東京都議選の結果をめぐって
「安倍ヤメロ!」の声を真に実現させるために
ポピュリズムに打ちかつ大衆的政治闘争を!


自民惨敗を喜ぶだけでよいのか

 今回の都議選で、都議会最大会派の自民党が、五七議席から二三議席へと歴史的大敗を喫した。大敗の要因については、多角的な分析が必要だが、直接的には、この間の、森友学園・加計学園への安倍首相関与問題、稲田防衛相の「防衛庁、自衛隊も応援」の違憲発言、下村都連会長の政治献金疑惑、自民党国会議員の一連の暴言やスキャンダルに現われた安倍政権の無法・傲慢でデタラメきわまる有り様への大衆の不信・反感が、マスメディアのネガティブキャンペーンも手伝って、自民大敗をもたらした。
 加えて、長年自民党が都政を私物化し、ゼネコンと癒着し、ハコモノ行政を推進し、徹底的に福祉を切り捨ててきたこと、日本最大の土壌汚染地である豊洲東京ガス跡地に築地市場の移転を進めてきたこと、さらに国政レベルでの安倍政権の暴走政治、とりわけこの数年来、特定秘密保護法、安保関連法(戦争法)、共謀罪法を強権的に押し通したことへの批判・反発も反自民の投票行動に影響を与えた(都民ファーストの会は、選挙期間中、改憲問題などの国政の問題には一貫してダンマリをきめ込んだ)。
 しかしその自民批判票は、そのほとんどが小池都知事率いる都民ファーストの会に流れ、追加公認六人を合わせて六議席から一挙に五五議席を獲得し、自民党に代わって第一党にのし上がった。また都議会自民党と決別し小池と連携した公明党は、一議席増の二三議席を獲得。結果、小池与党は、過半数(六四議席)を大きくこえて七九議席となった。
 本来、反自民・改憲反対(民進党は安倍政権下での 改憲には反対のスタンスだが)の受け皿となるべき勢力は、共産党が二議席増で一九議席だったが、民進党五議席(前回は民主党で一五議席、うち八人は選挙前に離党し、都民ファーストの会の推薦で立候補)、生活者ネット一議席(前回三議席)、社民党〇議席(前回〇議席)と、共産党以外は軒並み壊滅的敗北であった。
 韓国の朴槿恵政権打倒の闘いのように下からの大衆運動で東京都の政治の流れが変わったのではない。有権者は「守旧派の自民党VS改革派の都民ファースト」という演出の「小池劇場」の観客として〝目新しい〟方に投票させられただけである。
 今回の都議選は「改憲勢力と護憲勢力の闘い」という視点からみれば、完全な敗北であった。自民党および安倍政権に対する都民の批判票が、護憲勢力にではなく、右翼改憲論者が中枢を担い資本家階級の利益をストレートに代弁する都民ファーストの会に流れたのだから、われわれは自民惨敗を喜んでばかりはいられないのである。
 政治家小池百合子は、日本会議・国会議員懇談会の元副会長であり、思想的には右翼改憲論者であり、核武装論者であることは、過去の言動からして明らかである。

国政進出を目論む都民ファースト

 小池知事と都民ファーストの会は、当面は都政に専念すると言っているが、年末ごろまでには、大阪維新の会が行なったように、「国民ファーストの会」といった国政政党を立ち上げる可能性は大である。すでに(共産党との野党共闘に反対した改憲派の)民進党離党者や旧みんなの党、維新の会系の国会議員、河村名古屋市長の「減税日本」などが、来る衆議院選挙をにらみながら小池人気にあやかって、結集しはじめている。かれらが保守二大政党制をめざして、新自由主義の推進、規制緩和、中国・朝鮮攻撃、日米同盟強化などでは自民党と歩調をあわせ、民進党の解体をも目論みながら右からの政界再編を実現させ改憲のイニシアチブを握ろうとしていることは、十分に推測できる。昨年九月八日、小池は政府と都主催の拉致問題を啓発する集会で、石原慎太郎都知事時代からの「朝鮮学校への補助金支給停止」を継続し、拉致問題での安倍政権との連携を訴えた。さらには都のHPから削除されていた朝鮮学校が朝鮮総聯の強い影響下にあると結論づけた都調査報告書を、職員に指示しわざわざ復活させた。
 一方、都民ファーストの会の新しい代表であり、小池都知事の特別秘書(政策担当)である野田数は、石原元都知事が尖閣諸島の購入を表明した際に、積極的に活動に参加し、尖閣諸島に不法上陸を試みたり、朝鮮学校補助金問題や日本軍「慰安婦」問題でも差別排外主義的言辞を弄し、都議会では「日本国憲法は占領憲法で、国民主権という傲慢な思想を直ちに放棄すべきだ」と主張、天皇制にもとづく大日本帝国憲法の復活の請願を提出するなど、安倍に勝るとも劣らぬウルトラ右翼だ。
 また、小池都政の政策ブレインとして大阪維新の会が支配する大阪府・市で、公共事業の徹底した民営化、市場原理主義政策の導入を指導した上山信一が抜擢されている。大阪同様に弱者・貧困層への福祉政策の切り捨て、「日の丸・君が代」強制などの反動政策の推進も十分想定できる。

安倍政権打倒・改憲阻止の運動を!

 今回の都議選では、いくつかの地域で、市民&野党統一候補を押し出す動きがあった。
 とくに新社会党や自由党は、積極的に護憲派の野党候補を応援した。こうした地域は、日頃から改憲反対、反原発や地域の課題等での共闘があり、政治家や活動家同士の交流、信頼関係を構築してきた地域であった。その結果、共産党の二議席増や生活者ネットの議席の存続等が成し遂げられたものの、その多くが小池&都民ファースト旋風に吹き飛ばされて惜敗、次点等に甘んじる地域が多かった。
 それだけに、今次選挙の敗北についてはより根本的な総括が必要だ。つまるところそれは、ブルジョワ議会主義の枠内での選挙闘争だけではダメだということだ。それぞれの職場生産点、学園、地域において労働者人民の確固とした大衆的闘いの基盤をつくり上げること、そうした現場で日常不断に政治討議を組織すること。それがない限り、つまり広範で強力な大衆運動(大衆的政治討議の場)が存在しない限り、選挙闘争は支配階級によるポピュリズム的愚民化政策に容易に呑み込まれてしまう。今回の都議選もそのことをはっきりと示した。
 都議選の惨敗にもかかわらず、安倍政権は、自衛隊を軍隊と位置付ける改憲案を年内に憲法審査会に提案し、来年の通常国会で発議、二〇二〇年に施行というスケジュールを予定通り進めようとしている。今次選挙でも改憲派優勢の構造に変化がなかったことを安倍たちは十分に理解しているのだ。
 支配階級は、改憲を達成するために、自民党と小池たちとを組ませようと画策するだろうし、小池の人気がこのまま持続すれば、支持率が低迷しつある安倍政権の受け皿として、担ぎ上げることも辞さないであろう。支配階級は、みずからの政治的危機を乗り越えるため、たえず新しい装いをもって別動隊を登場させ、人民の不満や怒りを吸い上げながら体制を補完・維持しようとするのである。
 自民党敗北の背景に、安倍政権がこれまで進めてきた反動的な政治・経済政策に対する労働者人民の不信・不満があることは確かである。この状況を、安倍政権の存続を許し改憲を加速させる方向に進ませるのか、安倍政権を打ち倒し改憲を押しとどめる方向にむかわせるかは、われわれのこれからの闘い次第である。いまこそ労働者・労働組合が軸となって、矛盾百出の安倍政権に対する大衆的反撃を組織しよう!  【大橋省三】

(『思想運動』1005号 2017年7月15日号)