「反対派」の切り崩し狙う憲法九条加憲
戦争否定・戦力不保持が歴史の教訓


無思想さらけ出す安倍の憲法改悪論

 安倍晋三は五月三日、『読売新聞』との単独インタビューで、また「日本会議」が事務局を務める「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の集会にビデオメッセージを送り、「(東京五輪・パラリンピックがひらかれる)二〇二〇年を新しい憲法が施行される年にしたい」と期限まで決めて明文改憲を公言した。「共謀罪」のときも「オリンピックの成功のためには不可欠」という脅し文句を使って国民のたぶらかしに「成功」したから、改憲とは無関係なのに、「なんとかオリンピックを成功させたい」「日本を勝たせたい」という大衆心理を刺激すれば、今度もこれでいける、とタカをくくったのだろう。
 その内容は現行九条には手をつけずそのまま残し、これに加えて、新たに自衛隊の存在を明記した項目を追加するというもの。二〇一二年の「自民党改憲草案」の憲法九条②の削除、「国防軍」の創設から一転、おおかたの想定の裏をかく「奇策」とも呼べるものであった。ここには、国民の九〇%、ないし九五%が自衛隊を「容認」しているという現状を見こして、改憲「反対派」に、「九条は残しましたよ。ところで皆さん。皆さんは圧倒的多数の国民が認めている自衛隊をどうするのですか」と切り返し、野党共闘、そして改憲反対運動の分断を図ろうという意図がみえみえだ。
 安倍はしてやったりと思ったかもしれない。しかしここで安倍は、自らの改憲への「哲学」、「信念」、「歴史観」の無さ、つまりいい加減さをはっきりと告白してしまったのだ。
 その後の安倍の発言や自民党の憲法改正推進本部の動きを見ると、高等教育無償化や緊急事態条項、参議院「合区」解消も検討する方向だ。安倍は六月二十七日の神戸「正論」懇話会設立記念特別講演会で、秋の臨時国会で「憲法審査会に自民党の案を提起したい」とも表明している。改憲案は年内にも提出し、早ければ来年十月に国民投票にかけるという報道もある。
 これまでも安倍政権は何度も改憲スケジュールを組んだがうまくいっていない。それには反対運動と世論の力がある。しかしその要因は安倍らの前のめりすぎる思想なき改憲姿勢、いく多の失政・失策、閣僚らの不祥事、デタラメ発言等々で支持率が落ち、改憲成功への自信に揺らぎが出たからである。国民投票で失敗すると後がないわけだから、安倍らは自分たちが絶対勝てると思える内容で、自分たちが絶対勝てると判断したときに、改憲発議をやるのだ。いまは各紙報道機関の世論調査では、森友問題、加計問題、「共謀罪」の強行成立等で、安倍政権の内閣支持率は軒なみ落ちている。そこに稲田の「自衛隊としてもお願いしたい」発言である。東京都議会選挙の結果も見て、かれらは改憲のスケジュールを微調整してくるだろう。

原則を貫く闘いを

 安倍の「『自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば命を守ってくれ』というのはあまりに無責任」という発言。「憲法学者が自衛隊を違憲というから憲法を変えるべきだ」という考え方。安倍の辞書にはないのかもしれないが、われわれはこれを詭弁、本末転倒という。
 では、日本国憲法の人民主権・基本的人権の尊重・戦争否定と国際協調主義、これを守り、強化・発展させ、この闘いを通して労働者階級の未来、社会主義を実現しようとするわれわれは、安倍の改憲攻撃とどう闘うべきだろうか。
 その眼目として一つだけ、日本国憲法がなぜ生まれたのかをもう一度確認したい。
 いうまでもなく、日本国憲法は、アジアの二〇〇〇万人、日本の三一〇万人という、とてつもない数の犠牲者の上に築かれた。日本人民はこの犠牲と反省の上に、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」「この憲法を確定」したのである。この憲法は、まさにファシズムと日本軍国主義に反対する全世界の労働者人民によって勝ちとられたものなのである。そして、とりわけ九条で「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。②前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と戦争を放棄したのである。
 武力の否定、非暴力の思想(もちろんこれは無抵抗を意味しないし、持続的でむしろいっそうの強靭な意志を要請する)──戦後七〇有余年、これをわれわれはどれだけ体得し、深化させえたか。
 安倍政権下で米国といちだんと癒着を深め、強化される軍事路線。現在、日本は世界七位の軍事力を有し、防衛費は現在GDPの約一%五兆円を超えている。それを自民党の安全保障調査会は、NATО加盟国がトランプの脅しでGDP二%を目標としていることを参考に、大増額を検討している。
 この現実の変革こそが日本人民に求められている。憲法、戦争と平和の問題は抽象的で実感がうすいといわれる。しかし、労働現場で、学園で、生活の場で具体的に独占資本の攻撃と闘うことが、平和につながる。
 われわれの前には、沖縄の、韓国の、人民の果敢で豊かな闘いの実例がある。【広野省三】

(『思想運動』1004号 2017年7月1日号)