自主なくして平和はない
日本人民は朝鮮の声に耳を傾け日米韓の戦争挑発に楔をうつ闘いに起とう!
八月二十九日早朝に朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が発射した中長距離弾道ロケット(朝鮮はミサイルとは呼称していない)で、日本国内は安倍政権とメディアによって一大騒動が演出されている。
「発射直後からミサイルの動きは完全に把握していた」(首相安倍)と言いながら、Jアラートをロケット通過地点であった北海道から遠く離れた東北地方南部や関東地方北部、信越地方にまで押し広げ、意図的に危機を煽り立てた。これにより、新幹線や在来線は一時運行を停止し、休校措置や授業時間を遅らせた学校が北海道、青森のほかに、宮城、福島など各道県に及んだ。二十九日、国連安保理は日米韓によって持ち込まれたこの事案に対し、全会一致で「対北朝鮮非難」の議長声明を採択。さらに三十日、国会は「モリ・カケ」事件ではあれほど嫌がっていた閉会中審査を今度は自民党もいそしんで開催し、衆参委員会全会一致で「対北朝鮮抗議決議」を採決した。
そしていま、日本国内では侮蔑したように「北朝鮮」という言葉が飛び交っている。
朝鮮の主張を知る
はたして朝鮮は「挑発」を繰り返しているのか? 「何をしでかすかわからない国」なのか? わたしは断じて否と言う。なぜか? まずは安倍政権やマスメディアが垂れ流す「北朝鮮情報」に眉につばをつけ、朝鮮が何を主張しているのかに直接目を向け、耳を傾けてみたい。
今回の弾道ロケット発射について朝鮮は、度重なる警告を無視して数万人の米韓軍、官民数十万人を動員する米韓合同軍事演習ウルチ・フリーダム・ガーディアン(UFG)を強行したことにあると主張する。米韓大規模軍事演習キー・リゾルブとフォール・イーグルに加え、このUFGも「作戦計画5015」を適用して、有事の際の朝鮮の指揮部、核、ミサイル施設を先制攻撃する状況を仮想して訓練を行なうなど、公然と体制転覆、指揮部斬首作戦などを演習し、その攻撃性を切れ目なく強化してきたからだ。
八月三十日、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は「本社政治報道班」の署名がついた文書で《世界が周知するように、朝鮮人民軍戦略軍の中長距離戦略弾道ロケット発射訓練は、重大な意味と重みが込められたわれわれの警告に挑戦し、ついに強行されている「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」合同軍事演習に備えた対応武力示威の一環として進行された》と指摘し、《最高指導者・金正恩同志》の言葉を紹介するかたちで、《今回の弾道ロケット発射訓練は、わが軍隊が行なった太平洋上での軍事作戦の第一歩で、侵略の前哨基地グアム島を牽制するための意味深長な前奏曲となる》と明らかにした。そして発射日を二十九日とした理由を、《朝鮮人民軍戦略軍の全将兵は、一〇七年前の「韓日合併」という恥辱的な条約が公布された血の八月二十九日に、残忍で悪らつな日本島国種族たちがびっくり仰天する大胆な作戦を展開し、首都圏地域から弾道ロケットを発射》したと明らかにした。
すでに八月八日の朝鮮人民軍戦略軍スポークスマン声明で、《朝鮮人民軍戦略軍は、時を選ばず南朝鮮上空に飛び込んで、われわれを刺激し威嚇恐喝している米帝の核戦略爆撃機が巣食っているアンダーセン空軍基地を含むグアム島の主要軍事基地を制圧牽制し、米国に厳重な警告信号を送るために、中長距離戦略弾道ロケット「火星‐12」型でグアム島周辺に対する包囲射撃を断行するための作戦方案を慎重に検討している》と明らかにし、翌九日には朝鮮人民軍戦略軍司令官・金洛兼大将が、《われわれが発射する中長距離戦略弾道ロケット「火星‐12」型は、日本の島根県、広島県、高知県上空を通過することになりながら、飛距離三三五六・七kmを一〇六五秒間飛行した後に、グアム島周辺三〇~四〇km の海上水域に着弾することになるだろう》と明らかにしたことがある。
グアムと北海道
なぜ、グアム島なのか? それはすでに朝鮮側主張で明らかなように、グアム島にあるアンダーセン空軍基地から「死の黒鳥」と呼ばれる核爆弾搭載可能な戦略爆撃機B‐1B、B‐52が米韓合同軍事演習の度に飛来し(中継点の日本上空では航空自衛隊戦闘機F‐2やF‐15が幾度も共同訓練も行なっている)、朝鮮を威嚇しているからである。ではなぜ、今回は北海道上空だったのか? UFGの期間と重なる八月十日から二十八日まで、北海道で行なわれた日米合同軍事演習「ノーザン・ヴァイパー」では、沖縄からオスプレイと米海兵隊、そして陸上自衛隊を投入して史上最大規模の軍事演習が行なわれた。日本では、八月五日のオーストラリア沖で墜落事故を起こしたオスプレイの投入に抗議の声が挙げられたが、この日米合同軍事演習を朝鮮はどのように見たのか?朝鮮の祖国平和統一委員会が運営するインターネットTV『ウリミンジョクキリ(わが民族同士)TV』では、在中国の朝鮮人が書いた文書「北侵を弄ぶ米日間の露骨な結託」を取り上げ、次のように紹介した。《米国は南朝鮮でかれらが繰り広げている「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」合同軍事演習でも足りずに、日本と結託してふたたび軍事演習を繰り広げている。米国と日本が繰り広げている戦争演習は、だれが見ても明白な対朝鮮侵略野望の発露であり、ただでさえ尖鋭な朝鮮半島と地域情勢を一触即発の核戦争局面へと追い立てる危険千万な軍事的妄動に他ならない》と。
つまり、朝鮮は日米韓が一体となって切れ目なく侵略攻撃を仕掛けてきていると受け止めているのだ。その歴史的根源を、同じ『ウリミンジョクキリ』に掲載された八月二十五日付論評「民族の一〇〇年宿敵どもの不純な野合」では、日露戦争中の一九〇五年七月に日米間で取り交わした「桂=タフト協定」に求め、一〇〇年にわたって朝鮮侵略攻撃が継続されていると主張している。つまり、一〇〇年以上の歴史に遡って現在の朝鮮半島をめぐる情勢を見抜く視点が強調されているのだ。
冒頭で指摘した「挑発を繰り返し、何をしでかすかわからない」のは朝鮮の側ではなく、朝鮮を侵略支配しようと企む日米韓の側であり、朝鮮は自主・自決の旗幟を掲げてそれと断固として闘っているのである。
われわれの態度
それでは、こうした状況を許している日本帝国主義足下のわれわれが取るべき態度はどうあるべきか? それは安倍政権の扇動に踊らされて「圧力」を高める道をとるのではなく、また「米朝のチキンレース」論や「どっちもどっち」論のうえに立つのでもなく、はっきりと自国帝国主義が朝鮮侵略に乗り出している事実を自覚し、これと闘うことがわれわれ日本の労働者階級が取る正しい道である。
「自主なくして平和はない」――これは、さる八月十五日、七二年目の解放記念日(光復節)を迎えた韓国ソウルで民主労総が主催した「二〇一七年光復七二周年8・15全国労働者大会」の闘争決議文に記された言葉だ。この決議文で「民族があい争う戦争を断固として拒否する」と参加した労働者たちは誓った。そして、この労働者大会後に開かれた「8・15汎国民平和行動」には、どしゃ降りの雨をついて一万余の労働者人民が集まり、UFG中断、サード配備反対、「日韓慰安婦合意」破棄などを叫びながら駐韓米大使館前にむかってデモ行進を繰り広げた。日本でも在日団体や心ある日本人民が駐日米大使館や国会周辺で戦争反対の行動を起こしている。日本の朝鮮侵略の歴史と現状がもつ犯罪性、そして朝鮮の自主・自決のもつ歴史的重みをしっかりと考え抜き、この「朝鮮敵視」状況に立ち向かっていこう。 【土松克典】
(『思想運動』1007号 2017年9月1日号)
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