未来創造のため名護市長選になにを学ぶか
沖縄と連帯し、みずからを変革する闘いを


 防衛相・小野寺五典は、三月二十七日の記者会見で、名護市への米軍再編交付金を再開すると述べた。稲嶺前市長のときは辺野古移設に明確に反対して政府に協力しなかったから交付金を止めていたが、「現市長は賛成でも反対でもなく、法令に従って適切に判断するという考えを示されている」から交付再開するのだという。さらには二〇一八年度分の交付金に加えて、二〇一七年度分も繰り越して上乗せする手続きを進めているとしたが、この政府の方針は選挙後数日後には明らかにされていた。
 名護市長選では安倍政権・与党が圧倒的な金と力に物言わせ、一地方自治体選挙に介入した。辺野古新基地建設と南西諸島への自衛隊配備という日米安保体制強化の根幹をなす問題が焦点だからこそであり、沖縄では民意や地方自治や命を守り平和に生きる権利すら、国策によって、露骨なやり方で踏みにじられてしまっている。

政権の立ちはだかった選挙

 二月四日投開票の名護市長選で、社民党、共産党、社会大衆党、自由党、民進党が推薦し立憲民主党の支持した稲嶺進前市長は、自民党、公明党、日本維新の会が推薦する渡具知武豊現市長に三四五八票差で敗れた。前回自主投票だった公明・維新は推薦に回り、安倍政権は国政選挙並みに対応した。詳細は地元紙をはじめとする現地取材の記事を見てほしいが、昨年末の官房長官・菅義偉に始まり、一月四日に自民党の二階俊博幹事長、荻生田光一幹事長代行、塩谷立選挙対策委員長が、一月三十一日と前日の二月三日には小泉進次郎筆頭副幹事長が、というように閣僚、衆議院議員が続々と沖縄入りして渡具知陣営を応援した事実だけみても、一地方自治体選挙へのはなはだしい政治介入だったことは明白だ。
 名護市長選挙前の一月三〇日に公表された琉球新報社、沖縄タイムス社、共同通信社の合同世論調査では、普天間基地の辺野古移設に「反対」「どちらかといえば反対」が六六%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」の二八・三%を大きく上回っていた。
 民意は基地反対が圧倒的だったが、相手は争点をはずした。辺野古新基地建設阻止を掲げて立候補した稲嶺前市長と名護市議補選に立った安次富浩ヘリ基地反対協議会共同代表にたいし、渡具知陣営は選挙運動で、辺野古移設を「NGワード」と定め「辺野古の『へ』の字も言わない」マニュアルを運動員に徹底させた(二月五日NHK「クローズアップ現代」)のである。だが選挙翌日の二月五日には首相・安倍晋三みずから記者団にたいし、「本当に勝ってよかった」、「基地問題については市民のみなさまのご理解をいただきながら、最高裁の判決に従って進めていきたい」「普天間基地の移設についてはその方針で進めていきたい」と辺野古が争点だったことを露わにした。そして再編交付金の上乗せ・再開である。安倍政権はこれに先立ち二〇一五年度から、新基地建設予定地に近い名護市辺野古、豊原、久志の久辺三区にたいして直接交付金制度を創設し、名護市を通さない頭越しの交付を行なってきた。圧倒的な権力と金の力が、市民にたいしても辺野古のことを言いたくても言えないように働いたのではなかったか。
 三月十一日投開票の石垣市長選挙でも、陸上自衛隊配備の現行計画に「理解を示す」中山義隆現市長が自民・公明・維新・幸福実現党の推薦を得て勝ち、陸自配備反対で社民、社大、共産、自由、民進の推薦した宮良操・前市議は四二九六票差で敗けた。三位の砂川利勝候補は陸自配備賛成だが住民合意の得られる場所でと現行計画見直しを主張し、保守分裂選挙と言われていた。が、現市長応援には「自民中心に国会議員ら延べ約六〇人が次々と応援に入り、」二階幹事長ら自民党幹部もテコ入れして、「政府与党との『揺るぎないパイプ』」によって「票の流出を最小限に抑え」たという(『沖縄タイムス』)。とはいえ陸自配備「反対」と現行計画見直しの二位、三位の合計得票数は中山市長を上回り、石垣市議補選で勝った二人のうち一人は中山陣営だが、もう一人は「ミサイル基地反対運動の中から農村の代表として出馬した」花谷史郎氏だ。だから民意は現在の自衛隊配備計画反対が勝るのだが、政府は選挙結果をうけ自衛隊配備を「着実に進めていく」とする。

許せぬ不当判決

 三月十三日、名護市辺野古の新基地建設で国が県の岩礁破砕許可を得ずに工事を強行するのは違法と沖縄県が訴えた差し止め訴訟で、那覇地裁は沖縄県の訴えを裁判所の審判対象にあたらないと却下、門前払いした。安倍政権は補償金と引き換えに名護漁協に漁業権を放棄させたことをもって、漁業権は消滅したと主張している。国の意向に沿った不当判決だ。沖縄県は二十三日、判決までの工事差し止めの仮処分は取り下げたが、本訴訟は控訴し、漁業権の有無や国は知事の岩礁破砕許可を得る必要があることを主張してたたかう。
 三月十四日には、辺野古・高江の工事強行に対する抗議行動が公務執行妨害や威力業務妨害にあたると不当拘束・不当かつ違法に長期勾留された山城博治沖縄平和運動センター議長ら三人の判決公判で、那覇地裁が有罪の不当判決を出した。山城議長には懲役二年、執行猶予三年(求刑・懲役二年六月)、他の二人も有罪の不当判決だった(山城議長は即日控訴)。人民の命と平和を守るやむにやまれぬたたかいへの弾圧であり、見せしめである。断固許せない。
 安倍政権はいっぽうで、非暴力で闘う市民にたいする警察や海上保安庁の暴力や違法な工事車両の横行は放置し続けている。

現地への連帯を 強めよう

 二つの裁判には平和運動センターや平和フォーラムはじめ、県内各地、全国から知事や闘う仲間を応援する人びとが集まった。また土砂を投入すると政府がうち出す六月を前に、「護岸工事着手」一年になる四月二十五日に取り組まれる海上阻止行動やその前後にゲート前に結集し続ける五〇〇人行動など、さまざまな行動が取り組まれようとしている。闘い続ける辺野古現地との連帯を強くしよう。
 同時に、地域や職場でおかしいことをおかしいといい、ともに抗う仲間をつくっていこう。平和で安心できる暮らしの前に強権が立ちはだかったとき、困難でも立ち向かえるか。困難でも仲間を増やす努力を怠れば、沖縄の人びとを苦しい立場に追いやる現在の政治状況を変えることはできない。それは筆者自身に突きつけられている問題でもある。 【日向よう子】

(『思想運動』1019号 2018年4月1日号