<国際時評>英国大学史上最大の教員ストライキ闘争
組織の確立と闘いが現状を打開する
英国の大学教員組合(UCU、一二万人)加盟の全国六四大学の四万二〇〇〇人の教員たちは年金制度の改悪計画に抗し、学生たちの全面的な支援を受け、二月二十二日から三月中旬まで一四日間におよぶストライキ闘争を実施した。ストが実施されているさなかの三月六日、英国の『タイムズ』紙はこの闘いについて「現代の大学での最悪の争議」と述べた。このストライキはこれまでの英国の高等教育の歴史においてもっとも大規模な闘いで、一〇〇万人を超す学生たちに影響が及んだ。
なお、大学教員組合と大学経営者たちの組織である英国大学協会(UUK)との三月五日に再開した交渉が同月中旬に決裂した。大学教員組合は、英国大学協会に至急の交渉再開を要求するとともに、試験および学生の評価期間である四月から六月に第二波の一四日間のストライキ闘争を実施する準備を進めている。
なお、英国大学協会には英国の一三三の高等教育機関(大学)の副学長や主幹が参加している。英国では学長は名誉職で高等教育機関の運営は副学長が行なっている。
確定給付から確定拠出年金制度へ
英国では一九九二年の法改定で高等専門学校のポリテクニックが大学に昇格し、それまでの六八大学が一挙に増加し現在一三三大学となっている。このうち古くからの六八大学の教員の年金制度は、退職時の賃金により年金額が決まる確定給付年金制度である。一方、他の大学の教師たちの年金制度は、経営者側と労働者双方が毎月掛け金を積み立て運用し、その資金のなかで教師たちに退職後年金支給をする確定拠出年金制度である。確定拠出年金制度では、その資金運用を短期の株式投資などで行なうため受け取る年金が株式市場の変動の影響を受ける。
英国大学協会は今回、六八大学の教員たちに対し、退職金財団(USS)の六一億ポンド(約九〇〇〇億円)の財政赤字改善の施策として確定拠出年金制度への移行を提示した。財団が示した財政赤字については、大学教員組合から算出根拠となるデータについて賃金上昇の仮定や二〇一二年からの平均余命を使うなどの多くの間違いの指摘とともにその内容や赤字額について代案が提出され論争が行なわれている。今回提示された年金制度が導入されれば、教員たちの退職後の年金収入は年平均一万ポンド(約一五〇万円)減、総額で二〇万ポンド(約三〇〇〇万円)減額となる。二〇〇七年から働き始めた教師の場合、年六〇〇〇ポンド(約九〇万円)減、総額一二万九〇〇〇ポンド(約一九〇〇〇万円)減る。また、高額の財政赤字を主張する退職金財団のビル‐ケビン会長の年収が今年八万二〇〇〇ポンド(約一二一〇万円)増額され五六万六〇〇〇ポンド(約八四〇〇万円)になり人びとの怒りを呼んでいる。
大学教員組合は年金制度改悪に対するストライキ闘争を組合員に提起しスト投票を実施、一月二十二日投票結果を発表した。六八大学全体で投票率五八%、ストライキ闘争賛成八八%、ストライキ以外の自発的な労働停止闘争賛成九三%であった。自発的な労働停止闘争は、教員による学生評価ボイコットなどを含むためストライキ闘争より経営側へのダメージは大きくなる可能性がある。
この結果をふまえて行なわれた大学教員組合と英国大学協会の交渉は一月二十四日決裂し、英国大学協会はその後の話し合いを拒否した。大学教員組合は、交渉要求とともに、二月二十二日からの五日間のストライキ闘争実施とその後残り九日間のストライキ闘争を通告した。なお、七大学では二〇一六年労働組合法でストライキ闘争の必須条件とされた投票率五〇%を超さなかったため、継続した闘いへ向け投票が組織された。
大学教員組合は、英国大学協会に引き続き交渉を呼びかけながら、二月二十二日全国六一大学でストライキ闘争と自発的な労働停止闘争を開始した。二月二十六日からは三大学でスト権投票が成立し六四大学に闘争が拡大した。教員や学生たちは二月二十八日までの五日間、各大学でピケを張り占拠闘争を行ない、抗議集会を展開した。
学生たちは全面支援、経営側の乱れ
一月二十四日、大学教員組合と英国大学協会との交渉が決裂した直後、全国学生連盟(NUS)は直ちに、大学教員組合のストライキ闘争への連帯声明を発表した。全国学生連盟は各大学の六〇〇自治組織が加盟し、自治組織の九五%を組織している。なお、一つの大学には多くの自治組織がある。たとえばロンドン大学は、一八の教育・研究機関の連合体からなり、それぞれの機関にひとつずつ自治組織がある。
連帯声明のなかでシャキーラ‐マーティン委員長は各自治組織へ向け、教員たちのスト闘争を支援し大学当局が交渉を開始するように、ピケットや集会参加の組織、そして大学当局に対する教育時間欠損補償を要求する署名活動の展開を訴えた。この署名活動は、一月二十日七万筆に、三月四日には一二万六〇〇〇筆に達した。学生に対する世論調査でも六一%が教員のスト闘争支持で、ストが実施されている該当大学では六八%がスト闘争を支持した。
一方で英国大学協会側ではストライキ闘争が開始された直後から乱れが生じた。
スト開始直後から、英国大学協会の年金改悪に反対し、教員たちとの交渉を要求する大学が増えている。ニューカッスル大学のクリス‐ディ副学長は教員たちのスト闘争支持を表明し、グラスゴー大学のアントン‐マスカテリィ副学長は二月二十七日、教員と学生のピケット闘争に参加した。保守党のサム‐ギマー大学担当相は英国大学協会の年金改革案への支持表明をすることなく労資双方の交渉開始が必要と述べた。また、三月三日ケンブリッジ大学のステファン‐トープ副学長は大学教員組合と英国大学協会で合意が成立しない場合、独自の年金制度を開始せざるを得ないと述べた。
こうしたなか二月二十八日、英国大学協会は勧告和解調停局(ACAS)で大学教員組合との三月五日からの交渉開始に合意した。
二月二十八日、ロンドンを含め英国七都市で年金改悪に反対し大学教員組合各支部主催で抗議行動と集会が行なわれ、教員および学生そして労組指導者と労組員や労働党議員たちが参集した。
ロンドン集会で大学教員組合サリー‐ハント書記長は「組合員みなさんの結集と学生たちの支援による闘いにより、英国大学協会は内部に不統一が発生し五日からの交渉開始に同意せざるを得なかった。われわれは引きつづき闘争態勢を維持し圧力を継続する必要がある」と述べた。
最近ではストライキ闘争を支援しピケットに参加する労働党議員が増えている。スト初日にロンドン大学でピケ闘争に参加した労働党のジョン‐マクドネル(影の大蔵相)は集会で「労働党は揺るぎない連帯を表明する。議会でもピケットラインでも、みなさんが勝利するまで」と宣言した。
三月五日から残り九日間のストライキ闘争が行なわれるなか、勧告和解調停局の交渉で英国大学協会は確定拠出年金制度で大学および教員双方がより多くの積立金を支払う制度提案をしてきた。三月十四日大学教員組合は組合員の票決をふまえこの提案を拒否した。大学教員組合は、英国大学協会に交渉再開を呼びかけるとともに、試験期間を含む第二波の一四日間のストライキ闘争へ向け、他大学での試験官を辞退するよう組合内での調査と教員全体への呼びかけを開始した。
言うまでもなく英国の教員たちの闘いは予断を許さない。しかし、昨年六月の総選挙で青年層の投票率が激増し一八~三四歳の六四%、一八~二四歳では実に七二%が労働党に投票したが、その土台には教員のスト闘争を全面支援する圧倒的な組織率の学生自治会組織の存在があり、労働者の基本的な権利を守り抜いていく労働者たちの闘いの組織化がある。学生や労働者の組織の確立とそこで人びとの権利を守り闘う方針の堅持と闘いの組織化が現状を打開する道である。 【沖江和博】
(『思想運動』1019号 2018年4月1日号)
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