反革命に対し人びとは正義と平和を求め闘う
ニカラグアで街頭破壊活動続く


 この間、ニカラグアのオルテガ政権は、赤字が年間七五〇〇万ドル(約八二億円)に達する社会保障制度の改革について民間企業経営者団体(COSEP)と協議を続けてきた。COSEPはIMF(国際通貨基金)方針を前面に出し、年金受給開始年齢の引き上げや病院の民営化などを主張していた。
 政府は四月十七日企業負担増を軸とした社会保障制度改革案を発表した。この政府の改革案に対し、COSEPは即刻強く反対声明を発表、また見た目では労働者の支給額が減り掛け金も増額になることから、四月一八日、首都マナグア(人口一〇三万人)や西部レオン(一七万人)で労働者や学生たちの政府への抗議行動が行なわれた。そして、四月十九日には、北部エステリ(一〇万人)、南部グラナダ(一〇万人)、マナグア近郊のマサヤ(一二万人)とチナンデカ(一二万人)などに抗議行動が広がり、政府自治体施設や政権メンバー自宅への放火、学校や病院や商店の襲撃と略奪、道路封鎖などの街頭破壊活動が始まった。四月十八日から二十二日までの数日間に二六名が死亡、多数の負傷者が出た。

嘘情報の流布と扇動が行なわれる

 この事態を受け、四月二十二日、オルテガ大統領は社会保障制度改革案の撤回を発表し、反政府諸組織に街頭破壊活動の停止と「国民的対話」を呼びかけ、反政府団体に近いカトリック司教会議に対話の仲介を要請した。この改革案の撤回と対話の呼びかけの後、政府への抗議行動および街頭破壊活動は潮が引くように下火となった。
 しかし、その後の展開を見ると反政府諸組織はソーシャルネットワークと国内外の商業メディア報道を活用し、嘘情報を流布し人びとへの扇動を続け、正義と平和を求める勤労人民の要求を踏みにじり、一方では街頭破壊活動をよりいっそう拡大し、平和へ向けた政府の対話要請に対して表面的には対話に参加しながらもさまざまな理由を挙げて対話の進行を遅らせ、政府から最大の譲歩を引きだそうとしている。
 政府が社会保障制度改革案を発表した直後、改革案の具体的な内容は後で述べるが、反政府勢力はソーシャルネットワークを効果的に活用し、COSEPの主張には一切触れず、労働者の負担増、年金受給者の受給減(負担増)をクローズアップし政府の改革案反対を主張し、主に社会保障制度の内実を理解していない学生たちを扇動した。一方で、労働組合諸組織や主要な学生組織、年金受給者で組織する高齢者組合などが政府の改革案への支持を表明した。
 この直後に発生した街頭破壊活動はその内実を見ると反政府勢力の隊列内で資金供給も含め周到に準備されたものである。この数日間、平和的なデモの一方で準軍事組織が首都マナグアや北部エステリ、西部レオンやマサヤなどで迫撃砲(モルタル・ラウンド)を数千発以上発射したが、その実弾は一個三ドル以上する。ニカラグアの各都市で街頭破壊活動を展開した準軍事組織はいずれも数百名の部隊である。その移動費用も必要である。また、首都マナグアの抗議行動参加者および街頭破壊活動参加者に一人一〇ドルから一五ドルの日当が出されたことが確認されている。

改革案は企業でなく勤労人民を優先

 四月十七日に政府が提起した社会保障制度改革案は、企業を優先するのではなく勤労人民の社会保障を優先した内容で、控えめで公正に分配された社会保障積立金の引き上げと年金生活者の医療範囲の拡大を実現しようとしたものである。
 COSEPは企業負担の増大に反対し、年金受給開始年齢の引き上げ、年金一か月分の年末ボーナス廃止、病院の民営化を主張していた。
 政府はCOSEPの主張を全面的に拒否し、企業負担を七月から一九%を二一%に、二〇一九年一月から二二%、二〇二〇年一月から二二・五%に引き上げ、他方労働者負担を七月から六・二五%を七%に、年金生活者は受給金の五%を支払いとし年金生活者の医療サービス範囲を現役労働者と同じとするとした。
 国際商業メディアはニカラグアの社会保障制度について「二〇〇七年オルテガ政権成立時は黒字でその後赤字になった」と報道しているが、一九九〇年から二〇〇七年の政権で社会補償基金の数百万ドルを企業融資するなどの汚職が発生し、二〇〇七年にサンディニスタ政権が復権した時には、社会保障基金は持続不可能なほど赤字であった。そしてオルテガ政権では社会保障がカバーする対象を広げ、制度が支給する給付範囲も拡大してきた。

継続する米国の干渉政策

 一九七九年サンディニスタ革命が内戦の末勝利し、四〇年以上三代続いたソモサ独裁政権を打倒した。その後、レーガン政権が傭兵「コントラ」を支援し再び長期間内戦となり一九八八年和平合意が成立した。この内戦で一万七〇〇〇人が死去した。そして、一九九〇年の選挙で野党連合(UNO)のチャモロ政権が勝利した。
 この米国のニカラグアへの干渉について一九八六年国際司法裁判所(ICI)は米国に賠償を命ずる判決を下したが、その後国連の安全保障理事会でニカラグア政府が提起した米国の賠償履行請求決議が繰り返し米国の拒否権で否決されるなか、一九九一年親米のチャモロ政権が賠償請求権を破棄した。
 二〇一六年米国のオバマ政権は、ニカラグアの総選挙の不正に対する制裁として「ニカラグア投資制限法(NICA法)」を提起し、下院が承認したが上院で否決された。この投資制限法は「国際金融機関は、人道的目的以外のニカラグアへの融資は米国の承認を必要とする」との内容である。ニカラグアの与野党を含め全政党が米下院の同法承認に対し拒否声明を発表した。
 この同じ内容の投資制限法が二〇一七年十月米下院で「ニカラグアにおける人権侵害と民主主義の後退」に対する制裁として再度承認され、十二月上院の審議に回された。ニカラグア政府は「主権の侵害であり後退した政策」と強く非難した。また、アゲリCOSEP会長は「ニカラグアの国の制度の問題はニカラグア人が解決すべき問題であって米議員が解決する問題ではない」と批判した。
 ペンス米副大統領は五月八日の米州機構(OAS)大使会議で「キューバ専制政治の種が、ニカラグア、ベネズエラで実を結びつつある。米国政府として米州一体となって圧力をかけるよう要請する」と述べ、その数日前の米OAS大使就任祝賀会で「キューバ、ニカラグア、ベネズエラにおける自由追求の作業はトランプ政権の優先課題である」と宣言した。
 米国は米国際開発局(USAID)や全国民主主義財団(NED)、全国民主主義庁(NDI)などを通じてニカラグアの反政府勢力に巨額の資金を支援している。二〇一六年米国際開発局はニカラグアの多くのNGO(非政府組織)に三一〇〇万ドル(約三四億円)の資金を供与した。このような米国の攻撃のなかニカラグア人民は圧倒的な支持率でサンディニスタ政権を支えてきた。

反政府勢力はオルテガ退陣を要求

 二〇一六年十一月の大統領選挙と国会議員選挙でオルテガ大統領は七二%の圧倒的得票で再選され、サンディニスタ民族解放戦線は国会議員選挙で六六%の得票を得て全議席九二議席中七〇議席を獲得した。二〇一七年十一月地方自治体選挙は投票率五三%で、サンディニスタ民族解放戦線は六八%を得票し、全土一五三市のなかで一三四市の市長に選ばれた。
 五月に入り政府は平和実現を優先しニカラグア社会を正常化させるため反政府勢力や仲介者の司教会議が強く要求したOASの米州人権委員会による調査実施を受け入れるなど譲歩した。その状況のなかで、反政府勢力の諸NGO組織は一斉にオルテガ大統領の退陣を要求する声明を発表した。また、反政府勢力の準軍事組織による街頭破壊活動は激しさを増し、幹線道路の封鎖も拡大した。
 五月二十一日米州人権委員会は調査結果を発表し、七六人が死亡、八六八人が負傷、その原因は政府の暴動鎮圧によるとニカラグア政府を非難した。
 六月十二日政府は同日未明西南部カラソ州ヒノペテで発生した武装集団による検証を求めて米州人権委員会に声明を送った。
 「この武装集団の暴力でサンディニスタ民族解放戦線の歴史的な人物である二人が殺害され三人のサンディニスタ解放戦線のメンバーが誘拐されサンホセ高校に監禁されている。地域病院や健康センターも襲撃を受け、ヒノペテ市長自宅が破壊された。これらの事件を考慮に入れ声明書を作成するよう要請する」と。
 翌六月十三日米州人権委員会はニカラグア政府の指摘を無視し反政府勢力の人権団体の組織的な嘘の証言を再度発表し暴力の大部分についてニカラグア政府によるものだと攻撃し非難した。
 六月十四日国会が任命した「真の平和と正義を求める委員会」が調査結果を報告し、四月十八日以降一六八名が死亡し二一〇〇人以上が負傷し、その中には警官八名の死亡と二〇〇名の負傷が含まれることを明らかにした。翌六月十五日ソニカ‐カストロ保健相は、五五台の救急車が破壊あるいは盗まれたこと、数多くの健康センターや病院が破壊活動により損害を受けたことを明らかにした。
 六月に入り反政府勢力の代表として「正義と民主主義のための市民同盟」が前面に出てきた。市民同盟は私企業代表、学生、大学生、NGOなど市民社会組織、農村労働者、福音派キリスト者、インディオ社会代表から構成されている。市民同盟とCOSEPは六月十四日に「司教会議との対話の促進と政府の暴力の中止を求めて」二四時間スト実施を呼びかけた。同日、大手の工場や商店はストに参加した。一方、企業全体の八七%が参加するニカラグア中小産業・手工業会議所(CONAP)理事会は「全国ストは国の経済発展を阻害する」と反対声明を出していた。
 この全国スト当日、ペンス米副大統領は「政府の暴力の螺旋はもはや止めなければならない。政府の犯罪を終わらせ、民主主義と人権を擁護する国民の要請に応えるときだ。抗議者への攻撃を止め、ニカラグア国民に相応しい自由の未来を与えるときだ」と述べ、反政府勢力を公然と支援した。
 反政府勢力の市民同盟は、政府との対話を表面的には続けながら、さまざまな理由を挙げ対話を延期し、街頭破壊活動や道路封鎖を継続し激化させ、ニカラグア経済を麻痺させサンディニスタ政権を打倒しようとしている。その際、ニカラグア反政府勢力は、昨年のベネズエラでの街頭破壊活動と同じように、国際商業メディアの虚偽報道や米国などの諸国による「失敗国家」「独裁国家」の悪罵、そして経済制裁攻撃を利用し、サンディニスタ政権を倒そうとしている。【三田 博】

(『思想運動』1025号 2018年7月1日号