働き方改革法案を葬り去ろう!
労働者はナショナルセンターの違いを越えた共闘を


裁量労働制の拡大を認めはしない!

 一月四日の年頭記者会見で安倍首相は「今月招集する通常国会は働き方改革国会だ」と大見得を切った。その働き方改革関連法案の目玉の一つが裁量労働制の拡大である。
 安倍首相は予算委員会で「一般の労働者に比べて裁量労働制の労働者のほうが、平均的には労働時間が短い」と述べ、裁量労働制が労働者にとっていかにもよいものであるかのような印象操作を行なおうとした。しかし、研究者や野党の追及の結果、本来比較すべきでないデータを用いていたことが判明し、安倍首相は前記答弁の撤回に追い込まれた。
 裁量労働制はもともと、「業務の性質上その業務の具体的な遂行について労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者の具体的な指揮監督になじまず、通常の方法による労働時間の算定が適切でない業務」、たとえば新聞記者やデザイナーなど特定の専門業務に限定して一九八七年にスタートしたみなし労働時間制だ。しかし独占は、まず裁量労働制の範囲を拡大し、いずれはホワイトカラーの大部分を労働時間規制の適用除外(エグゼンプション)すべきとの方針を一貫してとってきた(たとえば日経連「裁量労働制の見直しについて」一九九四年、「新時代の『日本的経営』」一九九五年)。
 一九九八年労基法改悪による企画業務型への拡大、小泉内閣での二〇〇三年改悪(手続簡素化等)、そして二〇〇七年の第一次安倍内閣におけるホワイトカラーエグゼンプション導入策動は、こうした独占の意向に忠実に従ったものだった。
 働き方改革関連法案は、労働時間の絶対的上限規制の導入とセットにすることで、高度プロフェッショナル制=エグゼンプションの創設と企画型裁量労働制の対象拡大を今度こそ強行しようというものである。
 われわれは、裁量労働制の拡大を断じて認めない。
 損保ジャパンや野村不動産など、現行法では対象外にもかかわらず裁量労働制を違法に適用する企業があとを絶たない。労働者本人に裁量権など与えられてはいない。みなし労働時間制を悪用して長時間・不払い労働を強制しボロ儲けしたいだけだ。この社会で「多様な働き方」を自由に選択できるのは、労働者ではない。資本の側なのだ。

同一労働格差賃金の固定化

 働き方改革関連法案は、労働基準法のほか、労働契約法、パート労働法、雇用対策法など八つの法律を一括した改正法案である。二〇一五年の平和安全法制整備法(戦争法)が自衛隊法など一〇の法律の一括改正法案だったのと同じ手口だ。労基法以外の法律でも悪質な改悪が狙われている。
 安倍首相は施政方針演説で「同一労働同一賃金」を実現し「非正規」という言葉を一掃すると述べたが、格差是正のための(はずの)労働契約法、パート労働法、労働者派遣法改正案には「同一労働同一賃金」の表現は見あたらない。二〇一六年十二月に公表された厚労省のガイドライン案を見ても、待遇の違いが合理的か否かの考慮要素は、現状を容認する色合いが強い。立証責任が企業側に課されていない以上、真の格差是正に結びつけることは困難であり、むしろ格差の固定化、法認につながりかねないものだ。

労働政策の変質を許さない

 雇用対策法は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という長い名前の法律に変わるが、変わるのは名前だけではない。労働政策審議会での労働側委員の反対意見にもかかわらず、法の目的には「労働生産性の向上」と明記され、国の施策として「多様な就業形態の普及」も掲げられた。
 「雇用形態又は就業形態の異なる労働者」という文言も盛り込まれている。雇用対策、職業安定は後景に退き、生産性向上=資本蓄積に従属する労働施策が前面に押し出された。
 さらに、雇用関係によらない働き方を「普及」するという。二〇一六年八月の厚労省有識者報告『働き方の未来二〇三五』は、労働者保護法ではなく契約自由(民法)で、という労働政策の変質・転換を打ち出したが、いまやそれが国家意志として確定されようとしているのだ。
 昨年十月、厚労省において「柔軟な働き方に関する検討会」と「雇用類似の働き方に関する検討会」がスタートしている。
 足もとでは、兼業・副業の解禁と奨励(許可制から届け出制へ)、雇用型テレワークの推進が進行中だ。これらは、雇用関係によらない働き方に向けた布石にほかならない。非雇用型(自営型)テレワークは、もちろんフリーランスないし個人事業主以外のなにものでもない。

働き方改革法案を上程させるな!

 共産党、立憲民主党など野党六党は、法案提出見送りを求めているが、安倍政権はギリギリまで法案を上程せず、法律の施行時期を一年遅らせるなど事態を取り繕いながら時間をかせぎ、世論の動向、野党の足並みを窺い、機を見て強行可決を目論むだろう。
 われわれは、職場、地域を基礎に学習、宣伝を積み重ね、二〇一八春闘の課題、憲法改悪阻止の取り組み等と結びつけながら、ナショナルセンター・産別の違いを乗り越えた共同の闘いで、働き方改革関連法案を廃案に追い込んでいこう。【吉良 寛・自治体労働者】

(『思想運動』1017号 2018年3月1日号