朝鮮敵視政策との闘いは最重要の試金石
総選挙後の政治状況と労働者人民の闘い


改憲攻撃を加速させる安倍政権

 十一月六日 防衛省沖縄防衛局は、辺野古沖の二か所で新たな護岸工事を開始した。同じ日、東京では日米首脳会談が行なわれており、この日の工事強行には、辺野古の新基地建設を「唯一の解決策」とする日米合意を〝日本側はしっかりと進めていますよ〟とトランプにアピールするねらいがあったろう。
 十一月八日 自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)は、週明け(十三日の週)から憲法「改正」をめぐる党内論議を再開することを決めた。年内にも改憲素案をとりまとめ、来年の通常国会での発議をめざす構えだ。
 十一月十日 文部科学省は、学校法人「加計学園」が運営する岡山理大の獣医学部新設を「可」とする答申を行なった。この間追及されてきた数々の疑念がまったく払拭されていない中での認可強行である。
 十一月十日 自民党の森山国会対策委員長は、国会の委員会における与野党の質問時間の配分を「2対8」から「5対5」に変更するように要求。野党は議会制民主主義に反すると強く反発している。
 十一月十一日 朝鮮半島近海で、「ロナルド・レーガン」「セオドア・ルーズベルト」「ニミッツ」の三隻の米空母、イージス艦一一隻などが参加する合同軍事演習がはじまり、韓国軍とともに、海上自衛隊の「いせ」など三隻の護衛艦と戦闘機が加わった。空母三隻の同時投入は一〇年ぶりできわめて異例という。朝鮮に対するあからさまな軍事的挑発である。朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は、この演習を「軍事的脅威による恐喝」だときびしく非難した。
 以上は、ここ数日間の出来事の中から、総選挙後の政治状況を象徴的に示していると思われる事例を抜き出したものだ。そこには、衆院選の「大勝」をバネに改憲と戦争国家化の歩みをより加速させている安倍政権の傲慢で強権的な姿勢が現われている。

民進党の解党劇をめぐって

 十月二十二日投開票の衆議院選挙は、自公で三一三議席(自民二八四・公明二九)を占有、全議席の三分の二(三一〇)以上を確保する与党の「大勝」に終わった。立憲民主が五五議席で野党第一党となった。他の党の議席は、希望五〇、共産一二、維新一一、社民二、無所属二二であった。
 しかし、選挙結果を、得票率でみると、自民の小選挙区の得票率は四八%、比例代表の全国得票率は三三・三%(全有権者数にしめる得票数の割合を示す絶対得票率だとわずか一七%)にすぎない。有権者の自民党への支持は獲得議席に現われた数字よりはるかに低いことがわかる。実際、「モリカケ」疑惑等の逆風もあり、選挙直前の各種世論調査では、内閣不支持が支持を上回る結果が出ていた。にもかかわらず自民が全体の六二%もの議席を確保し「大勝」できた大きな要因は、大政党に有利に働く小選挙区制度の弊害と野党の分裂・混乱があったからである。
 選挙前の九月二十六日に、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)は、数年来の戦争法や共謀罪反対運動での共闘の蓄積を踏まえて、野党四党(民進・共産・社民・自由)と市民運動との協力の必要性と七項目の基本政策(安倍政権が進める改憲反対、秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回、原発再稼働を認めず原発ゼロ実現を目指す、「働き方改革」反対など)を内容とする要望書を四党の幹事長・書記局長に提出し、基本的な合意がなされた。しかしその直後に民進党代表の前原が民進党の解党・希望の党への合流に走ったことで、これまでの四野党と市民の共闘は崩壊した。この政変劇は、直接的には前原と小池、そして連合の神津が主導したが、そこには野党共闘の破壊と護憲勢力の国会からの駆逐・一掃を望む日本会議などに代表される改憲派総体の意思が反映されていただろう。これによって、それまではまがりなりにも先の七項目の線を守り一体となって野党共闘の中軸を担ってきた民進党は解体させられ、右派部分が希望の党に吸収されることで、国会内の改憲勢力の全体的な伸張を許すことになった。自民・公明・希望・維新を合わせた改憲派の議席は全議席の八割を超えた。
 一方で、民進党内の合流路線に反対し野党共闘の堅持を志向する勢力が立憲民主党を結成、小池の露骨な「排除」発言を嫌悪した世論の支持を獲得し、安倍政権への批判票、無党派層の票を取り込んで躍進し、野党第一党に躍り出た。立憲民主、共産、社民の野党三党と市民運動との共闘態勢も維持された。選挙戦では、共産が全国六七の小選挙区で独自候補者を取り下げるなどの選挙協力が行なわれ、北海道では、一二選挙区のうち五選挙区で、新潟では、六選挙区のうち三選挙区で、野党統一候補が自民党候補に勝利するなどの成果があった。
 沖縄では、四選挙区のうち、「オール沖縄」の候補が三選挙区で勝利した。これらの地域は、反基地闘争が強固に展開されている沖縄はもちろん、TPP反対運動(北海道)、あるいは原発再稼働反対運動(新潟)といった大衆的な闘いの基盤とそれに根差した共闘態勢が従来からできていた地域である。
 立憲民主党の主要メンバーは、枝野自身が「リベラルだと言われるが自分は保守だ」「安倍改憲には反対だが護憲派ではない」と語っているとおり、本来的には改憲を志向する勢力であるし、独占資本の支配を前提として思考・行動する人びとだ。一例をあげれば、辺野古の新基地建設に関して、この党は、「ゼロベース」だとしていまだ基地建設反対の立場に立ってはいない。そうしたスタンスにもかかわらず、かれらが野党共闘と七項目のラインに踏みとどまったのは、戦後一貫して闘われてきた反戦平和・護憲の運動の蓄積とそのなかで培われた力がそうさせたからだ。しかし逆に言えば、運動が弱まり世論が右傾化すれば、かれらは権力の側に引っ張られる可能性もある。
 われわれは、安倍政権が遮二無二進める改憲攻撃を阻止するために幅広い勢力の結集をめざすという観点から、三野党と市民運動との共闘を支持する。だが、従来から主張しているとおり、選挙闘争や院内での野党の抵抗、国会周辺の街頭行動中心の運動では限界がある。職場生産点や学園、各地域における、広範な大衆的討議と意思統一にもとづく運動を再構築することが絶対に不可欠だ。そして、その闘いの先頭に労働者・労働組合が立つことが肝要である。さらに、日本国憲法が掲げる理念、世界平和を実現し労働者人民の諸権利を守り発展させるためには、資本主義体制を打倒し新しい社会を創り出す理論と組織をそなえた運動が展望されねばならない。

自民「大勝」のもう一つの要因

 自民党が選挙で「大勝」したもう一つの重要な要因は、麻生がいみじくも「自民の勝利は明らかに北朝鮮のおかげ」と語ったように、安倍政権が「北朝鮮の軍事的脅威」をヒステリックに煽り、みずからの支持率アップにつなげたことである。長年にわたる朝鮮敵視政策の展開によって、日本人民の間には、このような虚偽宣伝がまったく無批判に受け入れられる土壌ができあがっている。米朝間の緊張が高まっていたこの時期、安倍は「北朝鮮の脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜く」「そのためには安定した政権が必要」との宣伝文句を非常に効果的に使った。
 野党の側も朝鮮敵視政策に完全に取り込まれている。朝鮮のロケット発射訓練が行なわれるたびに、国会は与野党全会一致で非難決議をあげてきた。日本共産党は、「対話による平和的解決」を口にはするものの、六か国協議を含む朝米間の交渉の過程で対話の道を閉ざしたのは米帝国主義の側ではなく朝鮮の側だとの間違った認識に立っている。
 また「経済制裁」は行なうべきだとしている。対朝鮮「制裁」については、国連のキンタナ特別報告者が十月二十六日に行なった講演の中で「生命に関わる経済分野に打撃を与え、人権状況に影響が出ている」とその否定的影響に警鐘を鳴らしているが、共産党はこうした指摘をどう考えるのか。
 先の日米首脳会談は、安倍が朝鮮に対する軍事力行使も選択肢の一つとするトランプの立場を支持し、両国が「圧力を最大限に高める」ことを確認した、非常に危険な弾劾すべき内容の会談だった。だが、この会談について、十一月六日、立憲民主党の福山幹事長は、「北朝鮮情勢が緊迫している中で、日米の首脳が緊密に話し合いをしたことについては率直に評価したい」「圧力を高めることについては一定評価する」との許しがたい談話を発表した。
 朝鮮敵視という点では、国会内はすでに大政翼賛会的な体制ができあがっている。冒頭で、米空母三隻と日韓の艦船の軍事演習の例をあげたが、米日韓による戦争挑発行為はますますエスカレートし、今後も軍事的緊張は続くだろう。安倍たちはそうした状況を最大限利用する。朝鮮敵視政策との闘いは、安倍政権との闘い、改憲阻止の闘いにおける最重要の試金石なのだ。 【大山 歩】

(『思想運動』1011号 2017年11月15日号