改憲阻止の闘いと朝鮮半島の緊張緩和は不可分
安倍政権は南北対話への敵対をやめよ!


今年中の改憲発議めざす安倍政権

 一月二十二日、通常国会召集日に開かれた自民党の両院議員総会で、首相の安倍は、憲法「改正」に触れて「いよいよ実現する時を迎えている。
 その責任を果たしていこうではないか」と国会議員たちにはっぱをかけた。そして同じ日の施政方針演説でも、「国のかたち、理想の姿を語るのが憲法だ。各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り、憲法審査会において、議論を深め、前に進めていくことを期待する」と、改憲に向けた意欲を重ねて示した。政府自民党は、改憲発議を今の通常国会終盤か、秋の臨時国会で行ない、改憲の国民投票を今年末か、遅くとも一九年春までに実施する行程表をえがいている。一九年四月から五月は、天皇の代替わりがあり、夏には参院選があるので、何としてもその前に国民投票を済ませておきたいのだ。自民党の憲法改正推進本部は、党の改憲案づくりに向け、三月の党大会までに自衛隊の九条への明記や緊急事態条項について党内の意見の一本化をめざすと確認している。

敵基地攻撃能力を持つ自衛隊

 明文改憲に向けた準備が進む一方で、一昨年に成立した安保関連法(戦争法)に基づいて自衛隊を軍事攻撃のできる軍隊に変えていくプロセス(実質的な九条改憲)が、自衛隊の任務の面でも兵器や装備の面でも急ピッチで進んでいる。
 施政方針演説の中で、安倍は「北朝鮮情勢が緊迫する中、自衛隊ははじめて米艦艇と航空機の防護の任務にあたった」と報告した。これは、安保関連法に基づき、朝鮮をけん制するために日本周辺に飛来した米軍のB1戦略爆撃機と航空自衛隊の戦闘機が共同訓練した際に自衛隊機に防護任務が付与された事例を指す。もし爆撃機が朝鮮半島に向かい朝鮮軍機から攻撃を受けるような事態が起きた場合、防護任務が付与されている自衛隊は応戦することが可能となる。これは非常に重大な問題だ。自衛隊が朝鮮軍と戦火を交える危険性のあった訓練が国民にはまったく知らされずに行なわれたのである。また海上自衛隊の護衛艦や哨戒機が、黄海・日本海で、朝鮮の船の監視(=「臨検」活動の一環、相手の出方によっては戦闘になる危険性がある)を昨年十二月から行なっていたことも明らかになっている。これも九条二項(交戦権の否認)を空洞化する行動である。
 軍備の面では、従来の憲法解釈では認めてこなかった敵基地攻撃能力を持つ新型兵器が、朝鮮や中国の「軍事的脅威」を口実にして公然と導入・配備されようとしている。
 秋田県と山口県に配備が計画されている地上型弾道ミサイル迎撃システム=イージス・アショアやステルス戦闘機F35Aとこれに搭載できる五〇〇キロの射程を持つ長距離巡航ミサイル(JSM)は、憲法九条に真向から敵対・挑戦する攻撃型の兵器だ。また海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」を、敵基地攻撃能力を備える最新鋭戦闘機F35Bが発着できる航空母艦に改修する計画もある(米軍機の発着や給油も可能)。これまでの政府見解では、攻撃型空母の保有は許されていない。
 専守防衛の建前をかなぐり捨て敵基地攻撃へと自衛隊の性格は大きく変えられようとしている。そのことは、年内に策定される「新防衛計画の大綱」にも反映される見通しだ。
 安保法成立以降の日米軍事同盟の強化と自衛隊の戦争ができる軍隊への転換(実質的改憲)、そして二〇二〇年をめざして進められる明文改憲の動き、われわれはこの両面の改憲攻撃と闘わなければならない。そしてこの闘いの最重要課題のひとつが、朝鮮敵視政策との闘いである。
 ひとつの例を示そう。時事通信の世論調査(一月十二~十五日)では、政府の長距離巡航ミサイルの導入について「賛成」四九・六%、「反対」三八・三%、NHKの調査(十二月八日~十日)の同じ質問では、「必要」三九%、「必要でない」一七%、「どちらともいえない」三五%となっている。この調査結果には、政府・マスコミ一体となった朝鮮の「ミサイル攻撃」脅威キャンペーンの浸透が反映されている。安倍は、NHKの番組で、二〇一八年度予算案に長距離巡航ミサイルの導入費用が盛り込まれたことについて、明らかに朝鮮の「軍事的脅威」を念頭におきつつ「国民の命を守り抜いていくためには、相当質の高い防衛力を持たなければならない。国民の理解を得られると思う」と語っている。

南北対話に敵対する安倍政権

 年初からはじまった朝鮮と韓国の南北対話の動きに対して、日本の政府とマスコミは一貫して敵対する態度を取り続けている。
 一月九日に約二年ぶりに実現した南北会談。そこで発表された共同声明文は、平昌五輪の問題だけでなく、「南北関係で提起されたすべての問題をわれわれ民族が朝鮮半島問題の当事者として対話と交渉を通じ、解決していく」ことを確認した。遮断していた軍事通信線(偶発的な衝突を防ぐためのホットライン)も開通。朝鮮の平昌五輪への参加が決定し、開会式の「統一旗」での合同入場行進、アイスホッケーの合同チーム結成も決まり、すでに朝鮮の選手と大会関係者は韓国に入っている。
 米韓は五輪開催中(二月九日~二十五日)の合同軍事演習を延期することで合意し、トランプは、南北対話を「一〇〇%支持する」と表明、さらに「南北対話中はいかなる軍事行動も行なわない」「適切な時期と状況下で、米国は北朝鮮と対話することができる」と韓国側に約束したものの、かれの日頃の言動から考えれば、胡散臭いことこのうえない。現にトランプ政権はいったん延期した合同軍事演習を五輪終了後ただちに再開することを決めたではないか。中国やロシアをはじめ主要国はこの対話=緊張緩和の動きをもちろん歓迎した。
 その中で、「圧力」一辺倒で対話路線を攻撃してきた安倍政権だけは、従来の路線に固執し、国内外で「北朝鮮ペースの会談」「日米韓同盟の分断が狙い」など、対話の動きに対し悪意に満ちたネガティブキャンペーンを展開している。
 外相の河野は、カナダでの二〇か国外相会合で「北朝鮮の『微笑外交』に目を奪われるべきではない」「北朝鮮との外交関係を断ち、北朝鮮労働者を送還する。こうした措置を通じてのみ、北朝鮮の政策を変えられる」などと、参加国に朝鮮との断交まで迫った。明らかな内政干渉行為だ。
 NHKをはじめとしたマスコミも、韓国内の保守派の声のみを取り上げて「平昌五輪ではなく平壌五輪」などと五輪を通じた和平の努力を揶揄・冷笑するキャンペーンを繰り広げている。

和平実現の闘いと改憲阻止の闘い

 なぜ安倍たちはこんなにしつように対話の動きを攻撃するのだろうか。対話・交渉によって問題解決の展望が開かれれば、「圧力」一辺倒路線の破たんが明白となるからだ。
 和平の動きが進展し極東アジアの軍事的緊張が弱まれば、「わが国を取り巻く安全保障環境のかつてない厳しさ」を口実にして進められている軍事力の増強も、日米同盟の強化も、九条改憲も、その主要な「根拠」を失うことになるからだ。
 トランプ政権が少なくとも表向きは「対話支持」を打ち出し、日本政府だけが取り残される形となる中で、あれほど五輪出席を嫌がっていた安倍も開会式への参加を表明せざるを得なくなっている。
 しかし、われわれは決してこの南北対話の進展を楽観視してはならないだろう。米帝国主義の朝鮮半島政策の基本は社会主義朝鮮を倒すことにあるから、トランプ政権が軍事的な選択肢を手放すことはない。韓国内では五輪問題を取り上げての保守派の巻き返しが強まり、文政権の支持率は下落傾向にある。そして日本政府はあらゆる機会をとらえて南北対話をぶち壊すための卑劣な工作を続けるだろう。
 われわれは、進み始めたこの対話と緊張緩和の動きを後退させることなく、より前進させるために、われわれのなしうることを実践しよう。安倍政権が目論む朝鮮敵視政策をテコにした改憲策動と闘おう。今こそ、日本における改憲阻止の闘いと朝鮮半島における和平実現の闘いとの強固な連帯が必要だ。【大山 歩】

(『思想運動』1015号 2018年2月1日号