郵政――労働契約法二〇条裁判
東京地裁で一部勝訴、有給の病休を認めさせる!


 九月十四日、郵政東日本労働契約法二〇条裁判の判決が東京地裁で出された。郵政ユニオン組合員であり日本郵便で働く三人の時給制期間雇用労働者が正規雇用との格差は不当と訴えていたのだ。原告が求めた各種手当未払い分の支払い計約一五〇〇万円に対して、判決はその一部、九二万六八〇〇円の損害賠償を会社に命じた。また、これまで有給の病休および夏期冬期休暇が非正規になかったのは不当とした。ことに病休を認めたのは、病気や怪我が長期化することによる雇止めの不安を除去するものであって画期的だ。郵政ユニオンが総力を挙げて取り組み、正規労働者が証人として法廷に立つなど、正規と非正規が協働した闘いであることも貴重。同時に、勝訴が一部にとどまったのには、カッコづきでしかない「同一労働同一賃金」政府指針が判決には意識されていたことが窺われる。日本郵便は判決の翌日に控訴、原告側も控訴する方針である。

各種手当ては基本賃金に準ずるもの

 判決は原告の三人が正社員と同じ地位であることを確認するよう求めた点については請求を棄却。労働契約法二〇条について「契約社員と正社員の賃金制度に一定の違いがあることまでは否定していない」として、待遇の格差が不合理かどうかは仕事内容や責任の程度、転勤の有無などを総合的に考慮すべきだと述べた。
 その上で、年末年始勤務手当について正規雇用の八割、賃貸住宅に住む住居手当は同六割を支払うべきだとした。外務業務・早出勤務等・夜間特別勤務・業績精通の各手当、それに夏季年末手当(賞与)と祝日給は支払いを認めなかった。

労契法二〇条をめぐって

 郵政の各種手当は、旧全逓がまだ闘争力を持っていた時代にそれを背景として、しかし基本給化まではできず手当という名目で積み上げてきたという経緯がある。つまり基本賃金に準ずるものだ。判決はそこにはほとんど踏み込まず、賃金格差を是正するものとは言えない。
 原告が武器とした労働契約法二〇条は、一八条(有期雇用労働者は契約の反復更新が五年に達すれば無期雇用への転換権を持つ)、一九条(雇止め法理の法定化)とともに二〇一二年に労契法に新たに書き加えられた条項である(施行は二〇一三年から)。この改正は何か当時の民主党中心政権の性格の映し絵のようなところがある。あの政権は、前後の自民党政権よりは働く者の側に立つという建前であったはずなのに、その本気度となると曖昧模糊としていたからだ。この改正も立法趣旨は正規と非正規の格差是正にあった。しかし、その実際の規制力は頼りなく、使用者は目を凝らして抜け道を探し出そうとする。
 たとえば二〇条の字面が「期間の定めのない労働契約」「有期労働契約」と表記してあるのをわたしたちは正規・非正規と読み替えてきた。拡大解釈ではない。立法趣旨がそうである。正規雇用と非正規雇用という概念区分は法律で線引きされているわけではないので、立法化するときはこう表現しておく他なかったのである。
 しかし、では一八条によって「無期に転換した」非正規雇用労働者が出現してくると、どういうことになるか。場合によっては、無期転換非正規雇用と有期非正規雇用との間の「格差は不合理」という枠内に二〇条は立法の趣旨に背いて矮小化されてしまう懼れなしとしない。郵政ではすでに一八条の発効を一年半前倒しして無期転換非正規(アソシエーション社員)が生まれ出している。このアソシエーション社員が登用試験という選別を経ていずれ一般職を構成していくこととなろう。時間差を持ちつつアソシエーション社員と一般職は重なっていく。
 一般職の賃金は低いから、そこに合わせれば「同一賃金」を安く上げることができるし、正規雇用だから二〇条の潜脱・矮小化という批判をかわせるという算段だろうか。それを許さぬ運動を作ることが法廷での取り組みとともに重要になってくる。闘いはこれからだ。【土田宏樹】

(『思想運動』1009号 2017年10月1日号)