間違っており崩していかなければならない」と自身の長い間の経験をいかした報告を終えた。
 質疑応答で、「日本以上に儒教の国で家父長制が厳しい韓国で、急速にMeTоо運動が拡がったのはなぜか」の質問に、梁さんは、「韓国では、民主化を勝ち取った成功体験が大きいことと、被害者と被害者を支えるための闘いをあきらめずに行なってきた。それをうらやましく思うばかりでなく日本でも街頭に出て訴えていく闘いが必要である。被害にあった女性たちが勇気を持ち、尊敬されるような社会につくっていくことが大事である」と締めくくった。
 「慰安婦」問題解決の運動は、そのまま戦争に反対することであり、天皇を頂点とした差別構造を変えることだ。今回の集会は、日本の現状がいかにその解決からほど遠いか、男女を問わず「ノーを言えない人間」がつくりだされているか、力を持たないものにとってより残酷な社会になっていることを改めて認識すると同時に、つらい体験を克服し、後から来る若者や、あらたな性暴力被害者のために命を削って活動する「慰安婦」制度の被害女性たちおよび支援する方たちの闘いがいかに画期的なものであるかを実感した。
 差別を利用して支配を強化する現在の日本政府に立ち向かうには、街頭行動と併合わせて持たざる者が働く現場で力を強め資本に対峙することが必要だ。職場でのセクハラやパワハラをなくし、MeTооを拡げるには少数では難しい。働く者同士が力を合わせるしかない。 【倉田智恵子】

(『思想運動』1028号 2018年9月1日号