仏国鉄の四労組が長期スト闘争続行中!
鉄道のみでなく公共サービスを守る


 四月二日午後七時、仏国鉄(SNCF)の労働者たちは長期ストライキ闘争の第一次となる二日間ストを開始した。以後、六月末まで三か月間にわたり五日間に二日間のストライキをいま現在も繰り返し実施している。
 仏国鉄の四つの労働組合である労働総同盟(CGT)、仏民主労働同盟(CFDT)、SUDレイルなどは、マクロン政権が推し進める緊縮政策と労働法改悪に反対し闘いを行なっている。
 今回の長期ストライキ闘争の直接の契機は、フィリップ首相が三月に発表した仏国鉄改革案である。
 この改革案は、欧州連合(EU)が二〇二〇年までに域内の旅客鉄道の市場開放を求めているのに備え、その競争に勝ち抜くために仏国鉄を株式上場し国営特殊法人として改組し「効率化」すると謳っている。そして、仏国鉄労働者たちが現在保持している終身雇用や五〇歳代での早期退職と年金早期受給の権利、毎年賃上げの権利などに攻撃を加え、今後の新規採用者からこれらの諸権利を付与しないとしている。
 四労組はこの改革案が仏国鉄民営化や不採算部門・赤字路線の廃止に繋がるものと非難している。労働者たちはこの改革が民営化への第一歩であり、そしてその後あらゆる労働条件の悪化が招来されると確信している。フィリップ首相は繰り返し仏国鉄の民営化や赤字路線の廃止を否定しているが、仏国鉄および鉄道市場に市場競争原理の導入を謳いながらその具体的な内容を明らかにしようとしていない。

メディアは「人質を取るスト」と攻撃

 三月中旬、四労組は仏国鉄改革案について政府に対し交渉を要求するとともに、第一波として四月二日から二日間のスト実施と、必要ならば以後三か月間に及ぶ長期ストライキ闘争実施を決定した。
 一方、エールフランスの一一労組は二月より六%賃上げを要求しストライキ闘争を実施している。そして四月三日火曜日に第四次のストライキ闘争実施を決定した。
 また、ごみ収集労働者とエネルギー産業労働者たちも、マクロン政権の緊縮政策と労働法改悪に反対し、同じ四月三日にストライキ闘争実施を決定した。
 メディアは四月三日を「魔の火曜日」と命名し、三月下旬から主流メディアは連日「ストライキ闘争は通勤者たちを『人質にとっている』。人びとは通勤手段で選択の余地がない」と仏国鉄労働者たちを攻撃した。
 フィリップ首相はスト参加者たちに「数百万人の仏国民の意志を尊重してほしい。人びとは働きたい。列車に乗り職場に行きたい」と訴えた。
 四月一日のIFOP調査によれば、スト支持四六%、反対五一%であった。主要メディアの連日の宣伝にもかかわらず二週間前の調査よりスト支持は四%増加した。
 四月三日の仏国鉄ストでは国鉄労働者の七〇%以上がスト闘争を支持するなか、運転士の七七%と他職種の労働者の三四%がスト闘争に参加した。高速鉄道TGVは八本に一本、都市間移動列車は五本に一本の運転であった。国際列車ユーロスターは七五%の運行状況でスペイン、スイス、イタリアとの連結を中止した。
 同日のエールフランスのストは、パイロットの三二%、客室乗務員の二〇%、地上職員の一五%がストに参加し、七五%の運航状況であった。

新自由主義政策を推進するマクロン政権

 昨年五月、労働市場改革や歳出削減などを掲げたマクロン政権が成立した。労働市場改革では「正社員を解雇しやすくして企業の採用意欲を高める」とし、法人税率を現行の三三・三%から二五%に、歳出削減では失業給付の縮小や退職する労働者の補充を停止し今後五年間で公務員の一二万人削減を政策課題として掲げた。そして昨年九月、マクロン政権は改悪労働法を施行した。
 マクロン政権の一連の攻撃に抗し昨年十月には公務員および公共部門の労働者四〇万人が仏全土で、自治体予算の削減や公務員の大幅削減、賃上げ抑制に抗議してストを実施した。このスト闘争はマクロン政権下でスト闘争不参加であったCFDTや「労働者の力」(FO)なども参加し一〇年ぶりとなるCGTなど九労組センターの公務員労働者たちの共同行動であった。直前のCFDT大会ではマクロン政権との対話路線を掲げる指導部に対し加盟単産から激しい突き上げが行なわれた。
 今年二月に教育改革法(通称ヴィダル法)が議会で可決されると一気に学生たちの間にマクロン政権に対する反対運動が広がった。フランスでは国家試験バカロレアで認定を得れば大学への進学資格を得る。ヴィダル法は大学の各学部で志望者数が多い場合「選抜」を行なうとする。学生たちは、この選抜や学部定員の基準が不明確であり、大学のエリート化につながると反対している。いくつかの大学で占拠闘争が行なわれ機動隊導入による排除も実施されている。
 三月二十二日には仏全土で七つの労組センターが呼びかけ五〇万人の公務員および公共部門労働者が参加し、仏国鉄改革や公務員制度改革に反対してストを行なった。

「ストの文化をなくす」と公言

 四月二日、マクロン大統領が率いる政党「共和国前進」のアタール報道官は「われわれはフランスにおけるストライキ文化を除去しなければならない」と述べた。
 直後の仏国鉄労資間交渉で政府は労働組合側の要求に耳を傾けることなく一歩たりとも譲歩せず行き詰まり状態となった。四月六日CGT鉄道労連指導部は「政府との生産的な交渉の再開がないならば六月末までの『長期闘争』を闘い抜く。われわれにはその準備は出来ている」と述べた。
 フィリップ首相は四月六日『ル・パリジャン』紙インタビューで「仏国鉄は変革が必要である。われわれはこの改革を最後までやり通す」と述べ、マクロン大統領は四月十二日「一部の人びとが不満だからと言って、わたしは立ち止まらない。今後の五〇年に向け改革を進める」と宣言した。
 四月十七日、マクロン政権は、仏国会下院で仏国鉄改革法案を採択した。
 フランスの労組加入率は一一%と低く民間では五%を切ると言われている。そして多くの労働組合に分かれている。
 にもかかわらず労働組合の影響力が強いのは「労働組合は加盟組合員のみではなく労働者全体の声を代表する」と規定する法と、「有利原則と呼ばれる、下位の協約が上位の法を変更できるのは労働者が有利なときに限られる」とのフランスの労働法の原則によると鈴木宏昌氏は指摘している(『オルタ』二〇一七年十一月、二〇一四年十月)。
 つまり、労資協議で締結した労働協約は当該労組員のみではなく職場のすべての労働者に適用される。また、有利原則により、法が最低の基準を設け、その上に産業別協約や企業協定がよりよい労働条件を定める。
 この間の労働法改定は一貫して、労働者階級が闘い取ってきたこれら諸権利を制限し奪い取ろうとする資本家側からの攻撃である。
 二〇〇八年労働法改定で代表的組合に関する規定変更(四年毎の職場選挙で一〇%以上の得票を得なければ団体交渉に参加できない、中央・産別では八%以上)と協約発行の条件設定(職場選挙で三〇%以上の労組連合の署名が必要)が法制化された。
 二〇一三年の中央レベルでの交渉権を有する労組センター投票結果は、CGT二六・八%、CFDT二六%、FO一五・九%、管理職総同盟(CFE―CGC)九・四%、仏キリスト教労働者同盟(CFTC)九・三%であった。
 二〇一六年と二〇一七年労働法改定で、企業協定は職場投票で過半数の得票を得た労組連合の署名が必要なこと、労働時間や賞与は企業協定で定める(協定が不成立のときのみ産業別協約や法基準を用いる)こと、企業協定の拒否は正当な解雇理由となること、多国籍企業の業績不振時の整理解雇の業績判断は仏国内企業のみを対象とするとした。
 この改悪で「有利原則」が崩された。労働者が産業別協約や法基準を理由に企業協定を拒否すれば解雇攻撃である。

総資本は要の仏国鉄労組破壊を狙う

 仏国鉄労働者たちは四月二日のスト闘争開始以後、毎回の二日間スト実施時にマクロン政権の諸改革に対する抗議集会やデモを展開している。学生たちは闘いの最初から仏国鉄スト時のピケに参加し、抗議集会やデモに隊列を組んで参加している。また、抗議集会やデモには公務員や公共部門労働者たちの隊列も多い。
 四月十九日CGTなどが呼びかけ仏全土で三〇万人が結集しマクロン政権が進める諸改革に反対する集会が開かれた。前日に第四次ストを開始した仏国鉄労働者をはじめ、大幅な人員削減攻撃がかけられている公務員や公共部門労働者、エールフランス労働者など、そして学生たちが参加した。
 CGT指導者ジャンリュック‐マルティネスは集会演説で「闘いは大きくなっている」と強調した。
 八〇〇〇名の労組員のほとんどが仏国鉄労働者で仏国鉄内でも戦闘的と言われるSUDレイル指導者エマニュエル‐グロンディンは「われわれはフランスの公共サービスを守るために闘っている。単に鉄道労働者のために闘っているのではない」と述べた。
 三月二十三日に開始されたスト闘争中の仏国鉄労働者たちへのオンライン基金は四月十一日夕刻時点で八五万ドル(約九三〇〇万円)、参加者は二万人に達した。集められた基金はスト中の仏国鉄四労組に分配され各労組はスト参加労働者たちに配布する。
 基金に参加した一人は『ザ・ローカル』紙に「わたしが若かった時はスト闘争中の地元の労働者たちのために基金集めをした。今回それと同じことをした」と語った。
 フランスの失業率は九%台で、一五歳から二四歳の失業率は二二%に達する。そして、一五歳から二四歳の有期雇用は半数を超える。仏国鉄労働者が現在保持している終身雇用は大きく崩されている。
 『日経』四月五日は「仏紙ルモンドによると、鉄道員の平均月収は三〇九〇ユーロで仏全体の二九一二ユーロと大差ない。労組側は鉄道員を狙いうちにする意味合いは少ないと反発する」と紹介している。今回の仏国鉄攻撃は『日経』紙が紹介するような「一般的な攻撃」などではない。仏労働運動の要ともいえる仏国鉄労組を狙いうちにした攻撃である。
 『国鉄闘争の成果と教訓』に収録された座談会で加藤晋介氏が「中曽根が奇しくも『国労をつぶし、社会党・総評をつぶして、つぶした後に新しい憲法を据えるんだ』と言ったように、反対勢力をまずつぶす計画がたてられた」と述べた。まさにいま日本の国労にかけられたのと同じ攻撃が仏国鉄労組に加えられている。仏国鉄労働者たちはそのことを熟知している。仏国鉄労働者たちは、フランスの労働者階級全体に加えられている攻撃を突き崩すために、三か月間の長期闘争を闘い抜き厳しい状況を打開しようとしている。 【沖江和博】

(『思想運動』1022号 2018年5月15日号