ベネズエラの真実伝えない日本のメディア
虚偽報道が介入を正当化
事実を伝え人びとの意識を変えよう


 二月二十四日の『朝日』は二面と国際面で大きくベネズエラ情勢を報道した。これらの記事についてセイコウ‐イシカワ駐日ベネズエラ大使が朝日新聞国際報道部部長宛に公開書簡を送った。イシカワ大使は記事の内容がベネズエラの実状とはかけ離れた報道であることを具体的に指摘している(別掲、見出しは編集部による)。
 その上で『朝日』の一連の報道が果たしている犯罪的な役割は、いまのベネズエラの内外情勢を見ればより明らかになる。

米国務長官はクーデター実施を訴える

 米国ティラーソン国務長官は二月一日テキサス大学で講演しベネズエラ国軍に「『政府はもはや国民に奉仕できない』と軍が判断すれば平穏な政権移行ができる」とクーデター実施を呼びかけた。また、「マドゥーロ大統領は友人をつれてキューバに行けばよい」と亡命を提言さえした。
 ティラーソン国務長官はこの後ベネズエラへの干渉と攻撃を目的に中南米諸国を歴訪した。この歴訪と相前後し合意直前まで進んでいたベネズエラ政府と野党間対話を野党は急遽拒絶した。野党の口実は五月の大統領選挙を合意していた国連事務総長ではなくリマ・グループ諸国に監視させるとの要求である。そして、リマ・グループ諸国はベネズエラへの干渉と米州機構首脳会議からの排除声明を発表した。
 国際メディアがベネズエラ報道で多用する「失政」「深刻なインフレ」「独裁」などの用語や表現は、ベネズエラを「無法で失敗した国家」として描き、「人道的危機」にあるとして介入を正当化しようとするためのものである。米国などや国際メディアは世界一の原油埋蔵量を持つベネズエラに社会主義を志向する政府の存在するのを許すことができないのである。
 残念なことに日本共産党機関紙『赤旗』も商業各紙と同様な報道を行なっている。最近の『赤旗』のベネズエラ報道記事の見出しとニュースソースを示す。
 「大統領選五月に延期、当初来月。ベネズエラ混迷続く(時事、三月三日)/移住しないと飢え死に、ベネズエラからコロンビアへ集団脱走、灼熱の国境超え一日二〇〇〇人(ロイター、三月二日)/国民体重平均一一キロ減、経済破綻で食糧難深刻(時事、二月二十六日)/ベネズエラ難民管理へ、ブラジル政府が対策本部(ロイター、二月十五日)/大統領選前倒し、一方的な決定に野党反発(菅原啓、一月二十六日)」
 昨年五月、日本共産党緒方副委員長はベネズエラ大使館を訪れ「ベネズエラ政府と与党・統一社会主義党への申し入れ」書を手渡し「政治、経済、社会的危機が深まっているベネズエラの現状に対する懸念」を伝え、「抗議行動への政府の抑圧的措置の停止」を申し入れた。この訪問と七月十九日の『赤旗』記事についてイシカワ大使は昨年二度、日本共産党志位委員長に公開書簡を送っている。
 大使は申し入れ書の「政府側の抑圧的措置で犠牲者が多数でている」との内容が虚偽であり、世界およびベネズエラ国内での反ベネズエラ政府の合意形成を狙うメディアキャンペーンであることを指摘し「多くの死者や病院などの襲撃などの破壊活動に対する統制は政府の責任である」と述べた。そして、「日本共産党の連帯と決然とした支持が必要とされている」と訴えた。

報道されないベネズエラの真実

 イシカワ大使が朝日新聞への書簡で国連のサヤス査察官の発言を紹介している。査察官はインタビューで「国連の高官や査察官が発表する際、通常BBCやCNNなどの多くのメディアが取材する。しかし、ベネズエラの査察報告に取材にきたのはテレスールとスプートニクのみであった」と述べた。国際メディアの記者たちは取材してもその記事がデスクに没にされてしまうことを知っている。
 昨年十二月の統一市長選監視団に参加した国際ジャーナリストが「報道を信じるな、見出しの背後に真実がある」と題した興味深いルポのなかで「米や小麦粉など主要諸品を含めて深刻な商品不足にあり、医薬品も不足している。しかし、いちばん影響を受けている貧しい人びとが政府に対する怒りが一番少ない。国際ジャーナリストにベネズエラに住む不快感を最も熱心に伝えるのはスーパーが十分に品揃えをしている富裕層の居住区に住む人びとである。商品の購入に三つも、四つもスーパを回らねばならないと訴える」と記している(『ベネズエラ・アナリシス』一月十七日)。最も商品不足の影響を受けている人びとは寡頭支配層による「経済戦争」や投機により商品不足が起きていることを熟知している。
 国際メディアはベネズエラからの「集団脱出」を報じている。この背景には次の事実がある。ベネズエラ国内には隣国コロンビアからこの二〇年間に六〇〇万人の人びとがベネズエラの出生を差別しない社会保障を求め移住している。また、コロンビアの法律では国外で生まれたコロンビア人の子どもは自分の意志を法的に宣言すればすぐにコロンビア人として認められる権利を持っている。コロンビア・ベネズエラ国境を越える人びとの七〇%はこのコロンビア人のベネズエラ生まれの子どもたちで、残り三〇%の大半がベネズエラ居住のコロンビア人である。また、その人たちの大半が富裕層に属している(『テレスール』(二〇一七年十月十二日)。
 昨年十一月、われわれは本郷文化フォーラムワーカーズスクール(HOWS)新ホールの〈こけら落とし〉企画でイシカワ大使を迎え、世界的な連帯運動「われわれは皆ベネズエラ」の一環として「ベネズエラ連帯の集い」を開催した。
 この三月五日から七日の三日間、ベネズエラの首都カラカスで「われわれは皆ベネズエラ」国際連帯集会が開催され九五か国から三〇〇名の代表が参加した。
 同じカラカス市で三月五日第一五回米州ボリバル同盟(ALBA)首脳会議が開催され、マドゥーロ大統領やキューバのラウル‐カストロ議長、ボリビアのエボ‐モラレス大統領、ニカラグアのダニエル‐オルテガ大統領などが集いベネズエラとの揺るぎない連帯を表明した。日本でも二月二十四日大阪アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会主催で「ラテンアメリカ・カリブ海:危機の時代における選択と課題」シンポジウムが開催され、ベネズエラ大使とキューバ大使が講演し、ベネズエラとの連帯を表明した。
 HOWS講座でイシカワ大使は「ベネズエラの事態、マスメディアの虚偽報道はベネズエラ人民のみへの攻撃ではない。この闘いは全世界の人びとに関わる課題である。人びとの意識を変えるチャンスである」と述べた。いま、事実を正しく伝え支配階級が育てた「大衆意識」を変えていく活動が急務である。 【沖江和博】

(『思想運動』1018号 2018年3月15日号