人災としての西日本豪雨災害
甚大な被害の背景に新自由主義政策


 多くの犠牲者を出した西日本の豪雨災害。犠牲者数は七月十四日現在で二〇三人と報じられている。今後さらに増えるだろう。被災された方たちに心よりお見舞い申し上げる。しかし今回は、過去に例のないような記録的な大雨になったが、そのことと多くの死者が出たこととをそのまま結び付けて考えることはできない。
 まずインターネット上で話題になり、やがてテレビ、新聞でも取り上げられた七月五日の自民党国会議員の懇親会。首相や小野寺防衛相はじめ四〇人以上が参加していた。この問題を取り上げた『朝日新聞』は「政権幹部の危機意識や防災情報の共有は当初から図られていたのか。救命・救助活動への影響はなかったのか。平成で最悪となった豪雨災害の初動対応を検証する」とリードで述べている。

初動対応の検証

 この問いの答えは、『朝日』自身が同ページに掲載している時系列の表「豪雨被害と政府の動き(七月五~八日)」を見れば歴然としている。その冒頭部分を引用すれば、〈七月五日(木)十一時過ぎ、「菅義偉官房長官が定例記者会見で、九州北部豪雨から1年となったことについて質問に「本日も全国的な大雨で警戒が必要な時期が続くことから、先手先手で対策を打っていきたい」。
 十三時二十分「京都市右京区で約2800人に避難指示。午後10時までに京都、大阪、兵庫3府県の約11万人に避難指示。各地で避難勧告も相次ぐ」 
 十四時「気象庁が記者会見で『記録的な大雨』の恐れがあるとして『厳重な警戒』呼びかけ」
 十五時三十分「内閣府で関係省庁の課長級による災害警戒会議。小此木八郎防災相が出席」十六時過ぎ「菅官房長官が記者会見で、記者の質問に答える形で大雨への警戒呼びかけ」
 二十時二八分~二一時十九分「安倍晋三首相が自民党国会議員の懇親会『赤坂自民亭』に出席(以下略)」〉
 京都市で二八〇〇人に避難指示が出されてからさらに四〇分後、気象庁は記録的な大雨にたいする厳重な警戒を呼びかけている。その後、京都府は翌六日午前一時一〇分に災害派遣要請をした。この京都府の対応が最初の派遣要請である。午前三時三〇分に高知県が災害派遣要請をしている。この京都府、高知県の対応でも、気象庁が警告する「記録的な大雨」、一〇〇年に一度、五〇年に一度という規模の豪雨への対応としては、犠牲者がでる事態となるのは、避けられない遅れた対応なのである。ここ数年の降雨量と被害から、事前の大規模な避難のプログラムが必要であったのだ。「先手」とは、このことを指すはずである。菅官房長官が「先手先手」と記者に向かって言っていたそのときには、すでに避難が終了、ないしは進行していなければならなかったのである。

問われるべき問題

 二〇〇八年、アメリカ、ハイチで多くの死者を出したハリケーン襲来に際して、キューバでは死者は出なかった。天候予測と避難を徹底している結果であったという。
 日本の場合、避難計画を立てること自体がむずかしい。避難経路として重用される鉄道、道路などの改修が必要だからである。今次豪雨災害でも土砂崩れで交通網が寸断されている。道路、鉄道自体のメンテナンスが民営化の結果、危険な域まで削られている。JRの脆弱さは、大阪北部地震で近鉄、南海よりJRの復旧が大幅に遅れ、復旧後に線路の陥没(東海道線)などが原因で再び運転見合わせが続いたほど衰えが目立っている。明らかに保線が満足にされていない。
 「もっと早く声を掛けていれば」と悔やむ声が多くの被災者から聞かれる。しかし、問われるべきは、新自由主義政策により地域社会を疲弊させ、社会資本の投下を抑え、自然災害への対策を怠っている政権の責任である。「初動の遅れ」とは、政権が見せた人を人とも思わない残忍な素顔の別名である。 【中野哲明】

活動家集団思想運動は、今回の西日本豪雨災害にあたり、被災した会員・読者・友誼団体傘下の機関・個人にたいする救援のための義援金を呼びかける準備をしています。詳細は、『思想運動』8月1日―15日合併号に「西日本豪雨災害被災者救援のための義援金協力アピール」を掲載します。みなさんのご協力をよろしくお願いします。【編集部】

(『思想運動』1026号 2018年7月15日号