過去と決別し新しい出発を知らせる歴史的文書
朝米共同声明の発表を歓迎する
世界人民は重大な変化を目撃できるように力を尽くそう!
六月十二日、シンガポールのセントーサ島で史上初の朝米首脳会談が行なわれ、金正恩・朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長とドナルド・トランプ米合衆国大統領が署名した朝米共同声明が発表された。われわれは、先の4・27南北首脳会談の板門店宣言につづき、朝米間でも朝鮮半島の和平に向けた朝米共同声明が発表されたことに対して歓迎するものである。そして、この二つの宣言・声明にもとづいて、朝鮮半島の戦争状態の終結と平和・非核化にむけた諸課題の履行が行なわれること、それらの平和体制構築と連動して南北朝鮮の自主的統一にむかって南北朝鮮人民が力強く動き出してゆくことをこころから願う。それとともに、その歴史のあゆみを逆行させようとするあらゆるたくらみに対して、世界の平和愛好勢力と団結して闘っていく意思を表明する。
朝米共同声明の要旨
朝鮮労働党機関紙『労働新聞』が翌六月十三日付で掲載したその朝米共同声明【二面に全文掲載】は、要旨次のように記されている。
《トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)に安全担保を提供することを確言し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に対する確固不動の意志を再確認した。》そして両首脳は《新しい朝米関係樹立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に貢献することを確信して、相互の信頼構築が朝鮮半島の非核化を推し進めることができるということを認め》たうえで、以下の四項目を声明した。
1.朝米は、平和と繁栄を望む両国人民の念願にふさわしく新しい朝米関係を樹立していく。
2.朝米は、朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を構築するために共同で努力する。
3.朝鮮は、板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化にむけて努力する。4.朝米は、戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘を行ない、すでに発掘確認された遺骨を即時送還する。
そして、《朝米会談の結果を履行するために、可能な限り早い時期にポンペオ米国務長官と朝鮮側高官との後続交渉を行なうことにした。》
物見遊山の報道
これを日本のマスメディアはどのように伝えたか? 翌十三日付の商業紙朝刊の各社社説は、「固い結束のようだが、懸念は大いに残る。米朝の共同声明は(略)板門店宣言に基づくもので、米国が従来求めてきた『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID )』には触れていない」(『毎日』)。「(CVIDの)作業をどのような手順で、いつまでに完了させるのか。一連の措置の要領と期限を明記した工程表の作成が欠かせない。北朝鮮の弾道ミサイル問題が声明に盛り込まれていないのも不十分だ」(『読売』)。「忘れてはならないのは、北朝鮮が過去に何度も約束を破ってきたことだ。1994年の米朝枠組み合意では核開発の凍結、2005年には6カ国協議の共同声明で核放棄まで約束したものの、経済支援などを獲得する一方で、いずれも核合意はほごにしてきた」(『日経』)。「米朝間で対話が継続している間は、米韓合同軍事演習は『挑発的』だとして、やらない意向を示したのは誤った判断だ」(『産経』)等々……。こういった社説の論調に、「ここから先が長い」(『毎日』)、「拙速だった『歴史的会談』」(『東京』)、「それでもショーは続く」(『産経』)などの編集局長や外信部長の論説がつづく。あげくのはてに、「どうもトランプさんは、金正恩に鼻づらを引き回された感じじゃぁないですかね」(六月十四日放送のTBSラジオ番組「森本毅郎スタンバイ!」における森本の発言)といった放言まで出る始末だ。この国では「体面にこだわったトランプ、実をとった金正恩」といった俗耳に入りやすい成金宗主国根性丸出しの下卑た物見遊山的な報道が溢れかえっている。
メディア報道の検証
だが、と投げ返したい。日本の各紙論調は一様に「北朝鮮の非核化」というが、朝米共同声明で取り上げられているのは「朝鮮半島の非核化」なのである。米側が朝鮮側にCVIDを求めるなら、朝鮮側にも在韓米軍基地に持ち込まれる核の撤去、ひいては在韓米軍の縮小・撤去を求める権利があるのは当たり前のことではないか。こうした朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築のための端緒を切り開いたのが今回の朝米共同声明なのである。この朝米首脳会談当日の経過を伝える『朝鮮中央通信』六月十三日付報道【二面に全文掲載】は、金正恩委員長が「米国側が朝米関係改善のための真の信頼構築措置を講じていくなら、われわれも引き続きそれ相応の次の段階の追加的な善意の措置を講じていく」と態度表明したことを報じている。つまり「段階別、同時行動原則の順守」である。日本のマスメディアは、朝鮮側が過去二度の核合意を反故にしたというが、事実は米側が朝鮮の体制崩壊を狙って合意の履行を長期にわたってサボタージュしたり、マネーロンダリング事件を捏造して合意を反故にしてきたのである。ましてや、米韓合同軍事演習の中止の意向表明が「誤った判断だ」というのは、朝米共同声明に違背する戦争放火者の謂いにほかならない。
分断の責任は日本に
朝鮮敵視報道で凝り固まってきた日本のマスメディアは、自分たちがどんなに歴史のあゆみに逆行する極悪非道な行為をはたらいているのかが判らないほど劣化している。
そもそも、七〇年におよぶ朝鮮分断の責任は、日本帝国主義が朝鮮を植民地支配したことから生じている。一九四五年に日本軍国主義が敗北したとき、連合国は敗戦国日本の戦後処理をどうするかの関係の中で、植民地・朝鮮を最長五年間の信託統治期間をへて独立させるというソ米英の三外相による「モスクワ三相会議」の決定を行なった。この信託統治をめぐる評価が、日本の植民地支配から脱した朝鮮の解放空間のなかで左右の亀裂・対立を生み、並行して世界的に顕在化していく社会主義ソ連と帝国主義アメリカの対立(これを「冷戦」と呼ぶ没階級的なとらえ方がいまや大勢だが、筆者は「資本主義から社会主義への全世界的な移行期」の時代規定のなかでとらえたい)とあいまって南半部での単独選挙の強行による南北分断、朝鮮戦争をへて六五年にわたる現在までの異常な「停戦状態」へと連動してきたのである。
いまや、その流れを転換させる歴史的な地点に立っているにもかかわらず、その朝鮮分断の原因をつくりだした責任意識のかけらもない日本のマスメディアの報道ぶりは無慚というほかはない。戦争協力をして敗戦後も社号を変えず存続してきた日本のメディア各社の積み重なった悪弊の猖獗ここに極まれりの感すら覚える。
「北朝鮮」呼称改めよ
日本国首相安倍の請願により、朝米首脳会談で日本人拉致問題がトランプ大統領により持ち出されたという。日朝首脳会談の開催をめぐる水面下の交渉も行なわれていると報道されている。しかし、二〇〇二年の日朝平壌宣言や二〇一四年のストックホルム合意のラインに立ち戻るには、日本政府がこれまでとってきた朝鮮敵視政策を改めることが前提になる。南北・朝米とつづく首脳会談がつくりだした歴史の大きなながれは、日本政府をしてその対朝鮮政策の転換を余儀なくさせているのだ。これは、朝鮮労働党第七回大会と同党の第七期第三回総会の決定が生み出した情勢の変化である。
この歴史の大きなながれに合流しようとするのであれば、われわれじしんも改めなければならないことがある。それは、まず「北朝鮮」という呼称をやめることである。朝鮮は朝鮮民主主義人民共和国という正式名称があり、朝鮮人みずからは「朝鮮」ないし「共和国」という略称を使っている。首相安倍や外相河野、財務相麻生らが侮蔑感をこめて物言いする「北朝鮮」という呼称は使わない。われわれは、ここから出発すべきではないか? 「朝鮮」もしくは「共和国」と話せば、なぜ「北朝鮮」ではいけないのと説明を求められよう。そこで問われるのが、われわれじしんの歴史認識である。そうした対話をつうじて、朝鮮に対する誤った認識を払拭し、友好連帯の精神を涵かん養ようしていくのである。
金正恩委員長は歴史的な朝米共同声明に署名した後、取材の記者団に「世界は重大な変化をみることになるでしょう」と語りかけた。そうだ!われわれをふくむ全世界の人民は、重大な変化を目撃できるように力を尽くそうではないか! 【土松克典】
(『思想運動』1024号 2018年6月15日号)
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