マドゥーロ大統領の勝利を祝う
ベネズエラ人民はその意志を明示した


 五月二十日のベネズエラ大統領選挙で「拡大祖国戦線」に結集する統一社会主義党やベネズエラ共産党など一〇党の統一候補であるマドゥーロ大統領が、六二四万票(得票率六七・八%)で勝利した。投票率は四六・一%であった。われわれはマドゥーロ大統領の勝利を心から喜び、そして祝う。
 米欧諸国およびその追随諸国がベネズエラに対し金融制裁などの「経済戦争」を実施し、世界の主要商業メディアと一体となってマドゥーロ政権に「失敗国家」「独裁国家」などの悪罵を浴びせかけ、政権およびベネズエラ人民の信用を失墜させようとするなか、ベネズエラ人民はその意志を毅然と示したのである。
 次点は進歩的前進党など三党が支持するファルコン候補、一九三万票(得票率二〇・九%)。以下、変革希望党のベルトゥッシ候補、九八万票(一〇・八%)。国民政治団結八九党のキハーダ候補、七万票(〇・四%)と続いた。一方、民主連合会議(MUD)に結集する人民意志党や民主行動党、正義第一党などは大統領選挙のボイコットを呼びかけていた。
 二〇一九年から二〇二五年の六年間の任期の大統領を選出する今回の選挙は、当初今年秋に実施予定であったが、昨年十二月から今年二月までドミニカ国で行なわれた与野党対話で野党側から早期実施の要求があり、前倒し実施が合意された。なお、この与野党対話は一度合意に達したが、署名直前に米国の介入により野党は土壇場で署名をしなかった。

米政権の主張と軌を一にした報道

 今回のベネズエラ大統領選挙についての商業紙(『朝日』、『日経』)および『赤旗』の報道は、選挙一か月前の内容も、そして選挙結果の記事もいずれもベネズエラ人民が直面する複雑な状況を理解できるような要素を欠き、結果として事実を曲げて伝えており、後ほど述べる米政権の主張と軌を一にした報道となっている。
 『日経』(四月二十五日)は見出しに「経済難でも大統領再選か/ベネズエラ公正な選挙を疑う声」を掲げ、記事で「インフレ率年九〇〇〇%、経済が崩壊状態/マドゥーロ大統領への国民の不信感は根強いが、独裁政権下で民主主義が機能不全のため再選が濃厚だ」と述べた。選挙結果について『日経』(五月二十二日)は見出しに「混迷ベネズエラ続く独裁/マドゥーロ大統領再選/米追加制裁の動き」を掲げた。
 『朝日』(五月二十二日)は見出しに「野党弾圧の現職再選/ベネズエラ大統領選投票率は大幅低下/経済は破綻寸前」を掲げ、冒頭で「かつて南米で最も豊かとされた国は、豊かさも、根付いていた民主主義さえ失われる危機に瀕している」と述べた。
 『赤旗』(五月八日)は見出しに「南米ベネズエラ、マドゥーロ大統領選挙強行へ/野党締め出し再選狙う」を掲げ、冒頭で「多くの中南米諸国や米欧諸国は公正で透明性のある選挙の実施を求め、今回の選挙は正当性に欠けると見なす」と述べた。選挙結果について『赤旗』(五月二十二日)は見出しに「低投票率で現職再選/ベネズエラ大統領選野党はボイコット/政権運営ますます困難に」を掲げた。
 各紙が今回選挙の「低投票率」を強調しているが、二〇一七年以降の投票率はほぼ同じである。昨年四月から七月にかけ野党MUDに結集する反動勢力が展開した街頭破壊活動以後、野党支持層が野党に幻滅し、全政党が参加した昨年十月統一州知事選挙でも野党支持層の棄権が多かった。
 この間の選挙の投票率と与党/野党の得票数を見てみよう。二〇一三年大統領選挙(投票率八〇%/与党七五八万票、野党七三〇万票)、二〇一五年国会議員選挙(七四%/与党五六〇万票、野党七七一万票)、二〇一七年七月制憲議会選挙(四二%)、十月統一州知事選挙(全政党参加、六一%/与党五八一万票、野党四九八万票)、十二月統一市長選挙(四七%)である。

イシカワ大使、日本共産党に公開書簡

 五月十四日セイコウ‐イシカワ駐日ベネズエラ大使は日本共産党の志位委員長宛てに記事「ベネズエラ難民深刻、一日八〇〇人がブラジルへ」(『赤旗』四月十三日)について公開書簡を発表した。その冒頭で「上記の記事はベネズエラの政治・経済・社会の現状に関する背景を知らず、かつわが国が直面する複雑な状況を統合的に理解出来るような重要な要素を欠いているがゆえに、日本の世論に情報を知らせる代わりに情報を曲げて伝えている」と指摘している。
 書簡は重要な要素として次の五項目を挙げ具体的に述べている。①米国による経済戦争、②「難民」の用語を不適切に使用、③物不足やインフレの原因、④政府が推進する多数の社会プログラム、⑤近隣国の国境地帯での軍出動と米軍増強について。
 ②項で、「難民」は迫害を受け移住する人びとであり、ベネズエラ国民は個人的な動機で移住し、国連代表も「難民」ではないと述べていると指摘している。また、⑤項で、最近ブラジルとコロンビア両国軍がアマゾンのベネズエラ国境に出動したこと、二月に米南方軍司令官テッド提督がコロンビア訪問後同国で米軍が増強されていること、「人道的支援」を口実としてベネズエラに軍事介入を行なう準備をしているように見えると指摘している。
 ベネズエラの実状については、イシカワ大使の『朝日』への公開書簡(『思想運動』三月十五日号)を是非参照してほしい。

選挙制度についての虚偽と真実

 大統領選挙が実施される数か月前から米欧諸国は繰り返し「大統領選挙は不正な選挙だ」と言い立てている。
 ベネズエラ政府は冊子『ベネズエラの選挙制度についての都市伝説と真実』を作成し、駐日大使館は全文(英文)とともに日本語要約版(A4八頁)をホームページで公表している。冊子は冒頭で「ベネズエラで選挙が行なわれるたび、メディアや国内外の政治的主体は、選挙制度は非合法であるとして結果に疑問を呈す宣伝を始める。この都市伝説(虚偽主張)のうち最も知られたものについて真実を説明する」と述べている。その一部について要点を紹介しよう。
 都市伝説【選管にあたる全国選挙評議会(CNE)は独立した組織ではなく政権側で、政権に有利になるように行動している】について、「現行憲法で選挙管理権は他の四つの権力(立法権、行政権、司法権、市民擁護権)と並ぶ国の権力として設置された。CNEは政治目的の団体に属さない五名から構成。うち三名は市民社会から、一名は国内大学の司法・政治科学部から、一名は市民擁護権から推薦され、国会議員の三分の二の賛成で任命される」と指摘。
 都市伝説【CNEは不正を行ない、選挙結果を変えている】について、「選挙結果の改ざんはベネズエラ選挙制度では不可能。システムは指紋認証を使用しあらゆる段階で自動化している」と指摘。
 モルゲーニEU上級代表は五月二十二日、ベネズエラ大統領選挙への非難声明を発表した。これに対し、選挙監視団の一人として今回の大統領選挙に参加した英国の作家でジャーナリストのジェレミー‐フォックス氏がモルゲーニ氏に書簡を送った。そのなかで「『不正が報告された』についてはその事例を聞きたい。選挙システムは厳格で歪めようがない。あなたの記者発表は風評に基づいたもので最も不名誉な種類の作り事だ」と非難している。
 都市伝説【CNEは政府に有利となるよう野党MUDを無効化した】について、「昨年十二月制憲議会は、直近の選挙に不参加の政党が次回以降の選挙に参加の場合、政党登録の有効化が必要であるとの政令を承認した。この政令に基づき最高裁はCNEに対し重複登録となっている政党を有効化プロセスから除外するように指示した。野党MUDに参加する政党の中には既に政党登録を更新済みの党も存在しMUD登録は重複となる。またMUDは政党でなく政党の連合体のため除外された」と指摘。
 ベネズエラの選挙制度では有権者は選挙リストにある政党を選び投票する。各政党は支持する候補を決めており、各候補者の得票は支持政党の得票の合計である。

軍事介入を準備する米国と提携国

 四月ペルーの首都リマで開催された米州機構(OAS)首脳会議で米国のペンス副大統領は諸国にベネズエラ批判に加わるよう訴え、次のように述べた。「ベネズエラは西半球で最も豊かな国であったがいまや最も貧しい国の一つである。また、民主主義が花開いていたが、いまや独裁制、専制政治に堕している。その責任はニコラス‐マドゥーロにある」と。そして、五月八日のワシントンでのOAS大使会議で「五月二十日の選挙はいかさま選挙だ。マドゥーロ政権に正当な選挙を行なうよう要求する。米国は手をこまねいていない。ベネズエラは自由になる。失敗国家に国境はない」と軍事介入の実施をも辞さないことを示唆する発言を行なった。
 五月十三日ボリビアのエボ‐モラレス大統領は「米国とOASの提携諸国によるベネズエラ政府転覆計画が進行中で、大統領選挙前にメディアに支援された暴力活動を実行する予定で、マドゥーロ大統領が再選された場合には米国と同盟諸国はベネズエラに軍事介入を計画している」と非難した。
 同日アルゼンチンおよびベネズエラの新聞諸紙にアルゼンチンの女性ジャーナリスト、ステラ‐カルロニ署名記事(ベネズエラ大使館ホームページに日本語訳全文)が掲載された。カルロニは米南方軍司令官テッド提督がまとめた機密文書を引用し「米国と提携諸国によるベネズエラ政府転覆計画がすでに着手され、その【前編】は大統領選挙前に『民主主義の防衛』を口実とした暴力に加え、あらゆるプロパガンダとメディアの利用を含む。これらの攻撃でマドゥーロ政権の打倒に成功しなければ【計画B】軍事介入を実行する。【計画B】は、米国防省の指揮の下、パナマ、コロンビア、ブラジル、ガイアナが軍事作戦に参加し、アルゼンチンなどが軍事介入を支援する」と指摘した。
 五月二十二日ベネズエラ政府は、カラカス駐在の米臨時大使と次席の参事官を「国軍分裂策動の陰謀」を行なったとして国外追放した。また、五月二十六日マドゥーロ大統領は「大統領選挙前に暴力を煽り国軍分裂を促そうとする陰謀があった。コロンビアと米国の資金でクーデターを画策した者たちを逮捕した」と明らかにした。
 大統領選挙後、米欧諸国および追従諸国はマドゥーロ政権への非難を叫び続け攻撃を加えている。
 トランプ米大統領は五月二十一日「マドゥーロ政権に民主主義の回復と自由で公正な選挙を求める」と述べ、ベネズエラ国債販売と国営ベネズエラ石油の債務売却を規制する大統領令を出した。同日、リマ・グループ中南米一四か国は「ベネズエラ大統領選挙は自由でも公正でもなかった」と非難し、各国の駐ベネズエラ大使を召還した。
 五月二十三日、日本も含めG7とEUはベネズエラ大統領選挙に関する共同声明を発表し、選挙と選挙結果を認めず「公正で自由な選挙実施」をマドゥーロ政権に求めた。五月二十八日EU外相理事会は、ベネズエラへの制裁強化へ向けた手続きを急ぐと発表した。
 六月五日ワシントンで開かれたOAS通常総会で、米国やカナダ七か国はマドゥーロ政権を非難しOASから追放(加盟資格無期限停止)する決議を提案した。結果は賛成一九、反対四(ドミニカ国、ボリビア、ベネズエラ、セントビンセント・グレナディーン)、棄権一一で否決された。重要決議のため二四票(加盟国の三分の二)が必要。総会前トルヒージョ米OAS大使はすでに必要な三分の二(二四票)を確保したと豪語していた。なお、ベネズエラは二〇一七年四月に「OASは無用な機構である。ベネズエラは米国の植民地省であるOASから脱退する」と宣言してから二年後の二〇一九年四月には自主的にOASを離脱する。
 このベネズエラへの攻撃はキューバ、ニカラグアへの一連の攻撃と一体になったものである。
 五月八日のOAS大使会議でペンス米副大統領は「キューバ専制政治の種が、ニカラグア、ベネズエラで実を結びつつある。米国政府として米州一体となって圧力をかけるよう要請する」と述べた。また、その数日前、米OAS大使就任祝賀式で「キューバ、ニカラグア、ベネズエラにおける自由の追求の作業はトランプ政権の優先課題である」と述べた。四月中旬に始まったニカラグアにおける街頭破壊活動は現在も続いている。昨年のベネズエラの街頭破壊活動と同じ様相を呈している。帝国主義者たちはあらゆる手段でその支配を拡大し強固にしようと策動を続ける。【沖江和博】

(『思想運動』1024号 2018年6月15日号