<労働運動時評>労働法制改悪攻撃に屈するな!
高度プロフェッショナル制度・裁量労働制拡大に反対しよう!
連合「容認」の顛末
高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の創設と企画業務型裁量労働制の対象業務拡大をねらう労働基準法改悪案は、二〇一五年四月に国会に提出されたものの、労働三団体をはじめとする反対運動と、安倍政権が戦争法、共謀罪法等の強行を優先した事情から、二年以上にわたり審議入りできないままだった。ところが、七月上旬、日本労働組合総連合会(連合)事務局は突如、この改悪労基法案を条件つきで容認する動きを見せた。
厚労相の諮問を受けた労働政策審議会は、すでに六月五日に「時間外労働の上限規制等について」の建議を提出済みだ。本来なら、建議をふまえた法案を改悪労基法案とは別に国会に提出すればよいはずだが、安倍政権は「時間外労働の上限規制は高度プロフェッショナル制度等の導入を前提条件に」という独占の意を体して、棚上げされている改悪労基法案と新たな上限規制を一本化し、秋の臨時国会での一括審議、成立をねらっている。「圧倒的多数の与党によって、現在提案されている内容で成立してしまう」「実を取るための次善の策」というのが、七月十三日の神津連合会長の説明だった。
労働時間に絶対的な上限時間規制を導入することは日本の労働法制上たしかに画期的だ。しかし、働き方改革実現会議を舞台とした「政労使合意」は大衆運動を伴わない密室でのボス交に過ぎず、だからこそ過労死ラインをはるかに上回る、資本にとって痛くもかゆくもない上限「一〇〇時間未満」を連合は呑まされたのだった。そして今回は、上限規制を「人質」に、高度プロフェッショナル制度創設と裁量労働制拡大を呑まされる瀬戸際だった。
先行する裁量労働拡大の現場
とりわけ、裁量労働制の対象業務拡大は、時間外労働の上限規制が強化されたとしてもそれを無効化し、企業を時間規制のしばりから解放する。
損保最大手の損保ジャパン日本興亜では、一万八〇〇〇人の職員のうち、一般営業職や保険金サービス職員六〇〇〇人に「代理店に対する企画、販売のプランニングだから企画型の裁量労働だ」と詭弁を弄して裁量労働制を適用していた。改悪労基法案の先取りである。もちろん現行労基法に違反しており、国会で指摘、追及され、十月からは撤回するという(八月一日付『しんぶん赤旗』)。改悪労基法案が成立すれば、直ちに復活・拡大する腹づもりに違いない。
トヨタ自動車では現在の一七〇〇人から七八〇〇人に対象を拡大する動きがある(八月二日付『日本経済新聞』)。
わずかばかりの健康確保措置を講じることで労働時間規制から逃れることができ、残業代ゼロ、あるいは固定残業代による総額人件費削減の恩恵をこうむることができる労基法改悪を、政府・独占は今度こそ成し遂げたいのだ。
「一本化」法案の虚偽をあばけ
しかし、連合事務局の方針転換に対して傘下の産別・地方組織や過労死遺族の団体、連合内外から強い批判が上がった。その結果、七月二十七日の連合中央執行委員会で容認方針が撤回されたのは各種メディアの報道のとおりである。
『日経』は連合の容認方針の撤回を非難して居丈高にこう述べた。「連合が脱時間給の制度設計などの修正合意を撤回し、労基法の改正作業が進みにくくなったことは、働く人のためにもならない」「単純に時間に比例して賃金を払うよりも、成果や実績に応じた処遇制度が強い企業をつくることは明らかだ。企業の競争力が落ちれば従業員全体も不幸になる」「誰のための連合か」(七月二十八日付編集委員署名記事)。虚偽イデオロギーも極まる、と言わねばならない。
事態を正当にとらえたのは『信濃毎日新聞』だ。「政府は上限設定を『人質』にして、高度プロフェッショナル制度の容認を連合に迫った。『安倍一強』の国会情勢を背景に、『清濁併せのむ』ことを迫る政府のやり方には問題がある」(七月二十八日付社説)「働き方の改革は、不満と不安を募らせている労働者と家族の要請だ。『できるものならパーにしてみろ』と言い返せばいい」(七月十五日付社説)
われわれは後者の立場に立つ。そもそも労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度・裁量労働制拡大(=規制緩和)と、罰則付きの時間外労働時間の上限規制(=規制強化)とはまったく相反する立法だ。「清濁」どころか水と油だ。法案として一本化すること自体が不当なのだ。今後は、秋の臨時国会に向けて、法案の取扱いを労政審の場で議論することになろう。一本化に反対し、改悪労基法案の撤回、廃案をめざして闘おう。
多岐にわたる労働法制改悪攻撃
安倍政権の掲げる他の課題を見ておこう。
同一労働同一賃金については、四月から労政審の三分科会で検討が行なわれ、六月九日に建議が出された。今後、厚労省においてパートタイム労働法、労働契約法及び労働者派遣法の三法を一括改正する改正法案要綱がまとめられ、再度、労政審の審議を経た後、臨時国会に法案が提出される。二〇一七年度中の改正、二〇一八年度からの施行をめざし急ピッチで進行している。しかしその中身は、企業横断的な同一労働同一賃金ではなく、労働者間競争をあおる査定つきの職能給制度は維持しつつ、基本給と一部の手当について同一待遇とすれば、水準に格差があってもかまわない、そういう制度設計になっている。企業に説明責任は課したが、裁判での立証責任は免じた。真の格差是正にはつながらない。
解雇の金銭解決制度は、厚労省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が約一年半、二〇回にわたって開催、検討され、五月三十一日に報告書が出された。論点は多岐にわたり、委員のコンセンサスが得られたとは言えないが、報告では「さらに法技術的な論点についての専門的な検討を加える」とされた。安倍政権の『日本再興戦略改訂二〇一五』で閣議決定された内容であり、反対意見を押し切っても実現をめざしてくるであろう。引き続き注視し、形になる前につぶしていく取り組みが必要だ。
その基礎として、以上に見てきたような労基法改悪の中身について、職場や組合で積極的かつ批判的に話題にしていくことが必要だ。そうした日々の運動を基礎に、八月十九日に日本労働弁護団の呼びかけている「労働法制改悪阻止 八・一九国会議員会館前行動」に首都圏の労働者、労働組合は全力で結集しよう。
ナショナルセンター、産別組織を超えた労働法制改悪阻止の闘いに起とう!【吉良 寛・自治体労働者】
(『思想運動』1006号 2017年8月1日-15日号)
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