子どもと働く者の権利を無視した「少子化対策」などあり得ない
安倍首相が「二○一九年十月からの一○%の消費増税について、その使途を広げ幼児教育の無償化など新たな歳出拡大の財源に充てることを問う」と、強引に衆議院を解散。十一月十七日の所信表明演説の冒頭で急速に進む少子高齢化を「国難」と呼び「人づくり革命」を行なうと称して、幼児教育の無償化を一気に進めることを表明した。
その一週間後の二十四日、「二兆円規模の政策パッケージ」の概要が発表された。
当初政府は「保育料無償化対象」として「認可保育所に入所する三~五歳児のみとする」ことを打ち出した。しかし保護者らから「公立保育所や認可施設に入所を希望しても入所できなかったため、高い保育料でもやむを得ず認可外に入所した」と強い反発が出たため、認可の平均保育料(月約三万五〇〇〇円)を上限とする助成を行なう方向で検討を進めることになった。
また、三歳~五歳の幼稚園入園者には、公定価格の上限である月二万五七〇〇円を支給し、上回る分は自己負担となるという。〇歳~二歳児への無償化は、住民税の非課税世帯に限られた。
二○一六年度の女性の産休取得率は約八一%で、ほとんどが一年間である。男性は約三%に過ぎない。産休明けから子どもが公立や認可保育所に入所できるかどうか、親たちは藁をもつかむ思いだ。ほとんどの市区町村では、来年度の入所申し込みはすでに行なわれており、かれらは不安を抱えながら年末を迎えることになる。
また、安倍は一三年四月「待機児童問題を一七年度末に解消する」と宣言したのだが、それどころか二○二○年度末までに三二万人分の保育の受け皿をつくると待機児童解消はまたもや先送りされることになった。
にもかかわらず発表前の「二兆円政策パッケージ」のなかには、待機児童問題は盛り込まれていなかった。「無償化より、待機児童問題解決が先ではないか!」と国会内外で問題視され、急きょ待機児童対策にも約三〇〇〇億円が使われるという。「待機児童問題」は「少子化」と直結している「最重要問題」であることは、だれもが知るところである。
その「待機児童問題」の一番のネックとなっているのが、保育士不足だ。三二万人分の受け皿を確保するには、さらに七万七〇〇〇人の保育士が必要となる。これまでの政府の待機児童解消政策は、保育士の人数基準を緩和する政策で、企業内保育所などでは保育士の資格がある人は、全職員の半数でよしと改悪した。
この数年、民間施設での乳児の死亡事故が多発しており、防止のために午睡中の○歳児は五分おきに、一・二歳児は一○分おきに呼吸を確認しなくてはならないという。保育士の仕事の密度と緊張度は、尋常ではない。
また、保育士の平均賃金はというと、一六年度は額面・月二二万三〇〇〇円で全産業平均より一一万円も低い。政府は保育士の労働条件改善のために、三○○億円~四〇〇億円程度の予算を組むというが、確実に一人一人の保育士に配分されるという確証はない。
安倍政権は人口減少がすすむなか、女性を活用することを成長戦略の目玉として位置づけた。そして、女性も男性並みの残業ありで、長時間労働が当たり前となっていった。
また、女性労働者の約七割は非正規労働者で賃金が低いため、ダブル・トリプルで働いている者も多い。その結果、保護者からの保育要求は多種多様となり、午後六時以降の「延長保育」は当たり前だ。仕事と子育ての両立は、結局は個人の頑張り次第「自助努力」で乗り切ることを強いられている。
戦後、労組も働く母親も保育所設置のために必死に運動した。社会保障は、労働者の当然の権利であり果敢に勝ち取ってきた成果であることはすっかり過去のこととされてしまった。昨年の「保育園落ちた。日本死ね。」のブログが、働く母親世代の共感を呼んだばかりでなく、大きな関心事になった。安倍政権は、このようなネットの動向によって選挙民が影響を受けることを警戒する。ひとり親、高齢者、子育て世帯など福祉が必要な世帯の大きな不満の解消のために、支援や教育費用負担など時々の情勢に応じて行き当たりばったりの政策をとるしかない。軍事優先政策の遂行のためには、いかにごまかし、微妙にバランスをとりながら福祉削減を行なうか、それが安倍政権の延命策だ。
軍事費を削減させ、労働者の連帯をとりもどすことがない限り、保育労働者の権利が守られ、働く母親が安心でき、十分な設備・保育内容の環境は実現しない。社会全体が子どもと働く者にとって何が必要なのか真剣に見定めるしかない。 【村上理恵子】
(『思想運動』1012号 2017年12月1日号)
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